災害時のトイレ計画(3)
災害時トイレの利用ルールを制定し、それを運用する人づくりを並行する
はじめに
避難所生活のために用意した災害時トイレを効果的かつ効率的に活用するためには、ルールをあらかじめ制定し、そのルールに基づいて運営することが重要です。
これまで2回のコラムでは、災害時のトイレ計画として災害時トイレの装備の考え方について紹介しましたが、今回は利用のためのルールの制定の考え方と災害時トイレのみに限定し実施した防災授業・防災訓練をケーススタディーとして紹介します。
1. 利用ルールの制定の考え方
運営のために制定する項目は、災害時トイレを使用する建物やグランドなどの安全性の確認、備蓄品の運搬と組み立て、使用方法の伝達、清掃対応、汚物処理方法など多岐にわたります。
特に全避難者の35~40%を占めると推定する要配慮者と援護が必要な外国人へ対応する利用ルールは重要です。
① 要配慮者への公正な対応
例えば、車いす利用者は、まず間違いなく仮設トイレ(建築現場などで利用されるタイプ)を使用することはできないでしょう。入り口の段差あるいは室内の動作スペースに制約がある点がその原因です。介助があれば可能性はゼロではありませんが、本人、介助者とも大変な思いをして使用することになります。
要配慮者が容易に利用できるようにするためには、段差の解消や手すりの設置などの整備はもちろんですが、アクセシビリティを確保することが重要です。ここで言うアクセシビリティとは、用意した複数の災害時トイレの各々において利用できる条件を明確にすることを意味します。図に例示するようなルールが必要です。
なぜならば、個々の属性が災害時トイレを使用する機会に対して障壁になることが明らかであるからです。例えば、肢体に障がいを持つ方が、健常者と「よーいドン」でトイレに向かうとします。健常者が先着するでしょうから、これでは同じアクセシビリティが確保できているとはいえません。
ではどう考え、対応するか。前述の通り、各々の災害時トイレに対してその特長を勘案し、利用できる条件を明らかにすることです。具体的には、健常者は仮設トイレのみを使用してレジリエンストイレは使用禁止にする。逆にレジリエンストイレの利用者条件は要配慮者のみに限定すると言った内容です。
健常者であれば、トイレ入り口の多少の段差や動作スペースの制約があったとしても用を足すことは可能です。実際、屋外イベントに用意される仮設トイレを利用している現実がありますので、緊急事態下でも問題にならないと考えます。
このように、同じアクセシビリティを確保して公正さを担保することが、避難所を正常に運用することに繋がります。
一方で、このような使用制限を持つルールに対して「不平等だ」と声を上げる人が現れると思われます。しかしながら、制限を設けアクセシビリティを確保することは重要な事項ですので、この点への理解も重要です。そのためにも、防災訓練などを定期的に開催し、実地の訓練を行うだけではなく、考え方やルールを市民に対して事前に伝える機会とすることが大切です。行動とともに意識を高める機会として用意してください。
② 在留外国人・インバウンドへの対応
写真は北海道胆振東部地震の際、札幌市内の避難所のホワイトボードに掲げられた内容です。道内全体のブラックアウトは記憶に新しいところですが、外国からの旅行者も一時的に避難所生活を余儀なくされました。トイレの場所やトイレはプールの水を使って流すこと、食料や水、宿泊に関連する記述が英文で説明されていました。
もう一枚の写真は熊本地震後に設置された仮設トイレの扉に貼られた使用方法です。写真やイラストも配置し分かりやすさの工夫もあります。但し、日本人の小学生高学年以上であれば理解ができますが、日本語が読めない外国人には不親切だと感じた光景です。
万が一、誤った使い方により汚してしまったり、あるいは汚物により詰まらせてしまったりすると、その解消に時間と労力が必要です。使い方説明を、言葉の壁を作らないためにも写真やイラストのみで説明する、あるいは多言語で表示するなど可能な限り大勢が理解できる予防的な工夫が必要です。
2. 防災授業・防災訓練ケーススタディー/和歌山県田辺市立大坊(おおぼう)小学校
南海トラフ地震による田辺市の最大震度は震度6弱~震度7が予測されています。市内の大坊小学校では耐震性を備えた新校舎の建設にあわせレジリエンストイレを設置しました。そして生徒を対象とした防災授業ならびに地域住民も巻き込んだ防災訓練を行い、災害時のトイレの課題や災害時のトイレの使い方を学びました。
① 防災授業の実施状況
防災授業は、災害の時に避難所のトイレがどうなってしまうのかを学ぶ座学と、断水を想定し実際のトイレを使って代用汚物を流す実習の二部構成で進めました。特に実習はなかなか体験できる内容ではありませんので、興味をもって取り組むことができました。
② 防災授業の託した思いと生徒の反応
防災授業の主目的は、トイレを災害時に適切に使用できるよう学ぶことですが、それだけに留まらず、避難所の運営に積極的に関わるきっかけにして欲しいとの思いを込めました。
防災授業の開催を準備するための先生方との事前打ち合わせにおいて検討し導き出したもう一つの目的です。そして「ジュニアボランティアの育成」を副題として防災授業を実施しました。
生徒の感想文にも、我々が託した思いが伝わったことが読み取れる文節がありますのでご紹介します。
③ 地域を巻き込んだ防災訓練
災害時の避難所の運営主体は市職員、学校長、地域の住民です。生徒の学びだけでは不十分ですので、防災授業と同じ内容を理解する必要があります。そこで市民を含む関係者を対象とした防災訓練も実施しました。
防災授業と同様のカリキュラムに加えて「災害時の避難所トイレのルールについて」と題したグループ討議を行いました。事前防災として準備する備品類、災害時の利用ルールのあるべき姿、運営と役割分担などについて討議し理解を深めました。
まとめ
災害時のトイレ計画は、
- 複数種の災害時トイレを用意し各々の特長を活かした使い方をすることで、避難所における量的充足・質的充足を図る
- 災害時トイレの利用ルールを事前に制定し、それに基づいた教育・訓練を繰り返し行い、災害時の混乱下にあっても運用・管理を確実に進める
を並行して推し進めることが大切です。
南海トラフ巨大地震が発生する懸念はもちろんですが、地震に限らず、毎年のように災害に見舞われています。「備えあれば憂いなし」のことわざ通り、先ずはできることから取り組みを開始し、それを継続することを切にお願いします。
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公開日:2021年02月24日