2021年に向けた省エネ住宅づくり連載コラム(第13回)

省エネ基準の次はZEHにもチャレンジしてみよう![基本編]
~まるわかり解説と建築士の対応方法~

久保田博之 (住宅性能設計コンサルタント・一級建築士、株式会社プレスト建築研究所 代表取締役)

第12回までに、省エネ基準の外皮性能と一次エネルギー消費量基準の両方の適合方法を説明してきましたので、次は、より高性能住宅であるZEHに挑戦します。

ZEHという言葉は住宅業界では広く浸透しています。しかし、ZEHロードマップフォローアップ委員会の令和元年度報告※1によると、ZEHの新築注文戸建住宅の年間着工実績は、2016年度で約34,000戸、2017年度で約43,000戸、2018年度で約54,000戸と、毎年約10,000戸ずつ増加しているものの、計画よりも普及が進んでいないことが明らかになりました。その理由として、ZEHの設計技術者が不足していることや、住宅がZEHの要件を満たしていても省エネルギー計算が行われていないなどがあります。

ZEHは決して難しくなく、その設計手法は簡単に習得できますので、さらにジャンプアップしてみましょう。なお、面倒な一次エネルギー消費量計算は「LIXIL省エネ住宅シミュレーション」を使えば作業手間が軽減できますので、2回にわたってZEHの住宅づくりを説明します。今回は基本編、次回は設計実践編です。なお説明するZEHは戸建住宅に限定します。

ZEHとは

ZEHとは、ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(Net Zero Energy House)の略で、“ゼッチ“と読みます。
外皮の断熱性能等を大幅に向上させるとともに、高効率な設備システムの導入により、室内環境の質を維持しつつ大幅な省エネルギーを実現させます。さらに、再生可能エネルギー等を導入することにより、年間の一次エネルギー消費量の収支がゼロまたはマイナスとすることを目指した住宅のことです。ちなみに、建築物の場合にはZEB “ゼブ” (Net Zero Energy Building)といいます。

さて、ここで言う「再生可能エネルギー」とは、非化石エネルギーのうち永続的に利用できるエネルギーのことです。具体的には、太陽光・風力・水力・地熱・太陽熱・大気中の熱その他の自然界に存する熱・バイオマスが該当しますが、当コラムでは、住宅で多く用いられる“太陽光発電設備”を再生可能エネルギーとして説明します。

ZEHのイメージ図 ZEHのイメージ図

ZEHは、2015年12月経済産業省が公表した「ZEHロードマップ」でスタートし、その後ロードマップの改定が行われています。
国はZEHを普及させるべく、平成28年度より、ZEH支援事業(補助金制度)を開始しており、現在、経済産業省に国土交通省と環境省が加わり3省連携で推進しています。ZEH支援事業の具体的内容についてはホームページをご確認ください。

では、『ZEH』にするためにはどのような住宅を作ればよいのでしょうか。具体的な基準は以下の4つで、すべての基準に適合させる必要があります。

1.外皮平均熱貫流率UAの基準は、平成28年基準よりも強化(地域ごとの基準値は後述)
2.太陽光発電設備を導入すること
3.太陽光発電設備を除き、基準一次エネルギー消費量から20%以上のエネルギーを削減すること
4.太陽光発電設備を加えて、基準一次エネルギー消費量から100%以上のエネルギーを削減すること

つまり、躯体の高断熱化と設備の高効率化によって基準一次エネルギー消費量よりも20%以上削減し、さらに、太陽光発電設備を導入することで、正味でゼロエネルギーを目指す住宅のことです。

「正味でゼロエネルギー」とは冒頭の「Net Zero Energy」を日本語に訳した表現です。ZEHでもエアコン、換気、給湯、照明などは化石エネルギー(電力会社から買う電力)を使用しますが、太陽光発電設備でそのエネルギー以上の発電ができる家、ということです。化石エネルギーを必要としない住宅ではない、ということに注意が必要です。

