住宅をエレメントから考える

外を引き寄せる素材──都市的な解像度でタイルの価値を再考する

藤村龍至(建築家)×増田信吾(建築家)

『新建築住宅特集』2022年7月号 掲載

庭とチャボと家

増田信吾+大坪克亘

増田信吾氏と大坪克亘氏が「庭とチャボと家」にタイルを用いたのは、北側22カ所の窓辺。ガラスフィックス窓に繫がる床や壁の一面はタイルで仕上げ、反射光を室内に取り込む。照明はタイルとセットで室内外に配置し、庭も含めた場所全体に照明を計画。

1階から北側を見る。チャボは室内も歩き回り、人とチャボが同居する。北側窓はすべてフィックス窓としており、段々状に組んだ。

素材の魅力の先を考える──増田信吾

今回の企画でタイルを使った「庭とチャボと家」は、都心の狭小地で古くから日本でも愛好されてきたチャボを飼うため、家の中と外の重要性が同等にあることを主なきっかけとして設計している住宅です。チャボは外の居場所も必要とするので、建物と対等に庭を立ち上げたいけれど、ピロティ形式で庭を確保しても、庭の存在が家から遠く別世界になってしまう。だから、庭を抱きかかえていくような立体的なワンルームにすることで、小さいながらに広がりを獲得することを考えました。高所を好むチャボが家の中を歩き回ることも考慮して、寝室、廊下、階段、書斎といった個室を、窓、壁、床、家具、階段、照明といった小さい単位に分解しながら、それらを段々状に組み立てていく住宅です。それらに内外の生活行為が混ざり合って、情報量の多い外の世界が近くなることを目指して、窓辺の面にすべてタイルを使います。今回選んだタイルは、サイズとかたちが4種類展開していて、それを組み合わせていろいろなパターンの窓辺面をつくることができます。このタイルは、釉薬によるムラが出ており風合いがある。原料の土のテクスチャーによって家の中と外がより近い存在に感じるのではないかと思いました。

1階配置平面図(クリックで拡大)

断面図(クリックで拡大)

エレメントを分解し組み立て直す

またこの窓辺面のある、段々状に組み上げた北側の22個の窓は、すべてフィックス窓にしています。別で5つ、大型の換気シャッターを設けて室内側に網戸を設置。南側は玄関と2階水回りをテラスとして使えるように、農機具小屋の吊り戸の付け方で2カ所開きます。藤村さんの「母の家」のリビングにある道に面した窓を、あえて小さなフィックス窓に置き換えた話に共感しつつ、私には以前から慣習的なアルミサッシ引き違い窓をうまく住宅に使えていない感覚があり、庭とチャボと家の関係を設計する時、窓のあり方も分解しようと思いました。同時に、照明にも同様の問題意識をもっていました。今までは深慮を行わず、室内隅々まで明るくするダウンライトを疑うことなく用いていたことを疑問に思うようになっていました。そうした経緯から、開口部や照明のような細かなコンポーネントの収まりを躯体と同じレベルでどこまで再構築できるかを探求することになっていきました。

タイル壁面パターン一覧。ガラス窓22カ所に使用された11のタイル面のパターン。敷地北側に回り込む曇天正午の反射光を基準に、各タイル面の陰影を反転。それをピクセレート化し、4種類のサイズのタイルへ当て込み、ベージュの目地と釉薬ムラの密度を変化させた。(クリックで拡大)

室内の照度は、チャボとの暮らしを考えつつ生活に必要な程度に抑えています。北側の窓に面する内外両側の垂直面や水平面にタイルを配置することで、ぼんやりとした自然光をタイルに反射させ、タイルの見え方が時間により変化していきます。今回選んだタイルをよく観察してみると、タイルの4辺はベージュ色のムラが存在し、大きいタイルよりも小さなタイルの方がムラの割合が顕著に現れることから、面積の同じ小さいタイル同士を組み合わせると、より暗く落ち着きます。そこで、4種類のタイルサイズの組み合わせによるパターンと、目地色を釉薬の色に近いベージュにしてムラを強調しています。ただ同じタイルを敷き詰めるのではなく、明るいところを25㎜角、暗いところを100㎜角、そしてその間を50㎜角と25×125㎜のタイルで繋いだパターンをつくりました。窓辺を光解析した画像をピクセレート化し、階調反転した画像に近づけていくようにそのパターンを配列しました。ガラス側に近づくほど、タイルが小さくなっていき、タイルが反射する光のグラデーショナルな陰影を打ち消します。ある程度均一に光を受ける面でありながら、近づくと小さなタイルが庭や街がもつ情報量に調和する状態になる。壁紙や板材のような面的な素材よりも、タイルの風合いがベージュの目地の色によって具象的になりながらも、光で帳消しになることから抽象度が保たれるのではないか。インテリアとエクステリアをタイル面の解像度とタイル自体の解像度によってバランスでき、そして内外に使えるタイルと照明を同時に考えていくことで、生活行為にとって庭がただの行き来を超えて、より近くならないかと試行中です。

