木更津市金田地域交流センター「きさてらす」×LIXIL
まちを継ぎ、人々が繋がっていく新たな地域拠点
キッチンから生まれるコミュニティ
施設の利用状況を教えてください。
江澤氏:昨年度はオープン一年目で、どういった方々をターゲットにした利用が一番理想的かと考えた時に、金田の地域性として新住民が多いことから、まずは子ども達に向けた企画を多く打ち出しました。子ども達に利用してもらうことによって、親の世代、おじいちゃん・おばあちゃん世代といった繋がりが見えてくる。小学生に情報発信したことで、学校帰りの子ども達が立ち寄ってくれ、迎えにきた親御さんにここでのイベントを知ってもらうきっかけになるなど、だんだんと幅広い層に利用していただけるようになりました。
新しい住民の皆さんは、地域の情報を欲していて、なおかつ新しいもの好きということもあったと思います。「この立派な外観の建物は何だろう」と興味を持って、ふらっと入ってくる。カウンターキッチンのある明るい雰囲気もよかったのか、次から次へと来ていただけた。SNSで情報発信されることは少なかったのですが、口コミで広がっていったようです。一年目の利用者数の目標が8,500人のところ約35,000人もの方にご利用いただき、大変な賑わいをみせていたところでした。ただ、今は新型コロナウイルスの影響で利用を控えざるを得ない状況です。
——カフェコーナーのある1階や2階調理室はさまざまな使われ方がされているようです。
江澤氏:1階では、子ども達が図書コーナーで宿題をしたり、外の芝生で遊んだりしています。開けた空間なので、夏休みの宿題をここでやって、本を見ながら読書感想文も書いていましたね。遊びも学習もできるユーティリティな施設だと感じてます。また、月に一度、まちづくり協議会と協働して「かねだコミュニティカフェ」を開催しています。ボランティアの皆さんがカフェコーナーのカウンターキッチンで挽きたてのコーヒーを淹れて無料で振る舞うという活動です。地域の方がたくさん訪れますので、情報交換や交流の場になります。企業にも協力していただき、子ども向けに前髪の無償カットや高齢者向けに血管年齢の測定などといった企画も催しました。三味線やバイオリンなどの演奏会もあって、さまざまな方にコミュニティカフェに携わっていただき、地域の交流を深めています。
2階の調理室は教室として展開し、子ども向けのお菓子教室や料理教室を開催しています。「英語でキッチン」は、調理室に入った瞬間から日本語禁止ということで、英会話でカレーづくりやパンづくりなどをしました。その際、調理室のテーブルがポイントで、これまでの調理台だと濡れたりして調理以外の作業をするのは難しかったのですが、お菓子やパンが焼き上がるまでの時間にお母さん宛てのメッセージカードを書くなど、中央にたくさんテーブルを設けたことで調理室が多目的に使えています。
まだプレオープンですが、子ども食堂も展開しています。子ども食堂については、いろいろな捉え方があると思いますが、ここでは、小学生が子ども達のために調理をして食事を振る舞うというものです。貧困向けではなく、コミュニティの場として展開することが多く、金田地域独特ですね。小学校に転校してくる子どもが毎月のようにいて、そういった子ども達に学校以外のコミュニティの場を提供できていると思います。
教室以外にも市民の皆さんの利用が可能ですので、よく若い世代のお母さん達がお弁当を持参してママ会を開いたりしています。キッチンや子ども用の椅子の用意があるため、お弁当を温めたり、ミルクのお湯を沸かしたりできて気軽に集えるようです。調理室のキッチンは使い勝手がいいと評判もよく、「我が家にも入れたい」という声も聞かれますね。
人々に寄り添う地域の拠り所
——災害時には避難所としても活用されるようですね。
中野氏:金田地域交流センター「きさてらす」は、市の公共施設の役割として、地域防災の拠点と位置づけています。災害時においては、市の避難所担当職員と指定管理者とで主に金田地域の皆さんの避難所として開設し、管理運営を行い、安全確保に努めています。
昨年9月の台風15号の際は、大雨・暴風がひどくて、木更津市としても今までに経験したことのない被害に見舞われました。ちょうどここがオープン初年度で、避難所としての役割を担えることができました。その点では間に合ってよかったという状況です。避難者は、台風15号の時に31人、台風19号の時には188人でした。台風15号の時は、木更津市で停電が長期間続きました。電気がないと不安ですよね。そういう中で、こちらは発電機を持っていますので、電気がしっかり点いた状態で皆さんに避難していただけました。なおかつ、外が暴風雨でも堅牢な施設内は全く影響がなく気持ち的にも安心されたと感じています。避難所としての役割を果たし、認知度も高まりました。
