彩の国さいたま芸術劇場
30年目の大規模改修でトイレを一新

語り:洪 斗起(有限会社 香山建築研究所 設計主任)

対比しながら調和させること

これまで担当してきた建物改修は、重要文化財や歴史的建築物が多く、その時代の最良な材料を使っている重厚感のある建物がほとんどでした。改修で新しい材料を取り入れると安価な印象になることが危惧されます。その場合、高価・安価ではない第3の材料を使うというのがセオリーではないかと。それが何かというのはいろいろあると思いますが、例えば石に石を合わせるのではなく、左官材を持ってくるなど以前の材料と喧嘩しないものがいいですね。そうした意味でも、例えばメタリックの錆びた感じのエコカラットがあれば、既存の石と喧嘩しないで馴染むと思います。さまざまなプリントができるエコカラットだからこそ、第3の材料になり得るのではないでしょうか。
歴史的建築物の改修工事で何かを足す場合、香山壽夫先生は「対比しながら調和することが大事」とよく言われます。これは「言うは易く行うは難し」で、なかなかのトレーニングが必要ですが、材料で対比させ、形状で調和させる、またその逆もあります。そのあたりを狙わないとうまくいかないということが、長年の経験からわかってきました。
実は、香山建築研究所は「彩の国さいたま芸術劇場」の設計者選定のコンペに参加するまで、劇場設計は未経験でした。コンペの審査では「未経験だからこそ新しいものが創れるんだ」と主張したそうです。とはいえ、最初の劇場ですからスタッフも含めて相当なチャレンジだったと思います。劇場視察を何度も繰り返し、劇場についてだいぶ熱心に研究をしたそうです。その後、香山建築研究所は全国の劇場を設計し続けています。その意味でもとても大事な建物です。
「彩の国さいたま芸術劇場」が完成したとき、私は建築を学ぶ学生でした。発表された雑誌を見てすぐに現地を見に行き、そのデザイン密度に驚かされたことを今でも覚えています。まさか30年後に改修設計にたずさわることができるとは思いもしませんでした。
事務所の仲間には、ここでやるシェイクスピア・シリーズをすべて観て、主なコンサートは大概聴いているという猛者がいます。私はこれまで演劇にそれほど感心があるほうではありませんでしたが、この建物の改修に携わることで、お芝居を観るようになりました。今後はその経験を新しい劇場づくりに生かしたいと思っています。

市民やスタッフに長く愛される「彩の国さいたま芸術劇場」
市民やスタッフに長く愛される「彩の国さいたま芸術劇場」は、これからも使い続けていくために、設計事務所と共に細やかなチェックを欠かさない

彩の国さいたま芸術劇場 大規模改修工事データ

所在地 埼玉県さいたま市中央区上峰3-15-1
建主 埼玉県
指定管理者 (公財)埼玉県芸術文化振興財団
設計・監理 有限会社 香山建築研究所 
規模・階数 地上4階、地下2階、塔屋1階
敷地面積 18,970.30m2
建築面積 10,720.71 m2
延床面積 23,862.71m2
構造 RC造、SRC造、一部S造
主用途 劇場、多目的ホール
工期 2022年10月〜2023年11月
LIXIL使用商品
■トイレ内装壁
エコカラットプラス:ECP-630/TVT1
■トイレ内装床
トイレ用抗菌床タイル レストールキラミック(ウエット清掃タイプ):IPF-400/RSK-12W、IPF-300/RSK-15W
キラミックステップⅡ(汚垂れ石):IPF-860/STP-2
エコカラット特設サイト
https://www.ecocarat.jp/
エコカラットプラス
https://www.ecocarat.jp/products/ecocarat_plus/
エコカラットプラス ネオトラバーチン
https://www.ecocarat.jp/products/ecocarat_plus/neotravertine.html
エコカラットプラスの機能
https://www.ecocarat.jp/features/
【1994年竣工時の採用タイル】
□建物外装壁
YM-155/G31PZ-73(特注品):濃グレー、YM-155/G34PK-02-4(特注品):淡グレー
□大ホール内装壁
AGC-600/3214(特注品)t=8mm
■彩の国さいたま芸術劇場ウェブサイト
http://www.saf.or.jp/arthall/
■香山建築研究所ウェブサイト
http://kohyama-a.co.jp/

取材・文/フォンテルノ 撮影/エスエス企画

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公開日:2024年09月26日