地域活性化の拠点を担うコミュニティホテル「松本十帖」
岩佐十良(株式会社自遊人代表取締役)×SUPPOSE DESIGN OFFICE Co., Ltd.
平成に建てられた建物の記憶を残したリノベーション
———「松本十帖」の2つの宿・松本本箱と小柳の建物についてお聞かせください
岩佐氏:敷地内の2つのホテル、松本本箱と小柳の建物はまったく違うリノベーションの仕方をしています。松本本箱をスケルトンの状態にまで解体したら、とてもいい空間が出てきました。平成築のいい要素も残っているし、壊した記憶も残っている。そこで松本本箱は素材感や壊した時の“記憶”をテーマにしました。スケルトンの段階でサポーズデザインオフィスの皆さんにご覧いただき、何を残すかの議論をした結果、躯体をそのまま残すことにしました。RC壁やデッキプレートが露出して本当にいいのかと、サポーズデザインオフィスの谷尻誠さんや吉田愛さんから何度か聞かれたのですが、私はそれでいいと。接着のボンドの跡もいいじゃないかというお話をしました。
商業施設や飲食店では躯体むき出しの露出でもいいのですが、ホテルは宿泊施設なので“清潔感”がすごく重要です。躯体を露出させる場所と、内装材で覆う場所について細かく調整しました。
もうひとつの宿泊棟である小柳は、一度スケルトンにしたものを全部ボードで覆って左官で仕上げています。松本本箱のような空間が私は好きですが、素材やデザインに必ずしも皆さん興味を持っているわけではないので、東棟の小柳は安心して過ごしていただけるように自社でデザインしました。
———サポーズデザインオフィスが松本本箱のデザインを担当されましたね。素材感と清潔感のバランスやインテリアデザインついてお聞かせください。
岩竹氏:清潔感と躯体の荒々しさのバランスは本当に難しかったですね。素足で歩く場所や素手で触る場所は清潔かつ安全であるべきだろうということで、職人の手が残るような素材感を残しつつも清潔感のある仕上げになるよう調整しました。
宿泊施設の多くは、リビングルームやベッドルームと、トイレ・風呂などの水回りは基本的にセパレートされています。ここでは全室露天風呂付という条件クリアするために、テラスを広く取り露天風呂を設けているので、その分水回りがリビングルームに取り込まれるような形にしました。日本間のように障子ひとつで空間の使い方が変化する、そういう空間です。例えばこの特別室の写真では、正面奥に水回りがあり、手前にベッドルームとリビングルームがありますが、障子を開け閉めすることでセパレートされたり一続きの大きな空間なったりします。長期滞在のお客さまを視野に入れているので、多様な使い方ができる客室を考えました。
岩佐氏:こちらのスイートルームは、以前の特別室に隣の部屋を足して一部屋120m2を超える間取りになっています。水回りだけで客室ひとつ分の広さがある。平成のバブル期に建てた旅館ですから、基準客室が50m2と広いんですね。角部屋は全てスイートルームにして、長期滞在を想定して広めのキッチンとシンク、IH、換気扇も付けました。また、松本は冬場相当寒いですから、これだけの空間を快適にするために、開口部はすべてペアガラスや真空ガラスにするなど断熱に関しては相当力を入れています。
清潔感とデザインの美しさを求めた水回りの機器
———松本本箱のトイレや洗面などの水回りのデザインについてお聞かせください。
岩竹氏:昨今はユニバーサルデザインが当たり前になっています。ここでも誰もが使いやすいということを意識してデザインしました。例えばスタンダードタイプの客室では、テラス入口の壁側に設置した洗面台は、長く伸ばしてデスクと一体にデザインしています。デスクワークしながら同じ台でコーヒーを淹れることもできるよう、機能面も考慮しています。
洗面ボウルに関しては、シンプルな四角いデザインのものをセットしました。この洗面ボウルを選んだポイントは、排水溝のポップアップする蓋がステンレスカラーではなく、洗面ボウルと同じ白い陶器だったことです。部屋の中に水回りが出てくる場合は、あまり洗面っぽくなく、インテリアとして美しいものにしたかったというのがあります。実際この部屋に泊まらせていただきましたが、大きな洗面ボウルは本当に使いやすいですね。
トイレは清潔感をうまく表現できるアイテムだと思います。ここでは水アカや汚れを落としやすい“アクアセラミック”の便器を入れています。ホテルでは前のお客様のチェックアウトから次のお客様のチェックインまでの時間が短い場合が多く、メンテナンスにかける時間や労力をなるべく少なくすることが重要です。そういった観点で、スタンダードタイプの客室にはLIXILの「プレアスLSタイプ」、スイートルームにはタンクレストイレの「サティスSタイプ」を採用しました。
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公開日:2021年04月21日