2021年に向けた省エネ住宅づくり連載コラム(第5回)
冷房期の平均日射熱取得率 ηACをマスターしよう!
~まるわかり解説と建築士の対応方法~
久保田博之 (住宅性能設計コンサルタント・一級建築士、株式会社プレスト建築研究所 代表取締役)
今回のコラムでは、説明義務で必要となる3つの基準の内、夏の暑さ対策に直結する「冷房期の平均日射熱取得率 ηAC」を取り上げて、カンタンで最適な省エネ住宅のつくり方のテクニックを説明します。なお、実際の計算はLIXIL省エネ住宅シミュレーションが自動で行ってくれますので、具体的な計算方法ではなく考え方を理解しましょう。
まずは、第3回目「省エネ性能の3つの基準はカンタン!」のおさらいから始めます。
夏期に窓から差し込む日射熱は、室内の温度を上げます。また、外壁や屋根も強い日差しが当たると熱せられて、その熱が室内に入り込みます。これらの窓や壁、屋根から入り込む熱の総量を小さくすれば、室内温度が上がりにくく、冷房の効率や快適性も向上します。その性能を評価するのが「冷房期の平均日射熱取得率 ηAC(イータエーシー)」でした。
「冷房期の平均日射熱取得率 ηAC」に大きく影響するサッシ
下の図は、夏期に外皮から屋内に入ってくる熱の割合を表した図です。開口部から入ってくる熱が、住宅全体の7割以上を占めていて、前回ご説明した「外皮平均熱貫流率 UA」の場合と同様にサッシの選択が最も重要であることがわかります。
夏期における熱の侵入割合※1・2
では、サッシの日射熱の取得性能をどのように選択すればよいのでしょうか?大半の日射熱は主にサッシのガラスを通して室内に入り込みますが、その量はガラスの仕様によって大きく異なります。これらの室内に侵入する熱の量を計算する際に必要な数値がサッシの「日射熱取得率 η(イータ)」です。
さて、「日射熱取得率 η」という新しい用語が出てきました。サッシの「日射熱取得率 η」は、サッシのガラスに入射した日射量に対する透過した日射量※3の割合です。つまり、この値が小さいほど日射の侵入を防ぐ遮熱効果が高いガラスということになります。これが重要なポイントです。
サッシの「日射熱取得率 η」が小さい ⇒ 住宅の「冷房期の平均日射取得率 ηAC」が小さい ⇒ 夏期の住宅の遮熱効果が高い
サッシの「日射熱取得率 η」の概念図
なお、サッシ以外の屋根(または天井)と壁にはガラスがありませんので「日射熱取得率 η」は、これらの部位の「熱貫流率 U」で自動的に決まります。一般的なドアもガラス面積が小さいため、同様となります。
つまり、「冷房期の平均日射熱取得率 ηAC」は、主にガラスの仕様で決まるサッシの「日射熱取得率 η」、「熱貫流率 U」から自動的に決まる屋根(または天井)・壁・ドアの「日射熱取得率 η」から求められます。整理すると以下の順番で求めていくことになります。
なお、「ηACのAC」は平均のアベレージと冷房期のクーリングの略称であることを覚えておくと、区別しやすいです。
このように、サッシのガラスの選択が重要ですので、以降はサッシの「日射熱取得率 η」に限定して説明します。
では、どれくらいの「日射熱取得率 η」のサッシを使えばよいのでしょうか。参考となるのが省エネ基準告示で、地域区分ごとにサッシに必要な日射遮蔽の対策が決められています。(下表参照)
地域区分ごとに必要となるガラスの「日射熱取得率 η」と付属部材等
地域区分 | 1~4 | 5 | 6 | 7 | 8 |
---|---|---|---|---|---|
サッシの対策※4 | 基準なし | 以下の①~③のいずれか ①ガラスの日射熱取得率 ηが0.49以下 ②ガラスの日射熱取得率 ηが0.74以下のものに、ひさし、軒等を設ける ③付属部材を設ける(南±22.5度は外付けブラインド) |
ガラスの日射熱取得率 ηが0.49以下のものに、付属部材(南±22.5度は外付けブラインド)またはひさし、軒等を設ける |
表の記載内容が少し難解ですので、まとめると以下の通りとなります。
[1~4地域]
ηACは冷房期を対象とした基準なので、寒冷地の1~4地域の基準はありません。ただし、これらの地域でも近年は酷暑になる期間もありますので、基準はなくても夏の日射を考慮した設計は必要でしょう。
[5~7地域]
複層ガラスの場合には、以下の3つの中のいずれかの仕様が必要となります。
①日射遮蔽型Low-E複層ガラスを用いる。
②日射取得型のLow-E複層ガラスにひさしや軒等を設ける。
③複層ガラスに和障子や外付けブラインドを設ける。(南東~南西面は外付けブラインドのみ可)
①はサッシだけで対策をすることが出来ます。いっぽう、②と③の対策は、全てのサッシにひさし等、または和障子や外付けブラインドが必要になるため、設計や施工の手間が増えたり、コストアップにもつながります。
[8地域]
複層ガラスの場合には、日射遮蔽型Low-E複層ガラスにひさしや軒等、または、和障子や外付けブランドを設ける必要があります。(南東~南西面は外付けブラインドのみ可)
実際に「冷房期の平均日射熱取得率 ηAC」の計算をする場合、サッシの「日射熱取得率 η」は前回(第4回)のサッシの「熱貫流率 U」と同様に、LIXILビジネス情報サイトから調べます。以下のURLより、LIXILビジネス情報のWebサイトにアクセスして、法令・制度の中の「建築物省エネ法」→ LIXILの対象製品 → 開口部(平成28年基準)→ ①建具とガラスの組み合わせ を参照します。
