災害時のトイレ事情とあるべき姿
内閣府によると南海トラフ地震による被害はいずれも最大で死者数が32万3千人、経済的被害は国家予算の2倍以上の約215兆円におよぶと試算されています。この甚大な被害想定は、時として防災対策を講じることへの無力感になるかも知れません。しかしその一方できちんと対策を講じれば、その被害を小さくできることも明らかです。
災害とトイレ
災害により上水道が遮断された瞬間、水洗トイレは機能不全に陥ります。2016年に発生した熊本地震でも広範囲にわたり断水に見舞われ、その復旧には時間を要しています※1。この間、トイレで不自由な思いをすることになりました。空腹やのどの渇きは我慢できますが、トイレは我慢できない切実な問題です。災害が発生した際、トイレの問題は「食糧」や「飲料水」の確保とともに重要な課題です。
災害時のトイレの実情
私たちはこれまで、災害のたびごとにトイレの悲惨な状態を目の当たりにしてきました。我慢の限界を超えて使用せざるを得なくなり、断水下であるがために閉塞し糞尿にまみれたトイレ。し尿の汲み取りが追いつかず、便槽が満杯になり使用禁止となった仮設トイレ。ゴミ収集が正常化していないため避難所建物の外で山積みになった使用済みの携帯トイレ。水は確保できたもののバケツを使って汚物を洗い流すことで水浸しなった避難施設内のトイレなど様々です。
阪神・淡路大震災(1995年)時のトイレ※2
災害時の避難生活の質
トイレがあればそれで良いというものではありません。誰もが清潔なトイレを気兼ねなく落ち着いて使いたいと思います。災害の際、トイレは不衛生な状態になりがちです。汚れて使いにくいトイレは敬遠されてしまい、利用回数を減らそうと水分摂取を控えた結果、静脈血栓塞栓症(エコノミークラス症候群)を発症する懸念が言われています。また、トイレの衛生環境の悪化は、避難生活での栄養不足・睡眠不足・体力消耗などと相まって感染症リスクを高めます。災害時のトイレの問題は体調不良だけでなく、時には生死にも関わる重要な課題です。
現状の災害時トイレのソリューション
近年、大災害を幾度となく経験する中、災害用のトイレが数多く開発・販売され、避難生活の質向上に貢献してきました。最大の特徴は断水時でも使える点であり、今もなお進化を続けています。災害用トイレには、備蓄が容易なもの、車椅子利用者に配慮したものなど様々です。しかし実際の使用場面では「準備に時間がかかり、すぐに使えなかった」「使い方が分からなかった」「屋外設置のため安全・安心面で不安があった」などの声があることも事実です。
災害時トイレのあるべき姿
①多重性/複数種の災害時トイレを用意する(ハード)
各々の災害用トイレは決して万能ではありません。ストロングポイントとウィークポイントを有しています。ストロングポイントで、他のウィークポイントを補完し、万が一「想定外」が発生した場合でも、全てのトイレの機能停止を防ぐ必要があります。もちろん経済性を意識する必要がありますが、可能な限り複数個の解を用意することが重要です。
多重性に配慮した学校への災害時トイレの設置イメージ
*レジリエンストイレ商品ページ(https://www.lixil.co.jp/lineup/toilet/resilience/)
②災害時トイレの利用ルールを制定し、それを運用する人づくりも並行する(ソフト)
避難所には様々な特性を持つ多くの避難者が殺到します。健常者は仮設トイレで用を足すことができますが、車椅子利用者は段差などの制約により使うことができません。要配慮者にはバリアフリーに配慮したトイレを優先使用できるルールが必要です。国の統計データから推計すると、要配慮者は全避難者の35~40%を占めます。用意した複数の災害用トイレを以て、避難者の特性に応じた利用時のルールづくりが必要です。そして、制定したルールに基づいて避難所を運営するための人づくりも事前防災として計画する必要があります。
最後に
自然災害の発生を防ぐことはできませんが、事前に備えることで被害を抑えることは可能です。今できる「ベストを尽くす」ことが大切です。
出典
※1 熊本市上下水道局(H30.3)熊本市上下水道事業 熊本地震からの復興記録誌
※2 坂本菜子コンフォートスタイリング研究所
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公開日:2020年08月26日