2021年に向けた省エネ住宅づくり連載コラム(第17回)

省エネ性能の説明義務制度のポイントを理解しよう!(その3)
~まるわかり解説と建築士の対応方法~

久保田博之 (住宅性能設計コンサルタント・一級建築士、株式会社プレスト建築研究所 代表取締役)

説明義務制度のポイント解説3回目は、省エネ住宅の設計のポイント解説です。説明方法や計算方法ではありませんが、設計方法をきちんと理解していないと省エネ性能が発揮できない施工になったり合理的な設計をすることができません。改正建築物省エネ法のオンライン講座でも「省エネ住宅の考え方と設計・施工のポイント」の動画があり、説明義務制度と一緒に学習できるようになっています。この動画は、1~3地域版、4~7地域版、8地域版の3つに分かれていて、動画の元となる以下のテキストもダウンロードすることができます。

省エネ住宅の考え方と設計・施工のポイント

省エネ住宅の考え方と設計・施工のポイント
左から 北海道(1~3地域)版、全国(4~7地域)版、沖縄(8地域)版
「住宅省エネルギー技術講習テキスト設計・施工編」、一般社団法人 木を活かす建築推進協議会より引用

しかし、3つの動画全てを視聴すると3時間程度掛かるため、今回はこれらのテキストから、北海道(1~3地域)版と全国(4~7地域)版の設計に関する内容を重要項目に絞ってポイントを解説します。

ポイント
  • Q暖房時にエアコンの設定温度を25℃にしても寒く感じるのはなぜですか?

    A体感温度が低いからです。
    私たちが室内で感じている寒いや暑いといった感覚は、室温だけでなく、壁、床、天井の表面温度の影響も大きく受けています。これを「体感温度」といいます。
    体感温度は、室温と外壁・床・天井などの表面温度の合計の1/2と言われています。そのため、室温を高めても表面温度を高めないと暖かく感じないのです。表面温度を上げるには、住宅の断熱化が必要になります。
    参考までに、断熱性能の低い住宅と高い住宅の冬の室内サーモグラフの例を引用します。※1 断熱性能の低い部屋では、高い部屋に比べて壁面温度が低くなっていることがわかります。この表面温度の低さが、“寒い”と感じる原因です。

    断熱性能の低い部屋、高い部屋

    また、夏にエアコンの設定温度を低くしても暑く感じてしまうのも、天井や外壁が太陽で熱せられて表面温度が高くなっていて体感温度を高めてしまうため生じる現象となります。

  • Qリビングが暖かくても、トイレや洗面脱衣室が寒いです。どうすればよいですか。

    A断熱性能が高い住宅は、暖房していないトイレや洗面脱衣室の室温も高める効果があります。そのため、住宅全体を断熱化して、室内温度のバリアフリー化を図りましょう。
    参考までに、6地域における外気温度0℃でLDKを20℃に暖房したときの各部屋の温度分布を紹介します。※2 住宅の断熱性能が高くなると暖房していない部屋の温度も高くなることがわかります。

    省エネルギー基準レベルの家(UA=0.87相当) 省エネルギー基準レベルの家(UA=0.87相当)
    HEAT20 G2レベルの家(UA=0.46相当) HEAT20 G2レベルの家(UA=0.46相当)
  • Qサッシはどちらの方位に多く配置した方が暖冷房費を安くすることができるのですか?

    A以下のグラフは、断熱仕様は同じで、主要開口部の方位だけを変えた場合の6地域における暖冷房エネルギー消費量を比較しています。主要開口部(窓面積が最も多い壁面)が南の場合に暖冷房一次エネルギー消費量が最も少なくなっていることがわかります。これは、南面からの日射熱を多く取得することによって、暖房エネルギーを削減できる効果があるためです。このように暖房期の日射取得を意識したプランニングを心がけましょう。

    主要開口部の方位別 暖冷房一次エネルギー消費量※3 主要開口部の方位別 暖冷房一次エネルギー消費量※3
  • Q住宅の形状は断熱性能に影響しますか?

    A影響します。同じ床面積で同じ断熱仕様でも外皮面積が大きくなれば、住宅全体での断熱性能は低下します。
    以下の図は、同じ床面積でも外皮面積が異なる例です。左図は総2階建てを、右図は複雑な形状の住宅を想定しています。右図は熱が逃げる外皮面積が約40%大きくなり、熱損失が大きくなってしまいます。そのため、住宅全体で左図と同じ断熱性能を確保するためには、サッシ・ドアや断熱材の性能を高める必要があります。

    建物形状による違い※3建物形状による違い※3
  • Q断熱部位の断面構成は断熱材を入れる以外にどのような注意点がありますか?

    A断熱部位の断面構成の基本的な考え方は、「室内側は室内の水蒸気を侵入にくくする」、「外気側は水蒸気を排出しやすくする」ことです。そのため、室内側には防湿層と気密層が、室外側には通気層と防風層が必要になります。
    なお、繊維系断熱材の場合は断熱材に付加されている防湿フィルムで防湿層と気密層を兼用できたり、ボード状のプラスチック断熱材による外張り断熱工法の場合は断熱材が防風層を兼用することもできますので、それぞれの断熱材の特性を理解する必要があります。

    繊維系断熱材を使用した壁の構成例 繊維系断熱材を使用した壁の構成例※4
  • Q外気側の「通気層」の厚さはどれくらい確保するのですか?

