2021年に向けた省エネ住宅づくり連載コラム(第14回)
省エネ基準の次はZEHにもチャレンジしてみよう![実践編]
~まるわかり解説と建築士の対応方法~
久保田博之 (住宅性能設計コンサルタント・一級建築士、株式会社プレスト建築研究所 代表取締役)
前回のコラムでZEHの基本を説明しましたので、今回は具体的に「LIXIL省エネ住宅シミュレーション」を使ってZEHを設計してみます。ZEHの外皮平均熱貫流率 UA(W/(㎡・K))と一次エネルギー消費量削減率の基準は、平成28年省エネ基準よりも高い性能が求められますので、改めてその基準値を整理してみます。
●外皮平均熱貫流率 UA(W/(㎡・K))の基準
基準 | 地域の区分 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | |
ZEH | 0.40 | 0.50 | 0.60 |
●一次エネルギー消費量削減率の基準
基準 | 太陽光発電設備の 必要有無 |
一次エネルギー消費量削減率 | |
---|---|---|---|
太陽光発電を除く | 太陽光発電等を含む | ||
ZEH | 必要 | 20%以上 | 100%以上 |
なお、ZEHを設計するためのモデル住宅は、東京23区(6地域)を想定した自立循環型住宅モデルを用います。
(自立循環住宅のプランについては第11回コラムをご確認ください。)
ZEHの外皮平均熱貫流率 UAの適合方法
すでに第11回コラムでZEH仕様をつくっており、以下の表がその断熱仕様となっていました。
各部位の断熱仕様
部位 | 仕様 | 厚さ |
---|---|---|
天井 | 敷き込み断熱:高性能グラスウール断熱材 (HG 16-38 熱伝導率λ=0.038W/(m・K)) |
155㎜ |
外壁 | 充填断熱:高性能グラスウール断熱材 (HG 16-38 熱伝導率λ=0.038W/(m・K)) |
100㎜ |
床 | 根太レス床 大引間断熱:押出法ポリスチレンフォーム断熱材 (3種bA 熱伝導率λ=0.028W/(m・K)) |
60㎜ |
基礎 | 玄関は無断熱 浴室と洗面所は内断熱:押出法ポリスチレンフォーム断熱材 (3種bA 熱伝導率λ=0.028W/(m・K)) |
30㎜ |
サッシ | サーモスⅡ-H ガラスはLow-E複層 南面が日射取得型(クリア)、その他の面は日射遮蔽型(グリーン) |
|
ドア | ES玄関ドアK4仕様 |
また、計算方法は「標準計算ルート」、サッシの熱貫流率は「代表試験体・自己適合宣言値」を採用することによって、ZEHの外皮平均熱貫流率 UAの基準値0.60(W/(㎡・K))に適合していました。
ポイントは、サッシの熱貫流率に「代表試験体・自己適合宣言値」を採用していることです。通常、サッシの熱貫流率は「建具とガラスの組み合わせ」を使う場合が多いのですが、「LIXIL省エネ住宅シミュレーション」はLIXILのサッシの「代表試験体値・自己適合宣言値」があらかじめ登録されているため、住宅コスト(サッシの仕様)を変えることなく外皮平均熱貫流率 UAを低くすることができます。これは、ZEHの外皮平均熱貫流率 UAの基準値に適合するためにも、有効なテクニックになるのです。
ZEHの一次エネルギー消費量削減率の適合方法
次に、ZEH基準に適合する住宅設備の選び方を説明します。
暖冷房、換気、給湯そして照明設備の組み合わせを考えて、何通りも計算するのはたいへん手間がかかります。そこで、一般社団法人 環境共創イニシアチブ(略称「SII」)で行っているZEH支援事業の公募要綱の設備基準を参考に各種設備の仕様を選定しましょう。なお、この設備基準はZEH支援事業の公募要件ですので、同制度を利用しないZEHの場合には必須ではありません。
ZEH支援事業(環境共創イニシアチブ)で定められている主な設備の仕様
設備 | 基準 | |
---|---|---|
冷暖房設備 | エアコン | 主たる居室のエアコンは冷房効率区分(い) |
暖房設備 | パネルラジエータ | ①~③のいずれか ①石油またはガス温水式で、潜熱回収型(暖房熱効率87%以上) ②電気ヒートポンプ式(COP3.3以上) ③給湯設備の要件を満たす機器に接続している |
温水式床暖房 | 主たる居室に設置する場合はパネルラジエータの要件と同じ | |
給湯設備 | エコキュート | 年間給湯保温効率・年間給湯効率が3.3以上(寒冷地(1~3地域)は2.7以上) |
