2021年に向けた省エネ住宅づくり連載コラム(第12回)

省エネ基準に適合させるためのカンタンテクニック![一次エネルギー消費量基準編]
~まるわかり解説と建築士の対応方法~

久保田博之 (住宅性能設計コンサルタント・一級建築士、株式会社プレスト建築研究所 代表取締役)

省エネ基準に適合させるためには、外皮性能基準と一次エネルギー消費量基準の両方に適合させる必要があります。前回のコラムでは外皮性能基準に適合させるためのテクニックを説明しましたので、今回は一次エネルギー消費量基準に適合させるためのカンタンテクニックを前回用いた自立循環型住宅モデル(UA=0.60W/㎡・K、ηAC=2.4)を使って説明します。

一次エネルギー消費量計算書の見方

一次エネルギー消費量基準の計算に先立ち、暖冷房設備・24時間換気設備・給湯設備・照明設備の仕様を決める必要があります。(一次エネルギー消費量基準の考え方は、第7回コラム参照)なお、家電などのその他設備は床面積に応じて自動的に一次エネルギー消費量が決まるため、仕様決めは不要です。

暖冷房設備 換気設備 給湯設備 照明設備 家電など

まず、「提案1」として、各設備の仕様を以下のように仮定しました。

「提案1」の住宅設備機器の仕様

設備 仕様
暖冷房設備 ルームエアコン(省エネ対策は特にしていない)
換気設備 壁付け式第3種換気設備
給湯設備 [給湯器]従来型のガス給湯器
[水栓]2バルブ以外(省エネタイプではない)
[浴槽]従来浴槽
照明設備 LEDと蛍光灯の混在仕様

これらの条件をLIXIL省エネ住宅シミュレーションや国立研究開発法人建築研究所で公開しているWebプログラムに入力することで一次エネルギー消費量計算を行うことができます。(設備の性能値の入力方法は、第8回から10回コラム参照)

前回と同様に建設地を東京都23区(6地域)とした計算を行い、その計算結果を用いて見方を理解しましょう。

「提案1」の一次エネルギー消費量計算結果

LIXIL省エネ住宅シミュレーションソフト(簡易計算法)の窓設定の例

①床面積
一次エネルギー消費量計算時に入力した床面積が表示されます。この床面積に応じて一次エネルギー消費量計算がされますので、間違えないようにしてください。なお、外皮面積を計算しない簡易計算ルートでもこれらの床面積の入力は必要となります。

主たる居室:リビング、ダイニング、キッチンなど、日常生活上在室時間が長い居室の床面積の合計
その他居室:主たる居室以外の居室の床面積の合計。寝室、子供部屋、和室など
非居室:居室以外の床面積の合計。浴室、トイレ、洗面所、廊下、玄関、クローゼットなど

②一次エネルギー消費量
暖房・冷房・24時間換気・給湯・照明設備・その他の設備(家電など)の一次エネルギー消費量の設計値と基準値の計算結果が表示されています。

設計一次エネルギー:計算する物件で設定した設備機器での一次エネルギー消費量の計算結果
基準一次エネルギー:一次エネルギー消費量の基準値(2012年時点で発売されていた設備機器の性能の中央値を想定した一次エネルギー消費量の計算結果より定められている)

また、太陽光発電設備を搭載した場合は、「発電設備の発電量のうち自家消費分」の欄にエネルギー消費量がマイナス値で表示されます。自家消費分とは、発電された電力量のうち、住宅内で消費される電力量のことです。余剰分を売電する場合、発電量から自家消費分を引いた値が売電量になります。
なお、家電やコンロ等によるその他の設備の一次エネルギー消費量は、設計値と基準値を同じ値とするルールとなっていますので、実際の設備の省エネ性能を反映することはできません。

③判定
「設計一次エネルギー消費量 ≦ 基準一次エネルギー消費量」 の場合には「達成」となり、
「設計一次エネルギー消費量 > 基準一次エネルギー消費量」 の場合には「未達成」となります。
未達成の場合は、「達成」になるように設備仕様を変更する必要があります。
なお、各設備の一次エネルギー使用量の単位は「MJ(メガジュール)」ですが、判定欄では「GJ(ギガジュール)(MJ÷1000)」となっていますので注意してください。(単位については、第7回コラム参照)

④BEI
省エネルギーの評価指標(Building Energy Index)の略称で、省エネ性能の度合いを示しており、以下の計算式によって求められます。

設計一次エネルギー消費量の合計 ÷ 基準一次エネルギー消費量の合計

③の判定が「達成」の場合にはBEIは1.00以下、「未達成」の場合には1.00超の値になります。そのため、基準値に対してどれくらい余裕があるのかがひと目でわかります。もし、基準値を達成していても、BEIが1.00に近い値だと省エネ性能に余裕がないことになりますので、判定の達成・未達成だけでなくこのBEIにも着目してください。

なお、BEIの計算には、「その他の設備」や太陽光発電設備を搭載した場合の発電量や自家消費分は含まれません。したがって、暖房・冷房・24時間換気・給湯・照明設備の省エネ性能によって、BEIの値が求められることになります。

