木更津市金田地域交流センター「きさてらす」×LIXIL
まちを継ぎ、人々が繋がっていく新たな地域拠点
東京湾アクアラインの着岸地である千葉県木更津市金田は、千葉県の新しい玄関口として、まちの開発が進められています。幹線道路沿いにはアウトレットモールをはじめ大型商業施設が並び、その周辺には新興住宅地が広がる一方で、歴史ある漁港のまちという側面も持っています。充実した環境に東京や神奈川県などからの移住者だけでなく、潮干狩りやショッピングを目的とした来訪者も増加している、今、注目の地域です。その金田地域に木更津市初となる地域交流センターが2019年4月にオープンしました。地域住民と来訪者の交流拠点としての役割や賑わいを創出する取り組みについて、木更津市の中野氏、建築設計者の荒井氏、施設運営管理者の江澤氏にお話を伺いました。
地域を未来へと継ぐ新たな公共施設
——金田地域交流センターの概要を教えてください。
中野氏:千葉県木更津市の金田地域は、東京湾アクアラインの着岸地であり、千葉の玄関口の一つです。当地域は水産業が盛んであり、最近は多様なライフスタイルに応じた住宅地が形成され、三井アウトレットパーク木更津をはじめコストコといった大型商業施設が進出するなど、木更津市の中で最も賑わいを見せていると言っても過言ではない地域になっています。このようにまちが開けてきて、移住者も増加して人口は右肩上がりのうえ、来訪者も多く、ますますの発展が期待されています。
そういった背景の中で、金田地域交流センター「きさてらす」は、旧金田公民館の機能を発展させた地域のコミュニティ拠点として、2019年4月1日にオープンしました。三井アウトレットパーク木更津の目の前、木更津市金田東6丁目に所在し、敷地面積が約5,830m2、建築面積は建物が約1,320m2、延べ面積で約2,580m2の鉄筋コンクリート造3階建になります。
1階が地域交流センターゾーンと行政センターゾーンという区別で、地域交流センターゾーンは、ギャラリースペース、図書コーナー、カフェコーナー等が配置され、利用者の皆さんにくつろいでもらう空間になっています。行政センターゾーンは、金田公民館の機能を引き継ぎ市役所の出張所を併設することにより利用者の利便を図っています。2階・3階は、地域交流センターゾーンとなり、多目的室、調理室、会議室、和室等といった多数の部屋が備わった利用団体の活動拠点となる場所です。また、屋外にはイベントスペースもあり、多様に利用できる複合的な施設となっています。
金田地域交流センター「きさてらす」は、金田の住民のみならず市内外の方にも活用を促しています。今までの公民館は地域に根付いたものですが、地域交流センターは地域以外の方の利用が可能ですので、そういった面も含めてまちの活性化を図れる拠点施設と位置づけています。
まちのゲートとして地域を繋げる
——建物はどのようにデザインされましたか。
荒井氏:金田地域は、歴史のある内房の漁港の拠点です。屋上からまちを見下ろすと一目瞭然ですが、海によって対岸の横浜、川崎、木更津が繋がっていて、橋ができたことで人が往来し、さらに繋がりを深くしています。金田地域交流センター「きさてらす」の西側が旧市街地で歴史のある漁村、大通りから東側が新しいまちで、特にメインストリートには大型商業施設が並んでいる。まちの玄関口であること、また金田の歴史を鑑みた時に、西から東に向かって新しいまちが広がる、まちとまちが繋がる、人と人が繋がることから「“海・まち・ひと・未来”をつなぐ」というコンセプトを立ち上げました。
地元の皆さんが今まで金田公民館でどのような活動をされてきたのか、新しい施設になった時にどんな思いを繋いでいくのかという点を意識調査し、そのうえで、公民館の機能を引き継ぎながら付加していった。都会から流入してくる方々や地元の皆さん、さらに世代間を超えて、さまざまな交流が生まれています。まさしく橋で繋がったような、旧市街地と新しいまちの接点となる未来へのゲートウェイをイメージした建物ができたらいいと考えました。
そこで、建物の西と東をピロティで繋ぎ、また建物の中のどの側にいても、海側と新しいまち側の両方が視覚的に繋がるような仕掛けをしました。このガラス張りの建物の中で活動している人々の生き生きとした姿が外に流出していく。アウトレットパークを訪れる大勢の方々からもその様子が伺えるだけでなく、開かれた施設として来訪者にも金田地域交流センター「きさてらす」に立ち寄ってもらう。この場所から漁港、東京湾アクアライン金田インターチェンジまで共に1.2kmの距離にあり、建物の西側には大型の公園ができる予定ですから、ここを拠点に漁港まで散策して、道すがら金田のこと、木更津のことを知ってもらえればと施設の配置を計画しました。
建設にあたっては、「世代間交流を促す施設」「情報発信拠点」「地域防災拠点」「行政センター機能を持つ施設」を施設計画の方針に掲げて、地域の景観との調和や自然環境への配慮、ユニバーサルデザイン、コスト低減に対応しながら進めてきました。
——LIXILのキッチンがあるカフェコーナーや調理室はどのような部屋になっていますか。
荒井氏:昔ながらの公民館をイメージすると、やはりお馴染みの学校の家庭科室のような、先生が教壇の前の四角い調理台に立って生徒にレクチャーするというスタイルだと思います。今は、食べ物に関する情報が溢れています。各家庭でYouTubeなどを見ながら工夫して料理するなど食への関わり方も進んでいます。だとしたら、一方通行の調理室ではなくて、皆さんが対等に、仲間として一緒に語り合って、つくって、食べる、といった交じり合えるかたちにしようと2階の調理室を設けました。そのためには、普段使っているような一般的なキッチンがいい。そこで住宅キッチンで高いシェアを持つLIXILの商品であれば、皆さん使い慣れていますし、IHヒーターやガスコンロ、オーブンレンジなど、家庭のキッチンで考えられるスペックのものを揃えて自由に使っていただける。かつ、部屋の使いまわしも考慮しなくてはいけませんから、大きめのテーブルを並べて、例えば、絵手紙の水彩画でキッチンの水を使う、手練りの粘土工作ができるなど、調理だけに特化せずに多用途に使える構成を考えました。
1階のギャラリーは、自由に立ち寄れる施設を目指して、将来的には来訪者がカフェコーナーのカウンターキッチンで自由にお茶やコーヒーを淹れて憩える交流の場になれば、というのが理想ですね。
この建物はコストの低減を目指していて、空間を豊かにしながらコストは下げるという大前提がありました。コンクリートを多用し、仕上げの種類を少なくすることで、コストを抑えました。カウンターキッチンは、使いやすさを考慮してLIXILのキッチンにカウンターを設えています。全て木製にすると随分とコストが高くなってしまうため、天井の木と白いボードのデザインに合わせて、木のボーダーとコンクリートを組み合わせたデザインとしました。コストの低減を意識した設計ですが、コンクリート一辺倒ではなく木を配することで空間をデザインし優しい雰囲気を演出しています。木更津市は市長が先頭に立ってオーガニックなまちづくりを推進していて、コンクリートの建物とはいえ、なるべく自然な素材を用いるようにしました。また、建築家のフランク・ロイド・ライトが提唱したオーガニックなプランとは、自由に、有機的に空間が繋がる意味合いがありますが、この施設も吹き抜けを中心とした環状動線でいろいろな部屋が有機的に繋がる。西と東、海とまちが繋がる、そういう建物にしたつもりです。
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公開日:2020年10月28日