江澤氏:昨年の台風の場合、自主避難でしたので物資の提供など本来しないことになっています。そのため、調理を行うことはほぼありませんでしたが、別のかたちで1階のキッチンカウンターや2階の調理室を活用できました。当時、この地域では最大1週間程度の停電が続きました。周辺は新興住宅地でオール電化の家が多く、その際、小さなお子さんを抱えたご家庭で水風呂を浴び続けなくてはいけないという状況を把握しました。本来の用途とは異なりますが、キッチンからお湯を提供し、自宅に持ち帰ってお風呂に使ってもらいました。また、台風15号の時には、千葉県旭市のラーメン屋さんがボランティアで来てくださり、調理室のキッチンでカレーや焼きそばをつくって近隣に提供してくれました。学校給食も全て停止になっていて、子ども達はお腹を空かせて帰ってくることが続きましたので、とても喜んでいました。
——これからの公共施設はどのようにあるべきだと思われますか。
荒井氏:状況に応じた使い方を想定しながら建物を設計していますが、金田地域交流センター「きさてらす」については実際、設計側が考えた以上の使われ方をされている。それは、想定以上の使い方が可能な装備や空間構成ができていたということだろうと思っています。
災害の際は、水が使えること、熱源があること、電源が生きていること、これは最低限必要です。調理室を構えている金田地域交流センター「きさてらす」や公民館、保育園のような、小さいお子さんや高齢者に対応できる装備を持った施設が適切ではないでしょうか。これまでのように体育館を避難所とするのであれば、やはり使いやすいトイレや炊き出しのできる水場を設けておく工夫が求められますね。安全な避難ができること、少しでも普段の暮らしに近い生活ができることが大切だと思います。
中野氏:木更津市でもこれまで公民館はありましたが、交流センターという位置づけの施設は金田地域交流センター「きさてらす」が初めてです。引っ越してこられた方が、地域で交流を持ちたいけれど個人ではなかなか難しくても、ここに顔を出せば新旧関係なく知り合える。地域交流センターという名の通り、そういった役割をしっかり果たせている施設だと思います。
初年度の利用者数が約35,000人になりますが、年度末には新型コロナウイルスの影響で利用できなかった時期があっての数字です。フルに活用できればもっと多くの方に利用していただけるでしょう。今年7月から観光協会と契約をしてレンタサイクルもスタートしました。県内外から車で来て、自転車に乗って周辺を散策して、より大勢の方に木更津市金田地域を知っていただきたい。また、避難所としても万全を期すよう努めています。これまでなかった空調関係の自家発電機を整備し、停電時にも空調を運転できるようにしました。使わないのが何よりですが、近年は尋常ではない暑さになっているので、避難された方の体調面に配慮しました。
これからも皆さんが利用しやすい施設としての取り組みを進め、金田地域交流センター「きさてらす」を拠点に賑わいをつくっていきたいと考えています。
木更津市金田地域交流センター「きさてらす」データ
所在地 | 千葉県木更津市金田東6-11-1 |
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施工事業主 | 千葉県木更津市 |
設計・監理 | 有限会社 荒井設計事務所 |
施工 |
建築:日建株式会社 電気設備:株式会社キミデン工業 機械設備:櫻井設備工業株式会社 |
指定管理者 | 三幸株式会社 |
建築面積 | 1,317.47m2 |
延床面積 | 2,576.72m2 |
規模・構造 | 地上3階建て 鉄筋コンクリート造 |
用途 | 集会所(地域交流センター)、事務所(行政センター) |
竣工 | 2019年2月 |
LIXIL使用商品 |
■1F ギャラリースペース キッチン:リシェルSI(間口3,600) ハンズフリー水栓:SF-NB481SX-JG5 カウンター付キャビネット:リシェルSI(間口5,070) ■2F 調理室 キッチン(5セット):シエラ(間口2,400〜2,715) 食器棚:シエラ(間口2,700) ■湯沸室他 キッチン(4セット):ミニキッチン(間口1,200) |
取材・文/フォンテルノ 撮影/株式会社スピカ(人物撮影:シヲバラタク)
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公開日:2020年10月28日