デザイナーの視線から見えた多様な課題に応える
トイレデザインの可能性

上垣内泰輔(デザイナー)× 大野力(建築家)× 石原雄太(LIXIL)

『商店建築』2016年11月号 掲載

「天神地下街」設計/丹青社(『商店建築』16年11月号)西6番街のトイレのエントランス
同トイレをパウダールーム方向に見る(2点とも撮影/石井紀久)

機能分散か、共用化か

編集部:

大野さんは、ダイバーシティー社会におけるトイレのあり方について、どのように感じていらっしゃいますか。

大野:

求められる機能に応じて、すべてにそれぞれの空間を設置しようという方向には疑問があります。ダイバーシティー社会のニーズの細分化はこれからも進むはずですから、個々の都合に合わせた仕切りをつくっていたら際限がないし、それぞれ何室用意すべきかという配分の問題がつきまとう。時代の変化に対応できないでしょう。

上垣内:

私も同感です。車椅子専用トイレを確保した上で、トイレを男女共用にしたらどうでしょうか。ミラノ・デザイン・ウィークの市内の会場ではパブリックトイレの列に男女が一緒に並んでいて、向かい合わせになったブースの中へ順序良く入っていきました。マナーとルールさえ確立されれば共用化も合理的だと思います。

石原:

当社でも共用化について調査しましたが、男性が小用した大便器を使うのは嫌だという女性の声が多くありました。そこで大便器と小便器をセットしたブースも提案したのですが、これも抵抗があるとの意見でした。また世界7カ国でアンケート調査をしたところ、文化的、宗教的な理由から共用を好まない国もあり、来日時、パブリックトイレに異性の清掃員が突然入ってきて驚いたという方もいました。各国でジェンダー(※4)の捉え方は異なるので、それに合わせたソフト面も大切だと感じます。

大野:

一度ジェンダーという概念から離れた方が良さそうです。例えば、多機能トイレのアプローチは、車椅子動線を考慮して通路幅を広くする必要があり、トイレエリアの一番手前に配置される傾向が強い。一方、その後の男女トイレへの通路は、ひとつでも多くのブースをとるため通常の幅に戻すことが多いと思います。そこから一つの提案なのですが、入り口近くは広く開放的なトイレにして、奥に行くほど狭くプライバシーを確保できる個室にするアイデアはどうでしょうか。そうすれば、他人に見られたくない人は奥に進んでいき、手早くしたい人は手前で済ますといったゾーニングができるかもしれません。つまり、身体的特性ごとに空間を仕切るのではなく、プライバシーという視点から空間のグラデーションだけを用意するのです。仮に奥のトイレが混んでいても、それは自分の指向だから仕方ないと納得してもらえると思います。

上垣内:

それぞれの指向に合わせて個人が選べば良いという考え方は共感できます。丹青社では、NPO法人ユニバーサルイベント協会と「ユニバーサルキャンプ in 八丈島」を共催し、毎年社員が参加しています。障害の有無・年齢・性別・国籍に関係なく、多様な参加者と交流する中で、「こうするべき」「こうあるべき」という方向が、本当はお互いを認め合うことにはならないことに気づかされます。体験してみて初めて気づき、自分で考えたり動けるようになります。デザイナーにはこうした体験も大切ですね。

大野:

私も子供が生まれて初めてベビーカーを押して外出した時に、今までとは異なる都市の姿が浮かび上がってきて驚きました。新宿駅新南エリアのコンコースを設計した際も、点字ブロックをどこで結べばいいか分からず苦心しました。見なれた光景も、自分で体験しなければ理解できません。

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公開日:2017年05月31日