災害時のトイレ計画(2)

災害時トイレの特徴と準備の際の要件

はじめに

前回のコラム(https://www.biz-lixil.com/column/business_library/toilet017/)では「想定外」が発生した場合でも、トイレの機能が停止することを防ぐために、複数種の災害時トイレを用意する考え方を紹介しました。この用意には避難者の数、避難者の属性(年齢や要配慮者数など)、避難所の条件(設置スペースや汚水を搬送する車両などのアクセス性、洗浄水の調達先の有無など)、災害用トイレを調達するための資金、避難所運営に充てることができる要員の数など様々な情報に基づく総合的な判断が必要です。

今回は、災害時トイレを決定するための拠り所となる災害時トイレの特徴と準備の際の要件について考えていきます。

1. 災害時トイレの特徴の比較

内閣府「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」を参考に災害時トイレの特徴を説明します。

ここ数年の間に発生した熊本地震(2016年4月)、鳥取県中部地震(2016年10月)、大阪北部地震(2018年6月)、北海道胆振東部地震(2018年9月)の各地震では、被災地に赴き、災害時のトイレに関する調査を行いましたので、そこで実際に見聞きしたことも付け加えて紹介します。

① 携帯トイレ

断水の際、洗浄水を全く必要としない点が最大の強みです。その反面、汚れや臭気への対処が必要です。また、使用済みの便袋の保管・回収(ゴミ収集)についてはあらかじめ検討をする必要があります。

熊本地震では、弊社の社員宅も少なからず被害を受けました。断水により自宅のトイレが使えなくなった社員には会社から携帯トイレを支給しましたが、その後の調査では、使用した割合は半数に満たない結果でした。「汚物をゴミとするよりも、トイレの洗浄水を何とか調達して流す方が良い」がその理由でしたので、準備に際してはこの点への留意が必要です。

災害時トイレの種類と留意点について

災害時トイレの種類と留意点について

② 仮設トイレ

主には建設現場などで一時的に使用するトイレであり、災害時の使用は本来の目的から派生した方法です。よって、そのために生じる不自由さは、どうしても仕方ない側面があると思います。しかし、特に物理的な事項(動作空間の寸法、入口の段差・手すりの未装備など)は、要配慮者にとってはトイレにアクセスできない憂慮すべき重要な点です。準備において最大の留意が求められます。

便槽に溜まった汚物を汲み取るためには、バキュームカーが作業できる場所に設置する必要があります。事実、災害時には屋外の通路の近傍(必然的に避難場所からは離れてしまう)に据え付けられるケースが多くなり、特に雨天時や夜間の使いにくさは拭えません。停電が解消せず周囲が暗い場合はなおさらです。

熊本地震の際の避難所(益城町交流情報センター)への仮設トイレの設置状況

熊本地震の際の避難所(益城町交流情報センター)への仮設トイレの設置状況/仮設トイレ15基が設置されていましたが、その場所は施設からやや離れた道路に近い場所であった

夜間も仮設トイレを使用できるよう電池式のLEDライトが後付けで取り付けられていた(熊本地震)

夜間も仮設トイレを使用できるよう電池式のLEDライトが後付けで取り付けられていた(熊本地震)

また、避難所におけるトイレの確保・管理のガイドラインにも示されている通り、仮設トイレが避難所に行き渡るまでには日数を要します。到着までに3日以上を要した地方公共団体は全体の66%にも及びます。熊本地震の際も同様の傾向であり、調達計画の策定においては注意が必要です。

ともすれば使いにくいイメージの仮設トイレですが、国土交通省が進める建設現場の職場環境を改善する動きに連動する形で、快適性や使いやすさの点で進化を遂げ始めています。

③ マンホールトイレ

災害発生時には、備蓄した上屋を組み立て、便座と共に設営し、マンホール内の汚物の搬送水をプールや井戸水などから調達します。そして災害時に円滑に使用するには、事前に組み立て方法や搬送水の流し方などを理解し訓練しておくことが大切です。ある小学校では、マンホールの鉄蓋を開けるための専用治具(マンホールキー)がどこに用意されているか不明であった上、搬送水の流し方も先生方に対して事前に伝達されていないケースに遭遇しました。次号で考えますが、教育・訓練も装備とともに重要な要素です。

使用においては、屋外設置であるため過去の震災時に強風により上屋部分が転倒するケースがありました。要配慮者の使い勝手も含め、安全に安心して使えるように配慮する必要性が明らかになり、国土交通省では「マンホールトイレの整備・運用のためのガイドライン-2018年版-」を平成30年3月に策定し、より一層の普及を目指しています。

