彩の国さいたま芸術劇場
30年目の大規模改修でトイレを一新
語り:洪 斗起(有限会社 香山建築研究所 設計主任)
彩の国さいたま芸術劇場のトイレの改修について
近年、建築設計におけるトイレの設計は、大きなウエイトを占めるとても重要な部位になっています。特に日本のトイレはおもてなしの心があり、かつ先進的です。新しい建物のトイレを見ると、とても力を入れていることがうかがえます。
この劇場のトイレは30年前のものでありながら決して不自由なトイレではありませんでしたが、やはりアップデートする必要がありました。劇場内の衛生陶器や洗面カウンター周りはすべて取り換えています。ただし、内部の意匠を変えているのはパブリックエリアのみです。それ以外のトイレはそれなりにいい状態でしたので、デザインを継承するという意味でも、あまり手を加えず既存のままとしました。
パブリックエリアにあるトイレはよく利用されることから内装をやり替えて、清潔感と明るさを高めることを目指しました。照明はLEDにし色温度も暖色系にしたことで柔らかな光になりました。トイレ空間の内装材に関しての私の持論は「水回りは無機質材でまとめる」ということです。無機質というと冷たいイメージがありますが、最近のセラミックス材は、温かみや深みのあるものがいろいろ開発されています。
今回採用させていただいたLIXILの「エコカラットプラス ネオトラバーチン」は、汚れにくく、水にも強い。それでいて大理石の質感を表現した自然の風合いがあり決して冷たさを感じさせません。釉薬のかかった艶やかなタイルが水回りの定番でしたが、それよりも温かみがある材料だと思いました。
また、この建物の随所に本物のトラバーチンが使われていることから違和感なく馴染んでくれたので、非常に成功したと思っています。実際、評判も良く、劇場スタッフの女性たちはトイレが明るくきれいになったと喜んでくれています。
最近の日本の駅やサービスエリアのトイレは、外国ではありえない綺麗さです。厳しい目を持つ日本では、なおのことトイレはなおざりにはできませんし、トイレの印象が建物全体の印象を決めてしまうと言っても過言ではありません。
豊富な改修経験から導き出した使いやすい材料のポイント
香山建築研究所でさまざまな改修設計に携わってきました。トイレ改修で、トイレブースの幅や配置を一新する場合は、床に穴をあけ、下階の天井裏で配管やダクトをつなぎ直すなど大掛かりな工事になります。今回はそうした工事は求められていなかったので、トイレ什器の間隔は既存のまま変えることができません。30年前のトイレブースはぎりぎりの寸法で既存の壁をふかすことができないので、壁材は下地なしで貼れるということが理想でした。LIXILのエコカラットは、下地なしで貼れ、わずか7mm厚にもかかわらず重厚感のあるテクスチャーで、空間の表情を変えることができます。しかも大判サイズが可能なので割付デザインが自由で施工もしやすい。エコカラットは以前から注目していましたが、今回採用して大正解でした。劇場らしいグレード感も出せたと思います。
特に「エコカラットプラス ネオトラバーチン」は貼るだけで空間のイメージががらりと変わるので、トイレなどの水回りだけでなく、エントランスホールやラウンジ空間にも使えると思います。LIXILのショールームに行くとさまざまな色や模様があり、デジタルプリントの技術が進んでいるので、可能性は広がりますね。トイレの床材には、トイレ専用の抗菌タイルを色違いで貼っています。
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公開日:2024年09月26日