例えば、「提案1」のBEI=0.97は以下の計算式によって求められており、一次エネルギー消費量が基準値よりも3%削減できている住宅であることを意味します。

設計一次エネルギー消費量を削減する方法

「提案1」の仕様で基準値を達成していますが、基準一次エネルギー消費量よりも3%削減と余裕がありません。光熱費等のランニングコストが安くなるように、ぜひ設計一次エネルギー消費量を削減できる設備の提案をしましょう。ただし、すべての設備機器の性能を向上させるのではなく、費用対効果を考慮して効果の高い仕様で提案するのが現実的です。これの仕様を「提案2」とします。

「提案1」の設備ごとの計算結果を設計一次エネルギー消費量が大きいものから順に並べると以下のようになり、給湯設備が一番大きいことがわかります。給湯は一年中毎日使うため、エネルギー消費量が大きくなるのです。

給湯設備     26,855 MJ
暖冷房設備  19,117 MJ ※エアコンのため暖冷房設備として考えます。(13,094MJ+6,023MJ)
照明設備       6,699 MJ
換気設備       4,583 MJ

それでは、大きく省エネ効果を期待できる給湯・暖冷房・照明設備について、順番に省エネ仕様に変えてみましょう。
なお、換気設備は一次エネルギー消費量がそれほど大きくないことから、仕様変更の提案を省略します。(換気設備の考え方は第9回コラム参照)

給湯設備の設計一次エネルギー消費量を削減する方法

省エネタイプの給湯器はいくつかありますが、今回は比較的によく採用されるエコキュートを提案してみます。また、採用するエコキュートの性能値がわかる場合にはJIS効率値を入力して計算すると、給湯エネルギーの更なる削減が期待できます。(エコキュートのJIS効率の探し方は、第10回コラム参照)

LIXIL省エネ住宅シミュレーションのJIS効率の入力画面

LIXIL省エネ住宅シミュレーションのJIS効率の入力画面

また、給湯器だけでなく、水栓や浴室シャワーも省エネタイプに変更すると更なるエネルギー削減をすることができます。

水栓には、手元止水機能(節湯A1)、小流量吐水機能(節湯B1)、水優先吐水機能(節湯C1)がありますので、台所と浴室シャワーや洗面はこれらの省エネ機能を組み合わせた商品の採用をお勧めします。さらに、お風呂の浴槽に保温タイプを採用することでも、給湯のエネルギー削減ができます。これらの省エネ効果があるLIXILの該当商品例は以下の通りとなっており、これらの設備を用いてみます。

台所 浴室シャワー 洗面 浴槽 サーモバスS

給湯器と水栓を省エネ機器に変更して計算した結果、給湯の一次エネルギー消費量が約52%削減と半分以下にすることができました。また、給湯の一次エネルギー消費量の計算には反映されませんが、節水効果があるトイレのサティスGタイプもぜひ合わせてご提案ください。

設備 提案1 提案2
給湯設備 [給湯器]従来型のガス給湯器
[台所水栓・浴室シャワー水栓・洗面水栓]2バルブ以外(省エネタイプではない)
[浴槽]従来浴槽
[給湯器]エコキュート(JIS効率3.7)
[台所水栓]手元止水(A1)+水優先吐水(C1)
[浴室シャワー水栓]手元止水(A1)+小流量吐水(B1)
[洗面水栓]水優先吐水(C1)
[浴槽]サーモバスS
給湯の
一次エネルギー消費量
26,855 MJ 12,843 MJ(約52%削減)

暖冷房設備の設計一次エネルギー消費量を削減する方法

給湯設備の次に一次エネルギー消費量が多いのが暖冷房設備です。特に暖房が大きくなります。エアコンのエネルギー消費効率の区分は(い)・(ろ)・(は)の3種類に分かれており、(は)から(い)に向かって省エネ性能が高くなります。(区分の調べ方については第8回コラム参照)
LIXIL省エネ住宅シミュレーションでは、この区分がわからなくても、エアコンの冷房能力とエネルギー消費効率がわかれば、自動的に区分判定できる機能が搭載されています。

この事例では、エネルギー消費効率の区分(い)のエアコンを採用してみます。なお、基準一次エネルギーは区分(ろ)で計算されているため、区分(い)を採用しないと一次エネルギー消費量の削減効果を見込むことはできません。

LIXIL省エネ住宅シミュレーションのエネルギー消費効率区分の入力画面

LIXIL省エネ住宅シミュレーションのエネルギー消費効率区分の入力画面

エアコンを省エネタイプに変更して計算した結果、暖冷房の一次エネルギー消費量を約9%削減することができました。

設備 提案1 提案2
暖冷房設備 ルームエアコン
(省エネ対策は特にしていない)
ルームエアコン
(エネルギー消費効率(い)区分)
暖冷房の
一次エネルギー消費量
暖房:13,094 MJ
冷房:  6,023 MJ
合計:19,117 MJ
暖房:12,088 MJ
冷房:  5,273 MJ
合計:17,361 MJ(約9%削減)

