住宅のユーティリティ再考
3組の建築家が考えるこれからの水回り
浅子佳英(建築家、進行)× 増田信吾(建築家)× 村山徹(建築家)
『新建築住宅特集』2016年9月号 掲載
浅子:
僕の提案は「無計画な家」です。ユーティリティは給排水というインフラに文字通り直結しているので、家具などのように簡単に動かすのが難しいことがあたりまえです。設計においても水回りの位置がプランを最も限定するし、仮に後から動かすとなるとかなりの費用もかかります。しかし、近年住戸内の配管には、一般的な固い塩化ビニル管ではなく、やわらかい架橋ポリエチレン管が使われるようになり、すでに床下ではフレキシブルに動かせるようになってきました。さらに継手に洗濯機の配管に使われる止水弁付きのものを使い、床上に配管を持ってくれば、技術的にはすでにフリーにすることは可能でしょう。そこで、もし今までの前提を取り払いユーティリティを自由に動かすことができれば、家族形態が変わったり、SOHOなど別用途として使いたい時や介護をする時などにも、住宅は人の生活に寄り添える存在になります。ユーティリティをユーザーが好きなようにレイアウトし、環境の変化に合わせて住宅を自分の適切な状態にチューニングしていく、これまでの住宅と住まい手の関係を変えていく提案です。
「これからの水回り」提案3
動くユーティリティによる住宅と住まい手の新しい関係
無計画な家
タカバンスタジオ
すべての部屋に給水・給湯栓と排水溝を用意する。床はすべて防水コンクリートとし、水勾配をつける。たったこれだけのことで水回りは劇的に変化する。浴槽やキッチンは模様替えでもするように簡単に動かせるようになり、外でお風呂に入ったり、テラスでバーベキューしたりと、その日の天気や気分によってさまざまな使い方ができるようになる。さらに、すべての部屋が水回りにもなるこの家は、内部と外部の仕上げの差がないために、窓を外してしまえばそ の部屋はテラスに変わり、内部と外部の境界もユーザーの手によって自由にカスタマイズできる。一部屋をオフィスやショップにしてSOHOや店舗兼住宅としたり、家族の変化に合わせて、1階をトイレとミニキッチンを設けた介護用の部屋として二世帯住宅にしたり、子供が成長すれば部屋ごとに貸し出してシェアハウスにしたりすることもできるだろうし、夏期には積極的に開放し、半外部のように使用したり、冬期は閉じて温室のようにしたり、夏の暑い日に屋 上で水浴びすれば放射冷却で夜間には快適に過ごすこともできるだろう。プログラムの変化のような数年単位の時間、季節の変化のような一年単位の時間、昼夜の変化のような一日単位の時間など、さまざまな時間の変化にその都度寄り添い、どこにどの機能をレイアウトするかという、これまで住宅を縛っていた計画(プランニング)の拘束から逃れ、家全体をより自由で適当に使うことができるようになる。
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公開日:2017年04月30日