https://www.biz-lixil.com/service/law/energy-saving/products/windows_doors-28.html
「ガラス・建具ごとの日射熱取得率」のPDFのアイコンをクリックすると「平成28年省エネルギー基準評価対象製品性能一覧 暖冷房(外皮:ガラス・建具ごとの日射熱取得率)」をダウンロードできます。
この表の列方向は、建具の仕様で分類してあります。「樹脂製・木製建具」、「樹脂と金属の複合材料製・金属熱遮断構造・金属製建具」です。LIXILの代表的なサーモス(サーモスX、サーモスⅡ-H、サーモスL)は、「樹脂と金属の複合材料製建具」なので右側の列の分類から探します。
行方向は、ガラスの仕様で分類してあります。トリプルガラスの「三層複層」、複層ガラスの「二層複層」、さらにその中で「Low-Eガラスや複層ガラス」などに細分化されています。
この表から、サーモスの複層ガラスの「日射熱取得率 η」は0.63。Low-E複層ガラスの「日射熱取得率 η」は、日射取得型が0.51、日射遮蔽型が0.32の2種類あることが確認できます。
つまり、同じサッシでも、ガラスの仕様によって「日射熱取得率 η」が変わります。ここも重要なポイントです。
Low-E複層ガラスは、ガラス色で区分されることもあり、LIXILではクリア、グリーン、グリーン(高遮熱型)そしてブロンズの4種類があります。クリアは日射取得型に分類され、グリーン、グリーン(高遮熱型)、ブロンズの3種類は日射遮蔽型に分類されます。
LIXILの代表的なサッシの複層ガラスの特徴を次の表にまとめました。
LIXILの代表的なサッシの複層ガラスの「日射熱取得率 η」※5
ガラスの仕様 | 特徴 | 日射熱取得率 η | |||
---|---|---|---|---|---|
サーモス (サーモスX、 サーモスⅡ-H、 サーモスL) |
エルスターS | 大小関係 | |||
一般複層ガラス |
2枚のガラスと中空層で室内の快適温度を守るスタンダードタイプ | 0.63 | 0.57 | 大きい小さい | |
日射取得型 | Low-E 複層ガラス クリア |
室内側のガラスに無色透明の特殊金属をコーティング。透明度が高いので採光性に優れる | 0.51 | 0.46 | |
日射遮蔽型 | Low-E 複層ガラス グリーン |
Low-E膜を室内側に配置することで、夏の日差しを適度にカット | 0.32 | 0.29 | |
Low-E 複層ガラス グリーン (高遮熱型) |
Low-E膜を室外側に配置することでより遮熱性を向上し、夏の強烈な日差しをしっかりカット |
このように「冷房期の平均日射熱取得率 ηAC」の適合は、サッシのガラスを変更することが最もカンタンな方法なのです。遮熱性能の弱い部分を強化するという意味でも、理にかなった省エネ住宅の設計テクニックです。
次回は、さらに快適な住環境を目指すための窓設計ついて説明します。
この連載コラムを読んで実践して頂ければ、「住宅の省エネ性能の説明義務化」の準備は万全!ぜひ、この連載コラムを通して、今から2021年に向けた省エネ住宅づくりの準備を始めていきましょう。
コラム執筆者紹介
久保田 博之
株式会社プレスト建築研究所 代表取締役 一級建築士(構造設計一級建築士)
木造住宅の温熱環境・構造に関わる設計コンサルタントや一般社団法人 日本ツーバイフォー建築協会等の団体によるセミナー講師を歴任する住宅性能のスペシャリスト。
- ※1 [出典](一社)日本建材・住宅設備産業協会 省エネルギー建材普及促進センター「省エネ建材で、快適な家、健康な家」より。
- ※2 「冷房期の平均日射熱取得率ηAC」の計算には、床と換気による日射侵入は含まれません。
- ※3 実際の値はサッシの枠の見付け面積相当分も考慮されます。また、入射した日射熱が室内側に放出される熱量も含みます。
- ※4 開口部比率の計算が不要な「開口部比率(に)」区分の値を記載しています。
- ※5 別途、試験値・計算値を用いた比較的に有利な性能値もあります。また、エルスターXはトリプルガラスのため、本表に記載していませんので、「平成28年省エネルギー基準評価対象製品性能一覧 暖冷房(外皮:ガラス・建具ごとの日射熱取得率)」をご参照ください。
2021年4月以降に設計を委託された住宅について、物件ごとに省エネ計算を実施し、省エネ基準への適否や対応策をお施主さまに説明することが、建築士の義務になります。新登場の「LIXIL省エネ住宅シミュレーション」は、お施主さまへの説明義務を果たすための説明資料や提案資料、認定・優遇制度の申請時に必要な計算書も、WEB上でのカンタン操作でパッと自動作成できます。
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https://www.biz-lixil.com/service/proptool/shoene/
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公開日:2019年12月17日