2021年に向けた省エネ住宅づくり連載コラム(第7回)

一次エネルギー消費量の基準をマスターしよう!
~まるわかり解説と建築士の対応方法~

久保田博之 (住宅性能設計コンサルタント・一級建築士、株式会社プレスト建築研究所 代表取締役)

省エネ基準に適合するには、「外皮性能基準」と「一次エネルギー消費量基準」の両方の基準を満たす必要があることを第2回のコラムで説明しました。前回までのコラムで外皮性能基準の適合方法について説明しましたので、今回からは一次エネルギー消費量基準の適合方法のテクニックを説明します。なお、実際の計算はLIXIL省エネ住宅シミュレーションが専用のWebプログラムと連携して自動で行ってくれますので、具体的な計算方法ではなく考え方を理解しましょう。まずは一次エネルギー消費量基準の基本的な考え方を整理します。
なお、なぜ「一次エネルギー」の指標を使うのかについては、第3回目のコラムをご確認ください。

一次エネルギー消費量の計算ってどうすればいいの

住宅の外皮性能(外皮平均熱貫流率 UAと冷房期の平均日射熱取得率 ηAC)だけでは、その住宅がどれだけのエネルギーを消費するのかわかりません。それは、エネルギー消費量は使う設備機器の種類や性能によって決まるからです。
住宅内で使う設備機器は、暖冷房設備、24時間換気設備、風呂・台所・洗面で使う給湯設備、照明設備、そして家電などの5項目に分類して考えていきます。

暖冷房設備 換気設備 給湯設備 照明設備 家電など
外皮性能と一次エネルギー消費量のイメージ※

外皮性能と一次エネルギー消費量のイメージ

これらの設備機器の内、”暖冷房設備”の一次エネルギー消費量は、住宅の断熱性能である外皮性能(外皮平均熱貫流率 UAと冷房期の平均日射熱取得率 ηAC等)が大きく影響しますので、使用する冷暖房機器の種類やカタログ性能値に加えて、外皮性能値も必要となります。そのため、一次エネルギー消費量計算は外皮性能計算後におこなう必要があります。
いっぽう、”24時間換気設備”、”給湯設備”、”照明設備”の一次エネルギー消費量は、使用する設備機器の種類やカタログ性能値のみで計算ができます。
なお、”家電など”はお施主様がどのような電化製品などを使用されるのかはわかりませんので、床面積に応じて一次エネルギー消費量が自動的に決まります。そのため、実際に使われる電化製品などの情報は不要です。

以上がエネルギーを消費する設備機器ですが、それらに加えて”太陽光発電などエネルギーを創り出す設備機器”を採用すれば、住宅の一次エネルギー消費量を削減することができます。(上図のエネルギー利用効率化設備に該当)

設計時にこれらの設備機器それぞれの一次エネルギー消費量や削減量を求め、それらを合計した値を「設計一次エネルギー消費量」と言います。

暖冷房設備の消費量+換気設備の消費量+給湯設備の消費量+照明設備の消費量+家電などの消費量?太陽光発電などの削減量

一方で、設計一次エネルギー消費量が省エネ基準に適合していることを判断するための基準値が、「基準一次エネルギー消費量」です。ここで注意が必要になるのが、「基準一次エネルギー消費量」は設計する住宅の建設地の地域区分や床面積などの条件や、使用する設備機器の種類等によって基準値が変わることです。そのため、「基準一次エネルギー消費量」は「外皮平均熱貫流率 UA」や「冷房期の平均日射熱取得率 ηAC」のように、基準値が一定ではなく、同じ地域区分に建築する住宅でも基準値が変わります。
例えば、寒冷地は温暖地よりも暖房設備の使用量が多くなりますので、基準値も大きく設定されます。また、床面積の大きい住宅は小さい住宅よりも居住人数や設備機器が多くなる傾向ですので、基準値も大きく設定されます。
このように、「基準一次エネルギー消費量」は様々な条件によって決まりますので、後述するWebプログラムに諸条件を入力して一次エネルギー消費量計算をおこなうことで、初めてその値を確認することが出来ます。