「庭とチャボと家」で用いられた、LIXILのインテリアモザイクタイル美釉彩。それぞれ100㎜角、50㎜角、25mm角、150㎜×25㎜のボーダータイルがある。

室内から景色を見るための窓ではなく、生活行為と庭の存在を近づかせるためのタイルと照明。

建築の設計要素としてのタイル

タイルのもつ個性を、建築が有するべき機能や環境が引き起こす現象と同時に考えて新しい価値を獲得できるか。この視点から見直していくと、タイルは具象性と抽象性を併せもつことができることが分かってきました。
今回の企画でタイルを選ぶにあたり、風合いがある、いくつかのサイズ展開がある、それくらいの読み取りでなんとなくいいなと思い使うことを決めました。そこからこのタイルの個性とつくられ方の背景を知り、建築にどう使うかを考えていく。細かく分解して注視していくと、このタイルが内装外装共に使えることや、照明を簡素にして一緒に考えるとコストバランスも取れたり、タイルのみならずその周りに来る目地や光などについても考えを巡らすことに至りました。そこまできてようやく建築の設計になってきて、この場所での生活を成り立たせていく重要な要素になってくる。これはタイルに限らず、他の素材でも、ただ選び取ってバリエーションの選択のみになってしまうと設計はすぐに終わります。でも、なぜこういう技術があるのか、それをどう解釈できるのか、目の前にあるありふれたものからどんな新しい価値をいかに獲得できるかという視点で物事を提案していかないと、タイルでもほかの素材でも建築までも、ただの贅沢品になってしまいます。今やっとタイルを自覚的に貼るということに辿りつけそうな気がしています。何かを設計するということは、都市やその外の世界へ繋がり、もっと広がる可能性に溢れていると改めて実感しました。

(2022年5月16日「母の家」にて インタビュー文責:新建築住宅特集編集部)

「タイル名称統一100周年記念プロジェクト」
LIXILは応援します。

1922年東京・上野で開催された「平和記念東京博覧会」において全国タイル業者大会で、敷瓦・腰瓦・張付煉瓦・化粧煉瓦・タイルなどさまざまに呼ばれていた建築装飾材の名称が〈タイル〉に統一されました。今年2022年4月12日(タイルの日)に100周年を迎えました。

タイルの起源は、古代エジプトのピラミッド地下空間の装飾にあります。焼きもののもつ装飾性に加え、建物の壁や床を保護する機能性の価値も認められ建築装飾材として世界各地に広まっていきました。588年頃、仏教建築と共に伝来した瓦や塼は、中国の製造技術をもとに日本初の本格的な寺院、飛鳥寺が建立され、建材として用いられた瓦が日本におけるタイルのルーツだといわれています。その後、西洋文化が流入する明治期以降、西洋建築に用いられたタイルや煉瓦、テラコッタの建築装飾材に学び、日本独自のタイル文化が花開しました。
LIXILは、日本のタイル文化の一翼を担うものとして、先人たちに敬意を払い、 また、すべての関係者の方がたへの感謝を込めて、全国タイル工業組合が主催する「タイル名称統一100周年記念プロジェクト」を応援すると共に、これからもタイルの未来を考えていきます。

①:「帝国ホテル旧本館(ライト館)」 のスダレ煉瓦(スクラッチタイル)、黄色い煉瓦の表面を引っ掻いたスクラッチ模様。
②:「伊奈のタイル」カタログ、岡本太郎も使ったアートモザイクタイル。

全国タイル工業組合「タイル名称統一100周年記念プロジェクト」サイト
https://touchthetiles.jp/

LIXILタイル名称統一100周年スペシャルサイト
https://www.lixil.co.jp/lineup/tile/designers_tile_lab/

〈展覧会〉

タイル名称統一100周年記念 巡回企画展
「日本のタイル100年――美と用のあゆみ」

会期:2022年4月9日(土)~ 8月30日(火)
会場:INAXライブミュージアム「土・どろんこ館」企画展示室
企画:INAXライブミュージアム
多治見市モザイクタイルミュージアム
江戸東京たてもの園
監修:藤森照信 (建築史家、建築家)
https://livingculture.lixil.com/ilm/

雑誌記事転載
『新建築住宅特集』2022年7月号 掲載
https://japan-architect.co.jp/shop/jutakutokushu/jt-202207/

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公開日:2022年08月24日