2021年に向けた省エネ住宅づくり連載コラム(第4回)

外皮平均熱貫流率 UAをマスターしよう!
~まるわかり解説と建築士の対応方法~

久保田博之 (住宅性能設計コンサルタント・一級建築士、株式会社プレスト建築研究所 代表取締役)

今回のコラムでは、説明義務で必要となる3つの基準の内、まずは断熱性能に直結する「外皮平均熱貫流率 UA」を取り上げて、カンタンで最適な省エネ住宅のつくり方のテクニックを説明します。なお、実際の計算はLIXIL省エネ住宅シミュレーションが自動で行ってくれますので、具体的な計算方法ではなく考え方を理解しましょう。

まずは、前回のおさらいから始めます。外皮から逃げる熱の総量を「外皮熱損失量」と言い、外皮熱損失量を外皮の面積で割って平均化した値にしたものが「外皮平均熱貫流率 UA」でした。
なお、「外皮熱損失量」や「外皮平均熱貫流率 UA」は外皮の「熱貫流率 U」より求めることが出来ます。整理すると、以下の順番で求めていくことになります。

「外皮平均熱貫流率 UA」の算出に必要となる「外皮の熱貫流率 U」

さて、「熱貫流率 U」という新しい用語が出てきました。「熱貫流率 U」は外皮の断熱性能を表し、「外皮平均熱貫流率 UA」は住宅全体の断熱性能を表します。そのため、単位もW/(㎡・K)で共通となりますので、両方の値を混同しないようにしましょう。なお、「UAのA」は平均のアベレージの略称であることを覚えておくと、区別しやすいです。

「外皮平均熱貫流率 UA」を求めるためには、外皮のすべての部位の「熱貫流率 U」の値が必要になります。外皮の「熱貫流率 U」の値が小さいほどその外皮の断熱性能が良くなり、その結果として「外皮平均熱貫流率 UA」の値も小さくなり住宅全体の断熱性能も良くなる関係です。数値の大小関係がややこしいため、こちらも混同しないようにしましょう。

「外皮平均熱貫流率 UA」に大きく影響する「開口部の熱貫流率 U」

下の図は、冬の暖房時において、外皮から屋内の熱が逃げる割合を表した図です。開口部のサッシや玄関ドアが、住宅全体から逃げる熱の半分以上を占めていることがわかります。つまり、外皮の中でも、サッシや玄関ドアの「熱貫流率 U」が最も重要なのです。

冬の暖房時の熱の流失割合

冬の暖房時の熱の流失割合※1・2

では、どれくらいの「熱貫流率 U」のサッシや玄関ドアを使えばよいのでしょうか?まず、最低限のレベルとして参考となるのが、省エネ基準告示の「地域区分ごとに必要となる開口部の熱貫流率 U」です。例えば、6地域の場合には、3.49以下[W/(㎡・K)]となります。(下表参照)

地域区分ごとに必要となる開口部の「熱貫流率 U」

地域区分 1 2 3 4 5 6 7 8
主な地域※3 北海道
旭川
北海道
札幌
北東北 南東北・栃木・
新潟・長野
その他 宮崎・鹿児島 沖縄
開口部の熱貫流率 U
[W/(㎡・K)]※4
1.6以下 1.6以下 1.6以下 2.33以下 3.49以下 3.49以下 3.49以下

サッシや玄関ドアの「熱貫流率 U」は、メーカーより性能値が公開されています。カタログで「熱貫流率 U」を確認することもできますが、LIXILビジネス情報サイトから調べる方法が、色々なサッシの「熱貫流率 U」を一覧で確認できるので便利です。

以下のURLより、LIXILビジネス情報のWebサイトにアクセスして、
法令・制度の中の「建築物省エネ法」→ LIXILの対象製品 → 開口部(平成28年基準)→ ①建具とガラスの組み合わせ を参照します。

https://www.biz-lixil.com/service/law/energy-saving/products/windows_doors-28.html

開口部(平成28年省エネルギー基準対応)

「開口部の熱貫流率(木造 窓、框ドア・引戸)」のPDFのアイコンをクリックすると「平成25年・28年省エネルギー基準対象製品一覧」がダウンロードできますので、この一覧の中からLIXILの代表的なサーモスⅡ-Hを確認してみましょう。

通常、複層ガラスの中空層の厚さは16㎜ですので、ガラスと中空層の仕様が「複層ガラスA10以上」・「遮蔽物無し」で熱貫流率 Uが3.49[W/(㎡・K)]となります。(下表①参照)