さて、上記の基準の3.と4.の20%以上削減・100%以上削減の意味が分かりにくいため、Webプログラムの出力例を使って説明します。

Webプログラムの出力例

Webプログラムの出力例

[Step1]設計と基準それぞれの一次エネルギー消費量の合計値の計算

その他の設備を除いた、暖房、冷房、換気、給湯そして照明のみの合計値となりますので注意が必要です。

設計一次エネルギー消費量
12,088+5,273+4,583+12,843+5,212=39,999 [MJ] ・・・①設計合計

基準一次エネルギー消費量
13,384+5,634+4,542+25,091+10,763=59,414 [MJ] ・・・②基準合計

[Step2]基準3.の太陽光発電設備を除いた一次エネルギー削減率の計算方法

削減量は、基準から設計を引いて求めます。
②基準合計−①設計合計=59,414[MJ]−39,999[MJ]=19,415 [MJ] ・・・③削減量

一次エネルギー削減率は、基準に対する削減量の割合なので、
③削減量÷②基準合計×100=19,415 [MJ]÷59,414[MJ]×100=32%

この削減率が20%以上になれば適合です。
削減率が20%以上になっていない場合は、住宅の断熱強化やさらなる設備の高効率化を行います。

[Step3]基準4.の太陽光発電設備を加えた一次エネルギー削減率の計算方法

太陽光発電から得られるエネルギー量は、自家消費分と売電分を加えた値なので、
16,200[MJ]+31,938[MJ]=48,138[MJ] ・・・④太陽光発電

次に、住宅内で消費するエネルギー量(①設計合計)から太陽光発電により得られるエネルギー量を引いてエネルギー収支を求めます。
①設計合計−④太陽光発電=39,999[MJ]−48,138[MJ]=−8,139 [MJ] ・・・⑤エネルギー収支

この値がマイナスの場合、住宅内で消費するエネルギー以上の発電量が確保できているということになります。

一次エネルギー削減量は、②基準合計から①設計合計を引いて求めます。
②基準合計−⑤エネルギー収支=59,414−(−8,139)=67,553 [MJ] ・・・⑥削減量

一次エネルギー削減率は、②基準合計に対する削減量の割合なので、
⑥削減量÷②基準合計×100=67,553 [MJ]÷59,414 [MJ]×100=113 %

この削減率が100%以上になれば、『ZEH』の基準に適合です。
削減率が100%以上になっていない場合は、太陽光発電設備の容量を増やしたり、住宅の断熱強化やさらなる設備の高効率化によって、住宅内で消費するエネルギー量を減らすなどの対策が必要です。

ZEHは1種類ではありません

これまで、『ZEH』の基準の説明をしました。これがZEHの本来の意味である「一次エネルギー消費量が正味ゼロまたはマイナスの住宅」を見たした住宅です。しかし、せっかく『ZEH』を目指しても、都市部の狭小地の住宅では太陽光パネルの設置面積が少なかったり、寒冷地等の住宅では日射が少なく充分な発電量が得られないケースもあります。
そのため、地域の特性を考慮して上記の『ZEH』の基準を緩和したNealy ZEH(ニアリー ゼッチ)やZEH Oriented(ゼッチ オリエンテッド)があります。いっぽう、『ZEH』やNearly ZEHよりもさらに高い基準を満たした『ZEH+』(ゼッチ プラス)やNealy ZEH+(ニアリー ゼッチ プラス)もあります。
これらの5種を総称してZEHと表示(広義のZEH)することになっており、その内、上記で説明した4つの基準をすべて満たしたものを二重鉤括弧の『ZEH』と表示(狭義のZEH)して区別します。大変ややこしいですが、説明済みの『ZEH』をベースに、それぞれの基準を説明します。

ZEH

Nearly ZEHとは?

寒冷地(地域区分1または2地域)、低日射地域(日射区分A1またはA2地域:日射区分については次回説明します)、多雪地域など日射量が少ない気象条件や建設地特有の制限下のZEHを見据えた住宅のことです。これらの地域外であっても、Nearly ZEHを用いることが可能です。
Nearlyとは「ほぼ」という意味ですので、『ZEH』の基準には満たないがほぼ『ZEH』ということになります。
ZEHと異なる条件は、4つめの基準である太陽光発電設備を加えた基準一次エネルギー消費量の削減が75%に緩和されていることです。

1.外皮平均熱貫流率UAの基準は平成28年基準よりも強化(ZEHと同じ)
2.太陽光発電設備を導入すること(システム容量は問わない)(ZEHと同じ)
3.太陽光発電設備を除き、基準一次エネルギー消費量から20%以上の一次エネルギー消費量削減すること(ZEHと同じ)
4.太陽光発電設備等を加えて、基準一次エネルギー消費量から75%以上100%未満の一次エネルギー消費量削減できること

ZEH Orientedとは?