エコジョーズ | エネルギー消費効率94%以上(暖房機能を導入する場合の暖房給湯兼用機にあっては93%以上 ) | |
エコフィール | エコジョーズと同じ | |
換気設備 | 熱交換換気 | 温度(顕熱)交換効率65%以上 |
ダクト or 第1種 | 比消費電力0.4W/(㎥/h)以下 | |
上記以外 | 比消費電力0.2W/(㎥/h)以下 | |
照明 | LED照明 | LEDが光源 |
蛍光灯 | インバータータイプで100(lm/W)以上 |
このZEH支援事業の設備基準を参考にして、以下の設備機器で計算してみます。
・冷暖房設備:主たる居室のエアコン 冷房効率区分(い)、その他居室のエアコン 冷房効率区分(い)
・給湯設備:エコキュート 年間給湯保温効率・年間給湯効率3.7、キッチン・タッチレス水栓(手元止水)、洗面・エコハンドル(水優先吐水)、浴室シャワー・サーモ水栓(手元止水+小流量吐水)、浴槽・サーモバス
・換気設備:壁掛け式第3種換気システム → 比消費電力0.2W/(㎥/h)
・照明設備:全ての部屋にLED
・太陽光発電設備:LIXIL「ソーラーラック」南面屋根に5kW搭載
なお、太陽光発電設備や太陽熱利用給湯設備を採用する場合には、年間の日射地域区分の指定が必要です。
年間の日射地域区分とは、日本全国を日射の少ない地域から多い地域までを5地域に分類した地域区分のことです。以下の日本地図をご覧ください。A1からA5になるに従い、日射量が多くなることを表しています。日射量が多い地域は、発電効率が良いため、太陽光発電などを導入するメリットが大きいと言えます。
ちなみに、全国を1地域から8地域までの8つに区分している地域区分とは、異なりますのでご注意ください。
市区町村単位で年間の日射地域区を調べるには、国立研究開発法人建築研究所のサイトからダウンロードできるエクセルの検索シートをご利用ください。
なお、「LIXIL省エネ住宅シミュレーション」は、市区町村名を選択すれば、地域区分と同時に年間日射地域区分も自動で選択されますので、カンタンです。
以上の設備仕様で一次エネルギー消費量計算をした結果、再生可能エネルギー(太陽光発電)除く削減率が33%となり、ZEH基準の20%以上を満たすことができました。また、再生可能エネルギー(太陽光発電)を含めた削減率は115%となり、エネルギー削減率100%以上が基準の『ZEH』を達成することができました。
このように、まずZEH支援事業の設備基準を参考にするのが効率的です。また、あらかじめZEH適合仕様を検討しておけば、物件毎に一部の設備仕様だけを変更すれば、より一層お施主様に満足していただけるZEH提案をカンタンにすることができるのです。
ZEHの設計方法のコツをまとめると、
- 外皮平均熱貫流率 UAの基準に適合させるためには、サッシの熱貫流率に「代表試験体・自己適合宣言値」を採用すること。
- 一次エネルギー消費量削減率の基準に適合させるためには、ZEH支援事業(環境共創イニシアチブ)で定められている設備基準の設備機器を最低基準として選定すること。
- ZEHの検討がしやすく、適合状況も一目でわかる「LIXIL省エネ住宅シミュレーション」を活用すること。
このようにZEHを実現することは決して難しくありません。ぜひ、ZEHにチェレンジしてみませんか!
コラム執筆者紹介
久保田 博之
株式会社プレスト建築研究所 代表取締役 一級建築士(構造設計一級建築士)
木造住宅の温熱環境・構造に関わる設計コンサルタントや一般社団法人 日本ツーバイフォー建築協会等の団体によるセミナー講師を歴任する住宅性能のスペシャリスト。
- ※出典:国立研究開発法人建築研究所,平成28年省エネルギー基準に準拠したエネルギー消費性能の評価に関する技術情報(住宅)次期更新版,補足資料:地域の区分・年間日射地域区分・暖房期の日射地域区分の地図
2021年4月以降に設計を委託された住宅について、物件ごとに省エネ計算を実施し、省エネ基準への適否や対応策をお施主さまに説明することが、建築士の義務になります。新登場の「LIXIL省エネ住宅シミュレーション」は、お施主さまへの説明義務を果たすための説明資料や提案資料、認定・優遇制度の申請時に必要な計算書も、WEB上でのカンタン操作でパッと自動作成できます。
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LIXIL省エネ住宅シミュレーション
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公開日:2020年11月16日