一次エネルギー消費量計算の結果、設計一次エネルギー消費量が基準一次エネルギー消費量よりも小さければ省エネ基準に適合したことになります。

年間の設計一次エネルギー消費量 ≦ 年間の基準一次エネルギー消費量
住宅の一次エネルギー消費量基準における算定のフロー

住宅の一次エネルギー消費量基準における算定のフロー

なお、一次エネルギー消費量の計算結果は、エネルギーの単位であるGJ(ギガジュール)やMJ(メガジュール)で表されます。
G(ギガ)は単位の前に付けられる記号で10の9乗、M(メガ)は10の6乗ですので、両単位は1000倍の関係となります。これらはパソコンやスマホの容量を表すときにも使われていますので、ご存知だと思います。
J(ジュール)は熱量の単位です。Jを仮にわかりやすい電力量kWhで置き換えると以下の通りとなりますので参考にしてください。

1kWh = 3.6MJ = 0.0036GJ
277.8kWh = 1000MJ = 1GJ

また、省エネ基準適合の判定は、設備機器ごとではなく合計値で判断します。例えば、省エネタイプでない暖冷房機器を採用して暖冷房の設計一次エネルギー消費量が基準値よりも大きくなったとしても、それ以外の設備機器で削減(下記例では給湯設備)して、合計で基準値を達成できれば良いのです。

一次エネルギー消費量の計算結果例(この例は、設計一次エネルギー消費量80.3GJに対して、基準一次エネルギー消費量80.7GJなので基準に適合している)

一次エネルギー消費量の計算結果例
(この例は、設計一次エネルギー消費量80.3GJに対して、基準一次エネルギー消費量80.7GJなので基準に適合している)

一次エネルギー消費量の計算は難しくはありません

ここまでの説明で「一次エネルギー消費量計算は難しくてできそうもない」と思われるかもしれませんが、実際には複雑な一次エネルギー消費量の知識や計算は一切必要ありません。一次エネルギー消費量を計算するためには、専用のWebプログラムを使用する必要がありますが、LIXIL省エネ住宅シミュレーションはこのWebプログラムと連携して、カンタンに一次エネルギー消費量計算をおこなうことが出来ます。

そのため、LIXIL省エネ住宅シミュレーションをご利用頂くと、Webプログラムを直接操作したり確認する必要はありませんが、設計者の基本的な知識として概要をご説明します。

このWebプログラムは、国立研究開発法人建築研究所などの公的機関が公開しており、ユーザー登録や使用料は不要です。インターネット上で使用しますので、ソフトウエアのダウンロードやインストールは不要です。

Webプログラムは、正式名を「住宅に関する省エネルギー基準に準拠したプログラム」といい、以下のサイトから利用できます。または、検索サイトに正式名を入力して検索します。

https://house.lowenergy.jp/

検索結果からWebプログラムを起動するまでの手順は以下の通りです。
①「はじめる」をクリックすると、次の画面が表示されます。

②「住宅版」をクリックするとWebプログラムが起動します。

③設備機器等の入力画面が表示されます。

入力画面では設備機器が、エクセルのシートタブのように分類されており、各タブに外皮性能値や使用する設備機器の種類・性能値を入力出来るようになっています。全ての入力が完了したら、右上の計算ボタンを押すと自動で一次エネルギー消費量計算が実行されるようになっています。ぜひ、一度操作してみてください。

次回は、各設備機器の種類や特徴、カタログ性能値の参照方法について説明します。

この連載コラムを読んで実践して頂ければ、「住宅の省エネ性能の説明義務化」の準備は万全!ぜひ、この連載コラムを通して、今から2021年に向けた省エネ住宅づくりの準備を始めていきましょう。

久保田 博之

コラム執筆者紹介

久保田 博之

株式会社プレスト建築研究所 代表取締役 一級建築士(構造設計一級建築士)
木造住宅の温熱環境・構造に関わる設計コンサルタントや一般社団法人 日本ツーバイフォー建築協会等の団体によるセミナー講師を歴任する住宅性能のスペシャリスト。

  1. ※[出典]国土交通省監修、一般財団法人 建築環境・省エネルギー機構(IBEC)発行「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(建築物省エネ法)の概要」より引用
対応に向けた準備はお済みですか?2021年、省エネ基準適否 説明義務化スタート!

2021年4月以降に設計を委託された住宅について、物件ごとに省エネ計算を実施し、省エネ基準への適否や対応策をお施主さまに説明することが、建築士の義務になります。新登場の「LIXIL省エネ住宅シミュレーション」は、お施主さまへの説明義務を果たすための説明資料や提案資料、認定・優遇制度の申請時に必要な計算書も、WEB上でのカンタン操作でパッと自動作成できます。
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LIXIL省エネ住宅シミュレーション

https://www.biz-lixil.com/service/proptool/shoene/

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公開日:2020年02月18日