住宅のユーティリティ再考

3組の建築家が考えるこれからの水回り

浅子佳英(建築家、進行)× 増田信吾(建築家)× 村山徹(建築家)

『新建築住宅特集』2016年9月号 掲載

村山:

僕たちは、ユーティリティの広さとプランの関係のスタディを行いました。前号の浅子さんのリサーチでは、居室とユーティリティをいかに切り分けるか、ということに主題が置かれていました。これは前段として、居室とユーティリティに主従関係があることを意味しているともいえます。そこで主従関係を取っ払うことで、ユーティリティとも居室とも呼べる部屋ができたら何かが変わるのではと考えました。まず、ユーティリティをバスルーム・トイレ・キッチンの3つに分け、2帖から徐々に大きくしていくとプランにどのような変化が現れるかをスタディしました。ちょうど居室の機能とユーティリティの機能が1対1になる大きさを探った結果、7.5帖あたりがどうもそのラインだと分かりました。それ以降になると、居室部分が大きくなっていき、徐々にユーティリティが空間を間仕切りはじめ、最初の問題に逆戻りします。そして最終的に7.5帖の部屋を3つ繋げた家をいくつか集めた戸建ての集合体を描きました。

「これからの水回り」提案2
7.5帖のユーティリティが新しい生活の風景を創造する

3つのユーティリティの家

村山徹+加藤亜矢子/ムトカ建築事務所

住宅の機能を還元していくと、バスルーム、トイレ、キッチンといったユーティリティだけが残る。ということは、つまり、ユーティリティさえあれば住宅が住宅として成立するとも言えるだろう。この仮説をもとに、バスルーム、トイレ、キッチンという3つのユーティリティだけでできている住宅を考えてみる。
まずは3つの部屋のサイズのスタディを行う。最小限のサイズから徐々に部屋を大きくしてみる。はじめはユーティリティの機能しかなかった空間が、大きくなるにつれて別の活動の余白が生まれ、居室としての機能が肥大化していく。分岐点となったのは7.5帖のあたり。ここでは、ユーティリティと居室が1:1の割合で共存し、どちらとも呼べない部屋が生まれている。バスルームで寝たり、トイレで本を読んだり、キッチンでくつろいだりと、これまでとは少し違った住宅の姿と生活の風景が想像できる。
次に3つのユーティリティだけでできている住宅の集合体をイメージしてみる。7.5帖の部屋を3つ繋げ、異なる天井高さを与えた平屋。基本的には3つとも同じ7.5帖とするが、キッチンだけが15帖ある家や、バスルームだけが20帖ある家もある。生活の行為がシームレスに連続していくこの住宅は、高齢者の住宅にも適しているだろう。さらには、生活と仕事がシームレスに繋がる職住一体の住宅にも合うかもしれない。
ユーティリティを中心に住宅を考えた結果生まれた「3つのユーティリティの家」は、これまでにない新たな住宅の風景を想像させるスタディとなった。

3つのユーティリティだけでできた住宅の集合体。生活の行為がシームレスに連続するこの住宅では、ヒートショックが軽減され、高齢者にとっても住みやすい環境となっている。

このコラムの関連キーワード

公開日:2017年04月30日