金沢市第二本庁舎×LIXIL

歴史を“今”に継承する開かれた公共空間

喜多孝之、山越栄一(株式会社五井建築研究所)

金沢伝統の格子「木虫籠(きむすこ)」をデザインしたルーバー

ファサード一面に設置されたテラコッタルーバー
ファサード一面に設置されたテラコッタルーバー。木虫籠を連想させるデザインと日除けを兼ね備えたやきものとアルミによる格子ルーバーになっている

──ファサードにはテラコッタルーバーが曲線を描いて設置されています。

東山ひがし伝統的建造物群保存地区のひがし茶屋街
東山ひがし伝統的建造物群保存地区のひがし茶屋街。今も金沢の町屋特有の格子「木虫籠」が残っている(写真提供:金沢市)

【喜多氏】エントランスホールは、東側に面した2層吹き抜けの空間になります。居心地のよいロビーをつくるには直射日光はきついので、和らいだ光を入れるためルーバーをつけることになりました。
金沢のまちには「木虫籠(きむすこ)」という伝統的な格子があります。外からは見えにくくて、中からは外側が見えやすい細い台形の格子です。木虫籠の形状をそのまま用いると日射を抑制しにくくなるため、金沢伝統の意匠をモチーフとした木色(もくじき)のテラコッタルーバーを採用しました。

【山越氏】日が昇るにつれて日差しの角度がどんどん変わってきます。開庁9時前に日射があると、そこから空調をかけてもなかなか効かないので、午前中の朝日をできる限り防ぎたい。エントランスホールの空調熱負荷軽減ができるようにルーバーの角度を決めています。各ルーバーのピッチと角度を柱のスパン毎に少しずつ変えました。

【喜多氏】シミュレーションソフトで一日のうちで影がどのように出るか計測したうえでやっています。

【山越氏】一番日差しの強い時期、7月から9月の午前中の日射条件を基にシミュレーションしました。ルーバーの角度を入れてエントランスロビーに影がどれくらい出るのか、設計時だけでなく施工時にもルーバーの形状から寸法などを入れ直して再確認し、細かく調整しています。ルーバーの角度は15°ずつ変えていますが、光が入りやすいところはピッチを細かくしています。段々とルーバーの角度が起きてくると間隔が空くので、それを詰めることで日射を防げる。図面の410、417といった数字はピッチを指しています。位置によってピッチが変わってくるということです。

【喜多氏】テラコッタルーバー自体が結構、高価なものなので機能的でないと市民の納得を得られない。徹底的にシミュレーションをして、きちんと根拠を出して意匠と機能を兼ね備えたルーバーをつくり上げました。

柱のない空間
日影シミュレーションによりルーバーの角度とピッチを細かく調整し、日射を抑制している
サッシフレーム
テラコッタルーバーの設置角度とピッチの検討(提供:五井建築研究所) [クリックして拡大]
日影シミュレーション動画

──テラコッタルーバーはLIXILの特注品ですね。

【山越氏】焼き物のルーバーは西川の案です。当初は自然なものを取り入れて天然木にしようと考えていたのですが、公共建築ということで長い目で見た時にメンテナンスを含めて木材は難しいとなった。そこで、土を使った焼き物が雰囲気に合うのではないかということで、この計画がスタートしました。

【山越氏】テラコッタルーバーについては、実施設計時からLIXIL担当者と形状について相談していました。やり取りしている中で、エントランスホールが真東に向いているために、ある程度幅がほしいとなった。ただ、製品的に1枚で広い幅をつくれないため、2枚の羽根を合わせたような形状で設置することで日射抑制できる幅を出しました。さらに、軽量化のためにテラコッタルーバーを空洞にして、接続のための下地材を隠せる断面形状を考えていき、最終的に先端を細くした形状ができあがりました。

【喜多氏】あとは重量の問題もあったため、LIXILさんには工夫していただきました。

【山越氏】ルーバーは、カーテンウォールがあってその庇の先端、建物外側についています。内側よりも外のほうが、日射抑制が効きますが、ルーバーを庇からつり下げているため荷重を上部で受けることになります。また、庇本体の柱はカーテンウォールの内側にあって、庇の片持ち梁の先端につく形です。できる限り荷重を軽くしたいことから、通常、鉄骨のH型材を使っているところをアルミの芯材にして軽量化と強度を保つことに成功しました。
LIXIL内でもなかなか苦労されたと聞いています。断面が均一でない特殊な形状から焼きムラが起きやすく、反りや割れができるといった中で、最終的には中空にするとことで軽さも出せ、均一な厚みで焼き上がり時に大きな狂いがない仕上がりになったようです。

【喜多氏】私たちの感覚では、焼き物なのである程度収縮してしまうイメージがありましたが、職人さんの腕がいいのでしょう、幅があるものでよくこんな大きなものができたと感心しています。鉄骨で固定するものなので、狂いがあると設置できません。これはやはりLIXILの技術力の高さだと思います。

テラコッタルーバーの断面形状
テラコッタルーバーの断面形状。2枚組み合わせることで広い幅を持たせた。テラコッタルーバーの先端を細く空洞にし、芯材にアルミを用いることで軽量化を図った
テラコッタルーバー断面図
テラコッタルーバー断面図(提供:株式会社五井建築研究所) [クリックして拡大]

【山越氏】ルーバーは縦に5分割になっていて、長さ1.2mのものをジョイントして1本の長いものに仕上げています。近くで見ると多少のズレはありますが、ほとんど分からないですね。

【喜多氏】タイルの特注品でこれだけ安定して直線を出すのは、かなり難しいと思います。

【山越氏】意匠的には、先代の西川から「均一ではなく焼きムラがあったほうが焼き物らしい」と言われていて、今回もむしろ焼きムラができなかとLIXILにリクエストしました。LIXILとしては均一な品の生産を目標としてやっている中で、逆に焼きムラをつくるほうが大変でしょう。精度を要求しながらも不揃いにして自然な風合いが欲しいという、その辺の加減が難しかったと思います。焼きムラを出しているので、並べた時にあまりにも色合いが違い過ぎると、また自然な感じに見えない。そこで、実際に西川が常滑へ足を運び、工場の敷地内にテラコッタルーバーを並べて色合いの確認をさせていただきました。その配置でテラコッタルーバーに番号を付けて搬入し、その通りに設置するというようなこともしています。

【喜多氏】均一になり過ぎると焼き物の素朴さが出ないので、人を寄せ付けない冷たい建物ではなく、少し変形していても柔らかい雰囲気がタイルから表れていると人が近づきやすくなると思います。このような大きなテラコッタルーバーを扱ったのは初めてのことです。当初、この話を聞いた時はできるのかと思いましたが、本当に上手くやっていただきました。

テラコッタルーバー
テラコッタルーバーは長さ1.2mを5枚つなげて1本に仕上げた。焼きムラを出すことで自然な風合いを演出

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公開日:2022年03月23日