ある小学校での体験/漸くマンホールキーを探し出し、鉄蓋を取り外すことができました。災害に備えた訓練の必要性を強く感じます。

ある小学校での体験/漸くマンホールキーを探し出し、鉄蓋を取り外すことができました。災害に備えた訓練の必要性を強く感じます。

レジリエンストイレ

平常時から水洗トイレと使用し、災害により断水が発生した場合でも洗浄水量を5L→1Lに切り替えて普段通り使用できる点が最大の特長です。ただし、マンホールトイレと同様に、洗浄水と搬送水をプールや河川、井戸水などから調達する必要があります。災害時の切り替えは短時間で可能ですので、水が確保できた時点で使い始めることができます。

施設内のトイレとして準備する際、トイレにアプローチするまでの段差の解消、ブース内への手すりの設置などに配慮することで、要配慮者も容易に使用できます。

避難所となる高等学校の体育館のトイレをリニューアルし、レジリエンストイレを設置しました。

避難所となる高等学校の体育館のトイレをリニューアルし、レジリエンストイレを設置しました。

2. 災害時トイレを準備する際の要件について

災害時のトイレを決定するための要件として、避難者数、避難日数、要配慮者などの人数、使用環境などが挙げられます。ここでいう使用環境とは、災害用トイレの設置スペースの有無、下水道の耐震性、バキュームカーによる汲み取り可否、洗浄水の調達の容易性など多岐にわたります。

必要な数量だけを準備するだけでなく質的な観点も忘れず、対応をお願いします。

① 避難者数と避難日数

災害が発生すると多くの避難者が避難施設に殺到します。熊本地震では熊本県だけでも最大で約184,000人が避難したと記録されています(※1)。各避難施設が想定する人数の避難者が、少なくとも数日にわたって避難生活を続ける前提で災害時のトイレの準備が必要です。

繰り返し使用が可能な仮設トイレ、マンホールトイレ、レジリエンストイレなどは、一器具あたりの使用回数から対応可能な人数を算出することができます。

一方、携帯トイレのように使い切りの場合、一人一日あたりのトイレ回数から必要な総数が分かります。避難所におけるトイレの確保・管理のガイドラインでは必要な便袋の枚数は一人あたり5枚となっていますが、これは最低限の数量であり、余裕を持った備蓄が必要です。

② 避難者の属性

避難者の中には高齢者、障がい者、乳幼児など特に配慮を要する方(要配慮者)ならびに災害時に援護が必要な外国人など様々な属性の人がいます。

地域による偏りは当然ありますが、国の各種統計データに基づいて試算すると、要配慮者と援護が必要な人の割合は全体の35~40%を占めることが分かりました。

要配慮者の中には、災害時に使用できるトイレが限定される場合があります。例えば、東日本大震災のある避難所では寝たきりに近いお年寄りを皆で抱え上げてトイレまで運んだ事例があります。避難想定人数を属性毎に細分化し、使用する災害用トイレを決定の上で準備が必要になる重要な指標です。

③ 必要数

避難所におけるトイレの確保・管理のガイドラインでは、トイレの個数の目安が図のように表記されています。同時に過去の災害における仮設トイレの数とその状況やスフィア・プロジェクトによる目安(※2)なども記載されていますのでご確認ください。

災害時に必要なトイレの個数の目安の考え方(避難所におけるトイレの確保・管理のガイドライン)

災害時に必要なトイレの個数の目安の考え方(避難所におけるトイレの確保・管理のガイドライン)

まとめ

災害時のトイレ計画として2回にわたり「災害時トイレの種類と多重性を考慮した準備」と「災害時トイレの特徴と準備する際の要件」について考えてきました。

避難所生活に装備(ハード)することの重要性は言うまでもありません。備えが何らなされていないと有事に対応することは不可能です。そして、それと同じくらい重要なことは避難所の運営を担う人材(ソフト)を育成することです。人材の育成は一朝一夕に成し遂げられる訳ではなく、地道で継続的な活動です。

次号は、レジリエンストイレを設置した学校の防災授業を事例として人材育成について考えて行きたいと思います。

  1. ※1 内閣府「熊本地震の概ね3か月間の対応に関する検証報告書(平成29年3月熊本県)」等の各種資料より作成
  2. ※2 スフィア・プロジェクト人道憲章と人道対応に関する最低基準(2011年版)

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公開日:2021年01月15日