    A外壁は4~8地域では15mm以上、1~3地域では16~18mm程度、屋根は30mm以上を標準とします。

  • Qなぜ外気側には「防風層」が必要なのですか?また具体的にどのような材料を使えば良いのですか?

    A通気層から外部の冷気が断熱材に侵入すると、断熱材内部の温度低下を招くだけでなく、内部結露の原因にもなるため、冷気を侵入させないための防風層が必要となります。一方で、防風層は室内から断熱材に侵入した水蒸気を通気層に排出する機能も必要となるため、防風材は空気を通さずに湿気を通すことができる性能が必要となります。具体的には以下のいずれかの防風材を採用します。

    • 透湿防水シート(JIS A 6111)
    • 合板、シージングボード、MDF、構造用パネル(OSB)など
    • 付加断熱材として使用される発泡プラスチック系断熱材
    • ボード状繊維系断熱材
    • 防湿層付断熱材の外側表皮
  • Qなぜ室内側には「防湿層」が必要なのですか?また具体的にどのような材料を使えば良いのですか?

    A室内の水蒸気が壁体内に侵入するのを防ぐために必要となります。ただし、全ての断熱材で防湿材が必要なのではなく、防湿材が必要となるのは吸湿して性能低下を招く恐れがあるグラスウール、ロックウール、セルローズファイバー等の繊維系断熱材や、吹付硬質ウレタンフォームA種3を使った場合に限ります。防湿材が必要になる場合には以下のいずれかを採用します。

    • 断熱材に付属している防湿フィルム
    • JIS A 6930に規定する住宅用プラスチック系防湿フィルム
    • 材厚15μ(透湿抵抗0.029m²・s・Pa/ng)以上の防湿材
  • Qなぜ室内側には「気密層」が必要なのですか?また具体的にどのような材料を使えば良いのですか?

    A躯体の隙間より、内外の空気の移動を防ぐために必要です。具体的には以下のいずれかの気密材を採用します。なお、寒冷地の1~3地域では、使えないものがありますのでご注意ください。

    [1~7地域で使える気密材]

    • JIS A 6930に規定する住宅用プラスチック系防湿フィルム
      → 繊維系断熱材による充填断熱工法は、防湿フィルムで気密化を図ります
    • 合板、せっこうボード、構造用パネル(OSB)
      (1~3地域は、床断熱の防湿・気密層、プラスチック系断熱材による外張断熱した場合の気密層としての使用が前提)
    • コンクリート部材
    • 気密テープ、気密パッキン材(気密材の継ぎ目に使う)

    [4~7地域で使える気密材]

    • 透湿防水シート(JIS A 6111)
    • ボード状プラスチック系断熱材、吹付け硬質ウレタンフォーム
    • 木材等
    • 金属部材
  • Qボード状プラスチック系断熱材を使用する外張断熱工法で、防風層・防湿層・気密層の構成方法を教えてください。

    A気密層を連続させることがポイントになります。

    [4~7地域]
    ボード状プラスチック系断熱材は防風材、防湿材、気密材を兼用することができます。ただし、断熱材の継ぎ目については、以下のような断面構成にして気密層を連続させる必要があります。※4

    参考例①参考例①
    参考例②参考例②
    参考例③参考例③

    参考例①:プラスチック系断熱材の継ぎ目に気密テープを貼って気密層を連続させている例。
    参考例②:プラスチック系断熱材を2層構造の気密層として継ぎ目位置をずらして、その継ぎ目に木材を使い気密層を連続させている例。
    参考例③:透湿防水シートで気密層を連続させている例。

    [1~3地域]
    ボード状プラスチック系断熱材は防風材、防湿材を兼用することができますが、気密材を兼用することはできません。そのため、以下のような断面構成にして気密層を確保します。※4 この納まりは4~7地域でも採用することができます。

    参考例④参考例④
    参考例⑤参考例⑤

    参考例④:住宅用プラスチック系防湿フィルムを気密層としている例。
    参考例⑤:外張断熱+構造用合板等を気密層として、構造用合板等の継ぎ目に気密テープを貼って気密層を連続させている例。

いかがでしたでしょうか?省エネ住宅の設計方法をきちんと理解する必要性をご理解頂けたと思います。次回コラムでも引き続き設計のポイントを説明します。

久保田 博之

コラム執筆者紹介

久保田 博之

株式会社プレスト建築研究所 代表取締役 一級建築士(構造設計一級建築士)
木造住宅の温熱環境・構造に関わる設計コンサルタントや一般社団法人 日本ツーバイフォー建築協会等の団体によるセミナー講師を歴任する住宅性能のスペシャリスト。

  1. [出典]
    ※1 健康・快適・省エネな住まいと暮らしのアイディア、LIXILカタログ
    ※2 パッシブファースト+ZEH、LIXILカタログ
    ※3 住宅省エネルギー技術講習テキスト「設計・施工編」、一般社団法人 木を活かす建築推進協議会より引用
    ※4 住宅省エネルギー技術講習テキスト「設計・施工編」、一般社団法人 木を活かす建築推進協議会より引用・追記
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公開日:2021年02月15日