リノベ工務店サミット内セミナーアーカイブ
窓リノベが工務店にもたらす可能性
理念を実現する手段拡大
株式会社 建築工房 零 代表取締役社長
小野幸助 氏
プロフィール
「零の家 暮らしを取り戻す。」を合言葉に、自然のエネルギーを活用した住まいと暮らしを提案している建築工房零(宮城県仙台市)では、窓リノベにも力を入れている。リノベであっても、室内外をつなぐ窓の役割は変わらない。LIXILの取替窓(カバー工法)「リプラス」、そして「高性能窓TW」を使った同社の窓リノベ事例から、「工務店ならでは」の窓リノベのエッセンスを読み解いてみよう。
窓リノベで開口部の魅力化
今回取り上げる事例は、今年7月に行われたT様邸の窓リノベだ。築約40年の木造2階建て住宅で、計4カ所の窓を交換し、あわせてデッキやオーニングを設置。庭の一部を“アウターリビング”とし、リビングが外部に広がる開口部をつくり出した。庭になかった空間をアウターリビングとするためにデッキやオーニングも付けて、開口部の魅力化と暮らしの質を上げる、家の中がより広がるようなリノベーションを行った。
1階LDKの引違い窓(北面1カ所、西面2カ所)はリプラスで改修。南面の掃き出し窓はTWに交換した。費用は200万円台。
当初の予定では、窓を交換するだけだった。しかし、社長の小野幸助さんは「窓交換だけではお客様の潜在的な要望には応えられないし、本当の意味での“暮らしのリノベーション”にはつながらない」と話す。ヒアリングから、小野さんはこの顧客が「広く感じるリビング」を求めていると察知し、窓の改修に合わせてデッキなどを提案するに至ったという。「工務店がすべきは“暮らしを良く”する提案。そのためには、的確な提案をするための引き出しを持たなくてはいけない」(小野さん)。
リノベによって生まれたアウターリビング
提案の引き出しを増やす
窓リノベの手段として真っ先に上がるのは内窓だろう。一方で、老朽化して開閉しづらくなったサッシそのものを替えたいと考える顧客も多いのが現実だ。とはいえ、サッシ交換は大がかりで、外壁の工事などと合わせて実施すると、費用対効果が見合わないこともある。
取替窓のリプラスは、カバー工法で既存の壁・窓枠を残したまま施工できる。費用も安価で済むし工期も1日で取り付けが可能。住みながらの工事も可能だ。
小野さんは「内窓以外のケースに対応するために、工務店は取替窓を提案の引き出しとして備えておくといい」という。まずは内窓による窓リノベを提案し、老朽化などが気になる場合は、取替窓を含めた提案ができるのがベターだ。
LDKで施工した3箇所のリプラス
条件による窓の使い分け
今回の事例では、北面と西面の3カ所はリプラスを使用、南面は大開口かつリビングと庭をつなげる大事な空間であったため、外壁を修繕してサッシ自体をTWに交換した。窓それぞれには特性があるため、理念を追求するためには、内窓・カバー工法・サッシ交換の使い分けが大事だ。
小野さんがTWを採用する理由は「外とのつながり」「大開口サッシ」「性能」の3つだ。TWは窓フレームのラインが細く、ガラス面積が大きいため「外とのつながり感を最も美しく表現することができる」。また幅3000oを超える大型サイズがラインアップされており、外とのつながりはもちろん、日射を最大限に取得できる窓をつくりやすいのも大きな魅力だ。性能面では強度と耐久性、トップクラスの断熱性のバランスを評価している。
また、同社では南面の窓にLow-Eペアガラス クリア(アルゴンガス入り)を使用している。これは宮城県仙台市の気候風土を前提に温熱環境をシミュレーションした結果、「日射熱取得率が良く、断熱性能と意匠性を両立できる有効な仕様だと判断したから」。また、仙台市のような日射取得が高い地域では、あえてトリプルガラスではなくペアガラスを用いることで日射取得を増やし、光熱費の削減につなげる提案を考えることも重要。
小野さんは「断熱性のスペックだけでなく、地域の気候や敷地条件によって、適切な窓・ガラスを使い分けていくことが重要だ」と話す。
ビフォーアフター:高性能窓TWを使用した開口部(内観)
ビフォーアフター:高性能窓TWを使用した開口部(外観)
提案が響くお客様に出会う努力
同社の理念を理解し、本質的な暮らしの改善を提案して納得してもらえる顧客に出会うには「『会う努力』と『育てる努力』が必要」と小野さん。優れた提案であっても、顧客が求めていないことであれば、どんなに語ったところで響かない。そのため「(顧客に)響かせるために努力する」と同時に、より多くの人に知ってもらうための母数を増やし、会うための努力が必要になる。より多くの顧客に暮らしの改善を伝えていくには、両方の活動に取り組み、確立を向上させることが必要だ。
そして小野さんは、顧客を育てるためには情報発信の強化が有効と考え、育てる努力を強く意識する。多くの工務店が取り組んでいるYouTubeやInstagramなどのSNSに加えて、長年地元FM局でのラジオにも出演する。
SNSは媒体毎に訴求する内容を決めている。YouTubeはロジカルな内容を好む方が視聴することが多いので「自社の世界観を理論で説明し、納得度を高める」ことを意識する。対して、Instagramは感性・イメージを重視している方が閲覧することが多いので「感性に響く、世界観を伝える写真」を投稿する。
暮らしの改善効果を知っている顧客は既に取り組んでおり、その数は限られる。そのため小野さんは「育成を通じて“いい暮らし”が一般に広く普及することは、多くの建物の価値が上がることと同義で社会的に意義がある」ことだと捉えて取り組んでいる。
工務店が窓リノベを提案する理由
同社としてはは「より良い暮らしをお客様に届ける」ことが目的であり、小野さんは窓リノベを「届けるための手段のひとつ」として捉えている。
小野さんが大事にしている「内と外をつなぐ世界観」は、暮らしの質の向上には欠かせない要素だが、外からの視線が室内まで届いてしまう可能性もあり、設計時には、外部からの視線を遮るための配慮が必要になる。しかし、利益だけを追求し、「窓リノベの表層的な部分だけを真似すると、結果として暮らしの質を低下させるきっかけになる可能性さえある」と小野さんは警鐘を鳴らす。「だからこそ理念を第一に考えるべきで、技術や設計が理念に追従し、最後に手段としての窓リノベがある」。逆に窓リノベありきで考えると、チープな住環境しか生まれない。
小野さんは「本質を掴む提案こそ市場全体に好循環を生む」と話す。良質な暮らしが一般化していくことで「暮らしの質を上げたいと考える工務店にとっては引き合いが増えていくきっかけができる」からだ。
窓リノベ後のLDK空間
小野幸助 氏
株式会社 建築工房 零 代表取締役社長
1976年宮城県仙台市生まれ。 大学卒業後、機械メーカーに就職したが、建築を志し転職。つくっては壊すスクラップ&ビルドが大半であった建築業界で、目先の便利さ・快適さばかりを追求し、エネルギーや資源を使い散らかす家づくりのあり方を目の当たりにし、『家づくりから消費型社会を変える』『脱・化石燃料生活』を掲げ起業を決意。28歳で建築工房零を設立。『零の家 暮らしを取り戻す。』を合言葉に、太陽や風、木といった自然を活かす建築と、自然エネルギーを使った暮らしを提案し続けている。2018年7月、姉妹会社(株)アオバクラフト代表取締役となり、現在2社の代表取締役として活動中。