「開口部の熱貫流率(木造 窓、框ドア・引戸)」から抜粋

「開口部の熱貫流率(木造 窓、框ドア・引戸)」から抜粋

ここで重要なポイントになるのが、同じサーモスⅡ-Hでもガラスや中空層の仕様によって熱貫流率が異なるという点です。例えば、複層ガラスをLow-Eに変更すると「Low-E複層ガラスA10以上」となり、熱貫流率 Uが2.33[W/(㎡・K)]と性能が良くなります。(上表②参照)

さらに中空層にアルゴンガスを採用すると「Low-E複層ガラスG16以上」となり、熱貫流率 Uが2.15[W/(㎡・K)]と、さらに性能が良くなります。(上表③参照)なお、A10やG16とは、複層ガラスの中空層に乾燥空気が封入されている場合は「A」、アルゴンガス等のガスの場合には「G」、数字は中空層の厚さを示しています。

ガラスと中空層の仕様の違いによる熱貫流率の大小のイメージは、以下の通りとなります。

ガラスと中空層の仕様の違いによる熱貫流率の大小のイメージ

ガラスと中空層の仕様の違いによる熱貫流率の大小のイメージ

また、LIXILの代表的なサッシの「熱貫流率 U」をまとめると、以下のようになります。

開口部の熱貫流率[W/(㎡・K)] 1.6 1.90 2.15 2.33 3.49
ガラスと中空層の仕様 ダブルLow-E
三層複層ガラス・
アルゴンガス
Low-E
複層ガラス・
アルゴンガス
Low-E
複層ガラス・
アルゴンガス
Low-E
複層ガラス・
乾燥空気
一般複層ガラス・
乾燥空気
サッシ商品名 エルスターX
エルスターS
サーモスX
サーモスⅡ-H/L

LIXILの代表的なサッシの「熱貫流率 U」※5

このような方法でサッシや玄関ドアの「熱貫流率 U」を確認し、その値を用いて「外皮平均熱貫流率 UA」を計算します。もし、「外皮平均熱貫流率 UA」の基準値を超えてしまった場合は、「熱貫流率 U」の値が小さくなるようにサッシのガラスや中空層の仕様を変えて、再度、「外皮平均熱貫流率 UA」の基準を満たすかどうかを計算すれば良いのです。また、サッシのガラスや中空層の仕様の変更ではなく、サッシや玄関ドアの商品を変更する方法でも構いません。例えば、サーモスⅡ-Hから、上位グレードのサーモスXに変更するイメージです。

このように、「外皮平均熱貫流率 UA」が基準値を超えてしまった場合にも、サッシや玄関ドアを変更することが最もカンタンな方法なのです。断熱性能の弱い部分を強化するという意味でも、理にかなった省エネ住宅の設計テクニックです。それでも基準値を達成出来ない場合には、外壁や天井等の断熱材の厚さや性能値も良くしてみましょう。

次回のコラムでは3つの基準の内、冷房期の平均日射熱取得率 ηAC(イータエーシー)を取り上げて、カンタンな省エネ住宅のつくり方のテクニックを説明していきます。

この連載コラムを読んで実践して頂ければ、「住宅の省エネ性能の説明義務化」の準備は万全!ぜひ、この連載コラムを通して、今から2021年に向けた省エネ住宅づくりの準備を始めていきましょう。

久保田 博之

コラム執筆者紹介

久保田 博之

株式会社プレスト建築研究所 代表取締役 一級建築士(構造設計一級建築士)
木造住宅の温熱環境・構造に関わる設計コンサルタントや一般社団法人 日本ツーバイフォー建築協会等の団体によるセミナー講師を歴任する住宅性能のスペシャリスト。

  1. ※1 [出典](一社)日本建材・住宅設備産業協会 省エネルギー建材普及促進センター「省エネ建材で、快適な家、健康な家」より。
  2. ※2 外皮平均熱貫流率 UA」の計算には、換気による熱損失は含まれません。
  3. ※3 平成28年1月29日 国土交通省告示第265号より。今後、一部の地域区分が見直しされる動向となっています。
  4. ※4 開口部比率の計算が不要な「開口部比率(に)」区分の値を記載しています。
  5. ※5 採用されるガラスの厚さ等の条件により、該当する熱貫流率が異なる場合もあります。別途、試験値・計算値を用いた比較的に有利な性能値もあります。
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公開日:2019年11月18日