都市部狭小地、多雪地域に建設された住宅に建つZEHを指向(Oriented)した住宅です。
ここでの都市部狭小地とは、北側斜線制限の対象となる用途地域で、第一種及び第二種低層住宅専用地域並びに第一種及び第二種中高層専用地域等であって、敷地面積が85㎡未満です。ただし、住宅が平屋建ての場合は除きます。
例えば、都市部で敷地面積が狭い場所に家を建てる場合、屋根の面積や太陽光の当たる面積・時間などによって、十分な発電量が期待できない場合があります。そうした一部の都市部地域では、ZEHの外皮基準と省エネ性を備えていれば、太陽光発電設備が無くてもZEH Orientedと認められます。なお、Nearly ZEHと異なり、ZEH Orientedはこれらの地域・条件以外では用いることはできません。

ZEHと異なる条件は、太陽光発電設備などは導入しなくてもよいため、太陽光発電を加えた基準一次エネルギー消費量の削減の基準が無いことです。

1.外皮平均熱貫流率UAの基準は平成28年基準よりも強化(ZEHと同じ)
2.太陽光発電設備は未導入でも可
3.太陽光発電設備を除き、基準一次エネルギー消費量から20%以上の一次エネルギー消費量削減すること(ZEHと同じ)
4.太陽光発電設備を加えた、基準一次エネルギー消費量の削減基準は無い

ZEH+・Nearly ZEH+とは?

ZEH、若しくはNearly ZEHの基準に加えて、以下の3つのうち2つ以上の条件を満たした住宅です。

  • 外皮平均熱貫流率UAがZEHよりも強化(地域ごとの基準値は後述)
  • 高度エネルギーマネジメント(HEMS)を導入し、住宅内の暖冷房と給湯設備を制御できること
  • 太陽光発電設備等で発電した電力を電気自動車に充電できること

さらに、太陽光発電設備を除き、基準一次エネルギー消費量から25%以上の一次エネルギー消費量削減する必要もあります。

ここで、また新しい用語が出てきました。HEMSとは、Home Energy Management System の略で、エネルギー使用量の見える化と、使うエネルギーを節約するための管理システムです。

エコーネットコンソーシアムのカタログより (エコーネットコンソーシアムのカタログより)

そもそも、ZEH+ は、太陽光発電で作られた電力を国が定めた価格で電力会社などが10年間買取る固定価格買取制度(FIT制度)からの自立を目指すために、太陽光発電量の自家消費率を引き上げることを目的とした住宅です。

ZEHのUA・一次エネルギー消費量削減率

以下の表に、外皮基準とエネルギー削減率を整理しました。ZEHは平成28年基準よりも高い水準が求められていることがわかります。

●外皮平均熱貫流率UA(W/(㎡・K))の基準

基準 地域の区分
1 2 3 4 5 6 7
(参考)
平成28年省エネ基準
0.46 0.56 0.75 0.87
『ZEH』
Nearly ZEH
ZEH Oriented
0.40 0.50 0.60
『ZEH+』
Nearly ZEH+
0.30 0.40 0.50
※ZEH+、Nearly ZEH+ は、外皮平均熱貫流率のさらなる強化を採用した場合
※冷房期の平均日射熱取得率の基準はすべて平成28年基準と同じ

●一次エネルギー消費量削減率

基準 太陽光発電設備の
必要有無
一次エネルギー消費量削減率
太陽光発電を除く 太陽光発電等を含む
『ZEH』 必要 20%以上 100%以上
Nearly ZEH 必要 20%以上 75%以上100%未満
ZEH Oriented 無くても良い 20%以上 -
『ZEH+』 必要 25%以上 100%以上
Nearly ZEH+ 必要 25%以上 75%以上100%未満

これでZEHの基本が理解できましたので、次回は『ZEH』の具体的な設計方法を「LIXIL省エネ住宅シミュレーション」を使って説明します。

久保田 博之

コラム執筆者紹介

久保田 博之

株式会社プレスト建築研究所 代表取締役 一級建築士(構造設計一級建築士)
木造住宅の温熱環境・構造に関わる設計コンサルタントや一般社団法人 日本ツーバイフォー建築協会等の団体によるセミナー講師を歴任する住宅性能のスペシャリスト。

  1. ※1 https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/general/pdf/roadmap-fu_report2020.pdf
対応に向けた準備はお済みですか?2021年、省エネ基準適否 説明義務化スタート!

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公開日:2020年10月12日