ただし、この対策は、設計者がエアコンの性能を提案できる場合に限られます。住んでいた家のエアコンを新築住宅に移設する、あるいは、入居後にお施主様が取り付けるなどエアコンの性能がわからない場合にはエアコンの省エネ対策を提案することができませんので注意が必要です。
なお、既にエアコンのエネルギー消費効率が区分(い)の場合や、エアコンの性能が不明の場合であっても、住宅の外皮性能(UA、ηAC)の値を小さくすることによって暖冷房の一次エネルギー消費量を削減することもできます。なお、既にエアコンのエネルギー消費効率が区分(い)の場合や、エアコンの性能が不明の場合であっても、住宅の外皮性能(UA、ηAC)の値を小さくすることによって暖冷房の効率が高まり、一次エネルギー消費量を削減することができます。

照明設備の設計一次エネルギー消費量を削減する方法

暖冷房設備の次に一次エネルギー消費量が大きいのは照明設備です。照明は住宅内すべてのエリアに設置され、かつ一年中使うため一次エネルギー消費量が大きくなっています。
「提案1」ではすべての照明をLEDと蛍光灯が混在する仕様としていましたが、「提案2」ではすべてLEDに変更してみます。現状、照明設備のほとんどがLEDの商品ですので、この対策は難しくありません。
なお、屋外の玄関ポーチの照明は非居室の照明に該当するため、こちらもLEDに変更する必要があります。(照明設備については、第9回コラム参照)

全ての照明をLEDに変更して計算すると、照明の一次エネルギー消費量は約22%削減することができました。

設備 提案1 提案2
照明設備 LEDと蛍光灯が混在 全てLED
照明の
一次エネルギー消費量
6,699 MJ 5,212 MJ(約22%の削減)

省エネ設備の総合評価

「提案1」の給湯・暖冷房・照明設備を省エネ設備に変更した結果、トータルの設計一次エネルギー消費量は78,495MJから61,240MJへと約22%削減できました。また、BEIは0.68となり、基準一次エネルギー消費量よりも32%削減することができました。

「提案2」の一次エネルギー消費量計算結果

「提案2」の一次エネルギー消費量計算結果

お施主様への提案方法

ところで、お施主様は設備を省エネ仕様に変えることで一次エネルギー消費量が減ることはご理解いただけても、MJ、GJやBEIという用語のままの説明で具体的なイメージがつかめるでしょうか。それはとても難しいため、これらの省エネ性能を示す用語を用いた説明の代わりに、お施主様にわかりやすく伝える方法がランニングコストの説明なのです。
LIXIL省エネ住宅シミュレーションには、一次エネルギー消費量の計算結果に基づいたランニングコストを試算できる機能がありますので、これを活用します。

ランニングコストの計算は、一次エネルギー消費量を電気やガスの使用量に置き換えて、燃料単価を乗じるなどの難しくて面倒な作業が必要ですが、LIXIL省エネ住宅シミュレーションでは、利用する電力会社やガス会社を選択するだけでカンタンにランニングコストを自動計算できます。また、2つのプランのランニングコストの比較ができますので、設備仕様を変えた後の省エネ効果もよりわかりやすくなります。さっそく、「提案1」と「提案2」を比較してみましょう。

LIXIL省エネ住宅シミュレーションの電力会社等の設定画面

LIXIL省エネ住宅シミュレーションの電力会社等の設定画面

その結果が以下の提案書です。右上の光熱費欄で「提案2」は年間の光熱費が193,640円で、「提案1」よりも48,980円削減できることがシミュレーションによってわかります。
さらに、一次エネルギー消費量計算では求めることができない水道費の計算もできます。今回の例では、給湯器や水栓等の変更やサティスGタイプを採用したことによる節湯・節水効果を合わせて、水道費を年間27,520円削減することができました。(右下部)
結果、光熱費と水道費の合計で年間76,490円節約できることがわかります。(左部)
この提案書を活用すれば、安心して省エネタイプの設備機器を導入するメリットをお施主様に提案できますので、ぜひ実践してみましょう。

LIXIL省エネ住宅シミュレーションによるランニングコスト比較の提案書

LIXIL省エネ住宅シミュレーションによるランニングコスト比較の提案書

この連載コラムを読んで実践して頂ければ、「住宅の省エネ性能の説明義務化」の準備は万全!ぜひ、この連載コラムを通して、今から2021年に向けた省エネ住宅づくりの準備を始めていきましょう。

久保田 博之

コラム執筆者紹介

久保田 博之

株式会社プレスト建築研究所 代表取締役 一級建築士(構造設計一級建築士)
木造住宅の温熱環境・構造に関わる設計コンサルタントや一般社団法人 日本ツーバイフォー建築協会等の団体によるセミナー講師を歴任する住宅性能のスペシャリスト。

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LIXIL省エネ住宅シミュレーション

https://www.biz-lixil.com/service/proptool/shoene/

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公開日:2020年08月17日