金沢市第二本庁舎×LIXIL
歴史を“今”に継承する開かれた公共空間
喜多孝之、山越栄一(株式会社五井建築研究所)
加賀藩前田家の城下町として栄えた金沢。天正11年(1598)より約430年にわたり災害や戦災をまぬがれ、藩政期の遺構や歴史的な建造物が数多く残されています。一方で、「金沢21世紀美術館」や「JR金沢駅(鼓門・もてなしドーム」など、歴史を継承しながら新しい文化を取り入れ、新旧が融合した美しいまち並みを形成しています。金沢市では、旧金沢市役所南庁舎が老朽化したことや、現庁舎が手狭になっていることに伴い、金沢市役所南庁舎跡地に金沢市役所第二本庁舎を計画。2020年3月、金沢ならではの地域特性を活かした開放的な庁舎が完成しました。今回は設計を担当された株式会社五井建築研究所の喜多孝之氏と山越栄一氏にお話しを伺いました。
歴史的意匠性と機能性を併せ持つ新しい施設
──金沢市第二本庁舎計画について教えてください。
【喜多氏】金沢市第二本庁舎(以下、第二本庁舎)は、金沢市中心部の南庁舎敷地跡に計画され、公募型プロポーザルにより弊社が選定されました。2021年2月に他界した弊社の前会長・西川英治が当時この物件に取り組んでいて、担当として一緒に携わってきた建築設計室長の山越らと最後まで熱量を注ぎ込んで完成させたという経緯があります。
プロポーザル時点で課題としてテーマがいくつかありました。ひとつ目が、周辺の地域特性を踏まえて第二本庁舎の位置づけやあり方について考えること。2つ目に、敷地全体のゾーニングと配置。そして、施設ゾーニングや平面計画、外観のイメージなどです。
金沢では市民の皆さんが、この地に残る遺構などといった歴史性にとても関心を持っています。そういった土地で建築をするということは我々としても責任を持ってやっていかないといけない。第二本庁舎は、市民の皆さんの声を大切にしながら計画していきました。
【山越氏】ひとつ目のテーマについては、計画地周辺は文化施設が多く、すぐ隣には金沢21世紀美術館、目の前には知事公舎など、金沢城下としての建築物が周辺にある歴史的なまち並みの中心部に位置しています。そういった周辺環境との調和を図りながらも公共施設として市民が気軽に立ち寄れるものにしたい。そこで、建物をオープンに開放できる構えとすることを提案しました。
2つ目のテーマは「いまあるものを活かす」計画です。以前はこの場所に南庁舎があり、桜やイチョウ、ケヤキなど大変立派な巨木が植えられていました。おそらく100年以上経っている大木です。全て新しいものに変えるのではなく、歴史性をつないでいこうと、現在も第二本庁舎の前庭には、移植せずにかつての姿のままで樹木を残しました。
【喜多氏】金沢市は「緑のまち」と言われています。第二本庁舎向いには知事公舎があり、その庭との連続性。周辺にある旧県庁舎の文化施設「石川県政記念しいのき迎賓館」はその名の通り樹齢約300年のシイノキが正面に2本並んでいます。そういった所や兼六園、金沢城址周辺と緑がずっと連なっている。それらとつながっている第二本庁舎にも緑が途切れることなく連続させようと考えました。
──歴史ある地域の特性を活かした施設になっているそうですね。
【山越氏】歴史的文化ゾーンの中心地に位置する公共建築物として、憩いの場、情報交換の場となるよう市民が気軽に立ち寄れる開かれた庁舎を目指しました。第二本庁舎のファサードは曲線を描いていますが、両方向から人々を迎え入れる形を表現しています。
そういったことから配置計画は形づくられていきました。現在の敷地は、南庁舎と公用車駐車の間にあった市道を廃止し、敷地西側に振り替える形で一体化したものです。かつて敷地中央を通っていた市道は、江戸時代から存在する歴史ある地域の生活道路です。金沢市の道路は古地図と現在の地図と重ねてもほとんど同じです。藩政期時代からのものなので、区画整理などで変えてしまうと昔の通りではなくなってしまう。そこで今回、歴史と記憶を継承し、東西を結ぶ新たな生活道路として遊歩道を整備しました。
【喜多氏】施設周辺は低層住宅が広がっていて、高層の建物だと圧迫感を与えるので、できるだけボリュームを抑えるよう工夫しました。地上3階地下1階の建物ですが、単に地上3階のボリュームを見せるのではなく、2階屋根部分に大きな庇を廻して3階部分を分節化しました。下から見上げると3階部分が見えない、2階建てのような形にして圧迫感を抑えて、周辺環境に調和するよう配慮しています。
また、雪国ということで庇下の空間をつくっています。金沢駅前にもガラス張りの「鼓門(つづみもん)・もてなしドーム」がありますが、それも雪国・金沢ならではの屋外の軒下空間になります。冬場に雪や雨が降る地域なので、軒下は濡れずに歩行できる思いやりの空間になりますね。
【山越氏】前面道路に面した建物の外側にかけた庇は、施設へのアプローチ動線であると共に、雨天時に市民が通り抜けられる迂回路としても利用できるようになっています。
【喜多氏】前庭に面したエントランスホールは、市民に開放できるロビーとしました。人々が行き交う流れの中で自然と入っていけるような居心地のよい空間にしたい。先代の西川にそういった強い思いがあって、このロビーをつくりました。エントランスホールのカーテンウォールの一部はフルオープンの回転ガラス扉になっていて、ロビーと前庭を一体的に活用できます。開放的で眺めも良く、実際、さまざまなイベントに使われるだけでなく、お昼には庭を眺めながらランチをする方などもいらっしゃるようです。
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公開日:2022年03月23日