海外トイレ事情 24

ルワンダ、ルリンド郡マソロ村 ──
トイレから考える国際開発協力

庄ゆた夏(General Architecture Collaborative主宰)

東アフリカの小さな国ルワンダへはこの10年ほど毎年、国際開発協力のなかでの建築、都市計画の役割を研究しに訪れている。2011年には首都キガリにあるこの国唯一の建築学部で教鞭をとり、2015年に事務所を立ち上げる前から現地の方々とともにつくれる低価格、ローテク、ローカル素材を使うデザイン、建設に携わっている。しかし来たばかりの頃も活動の盛んになったいまも、拠点はキガリから1時間ほど北の田舎の村、ルリンド郡マソロ村である。

ルワンダは内陸国で、建築素材としては土以外ほとんどすべて輸入に頼るほど資源が乏しく、おまけにとっても起伏が激しい。だからお隣のケニアに比べて建設費用が20%から40%高いと言われている。田舎の建物は中流階級用も低所得者用も日干し煉瓦でできていて、雨期にはドロドロ溶けてしまう。私たちは2013年と15年にアース・バッグという、つまりは土嚢を使った壁で家をつくり寄付した。アース・バッグはポリプロピレンという石油の副産物でできていて、建設技術は簡単でほとんど誰にでも壁がつくれる。高い建設技術をもたないマソロ村民とともにつくれて、自然分解しない代わりに長持ちし、メンテナンスの費用のない低所得者住宅にはぴったり!と、思ったが、石油のないルワンダには当然石油の副産物もなく、結局一番近いウガンダから副産物の輸入をするという羽目になった。いまはマキガというウガンダの会社のISSB(Interlocking Stabilized Soil Block)という、土にちょっとだけセメントを足し圧縮した日干し煉瓦を試してみている。結構順調である。

ルワンダ北方の田舎の風景 _

ルワンダ北方の田舎の風景。

アース・バッグの家、建設過程

アース・バッグの家、建設過程。

ISSBの壁

ISSBの壁。

ISSBは漆喰を塗るとほかの煉瓦やコンクリートの建物と見分けがつかない

ISSBは漆喰を塗るとほかの煉瓦やコンクリートの建物と見分けがつかない。マソロ村ケート・スペード工場にて。

ルワンダには統一された下水道がない。田舎でも都会の非正規地区でも低所得者の各家はぼっとん便所を掘って、いっぱいになったらまた掘って用を足している。マソロでは深い穴を掘るのにだいたい30,000RFW(3,600円ほど)かかる。高い。だから村人には林のなかでしてしまう人も結構いる。大も小も同じ穴にぼっとんするので臭い。中流階級の人は水洗トイレをつけて、大と小が分けられるコンクリでできたセプティック・タンクに溜めていく。いっぱいになるとトラックでパッコンと吸いとりに来る。はずであるが、そんなトラックはまだ見たことがない。マソロ村にヘルス・センターを建てた時は私たちもトイレにそれを使った。やっぱり高い(4,000,000RFW=490,000円ぐらい)。

マソロ・ヘルス・センターの水洗トイレ

マソロ・ヘルス・センターの水洗トイレ。セプティック・タンクは建物の向こう側の地下に埋め、見えないよう、匂わないように隠した。

次の仕事ではカーブのかかったISSBを使って雨水タンク、セプティック・タンクの両方をつくってみる予定である。でもセプティック・タンクは匂いの元の尿を分けてもやっぱり臭い。日本人が設立したOrganic Solutions Rwandaという会社が匂いを抑える溶液を開発して学校、病院などで使用しているので今度使ってみようと楽しみにしているが、田舎の病院に消臭剤を常時供給しろと言っても無理な要求である。病院に新しい水洗トイレをつくる前はぼっとんで、そこにはトイレットペーパーもなく、外には足で作動するペダルで水がバケツへ落ちてくる手洗い器があった。新しい水洗トイレと蛇口から水が出る洗面台をつくってから、院長がトイレットペーパーと水のコストが上がった!と文句の電話をかけてくる。でもこのほうが患者さんのためになるし、厚生省が新しい病院は水洗と決めてしまったのだから、建築家としては仕方がない。ルワンダでは、とくに田舎では水不足がひどい。乾季には値段が4倍にも膨れ上がるので、院長さんの心配にも一理ある。水汲みには待ち時間も含めて1時間以上かかることもあり、それはたいてい女性と子どもの仕事である。子どもはそのせいで学校に行けなかったりする。患者さんのほうも水洗に慣れていなくてお互い困る。ぼっとんが普通の田舎では匂い消しに穴に土を放り込む。だから病院の水洗トイレにも土が詰まっているのを発見して、ありゃーと思うのと、だよねーと納得するのと同時である。字の読めない人も多いので、今度「土ダメよ! ボタン押して水流してね!」という絵文字をデザインして貼らないといけない。

普通の洗面台と、足ペダルで操作する洗面台

普通の洗面台と、足ペダルで操作する洗面台。マソロ・ヘルス・センターで。

ポンプの前で村人が順番を待つ

ポンプの前で村人が順番を待つ。

私たちはマソロ村の公立学校の校舎と校庭の建設も手伝っているが、ルワンダの高校には「女子の部屋」を設置することが決められている。そこは生理中の女子が着替えたり休んだりできる部屋で、もちろんトイレもある。マソロ高校も建設を始めたが、お金がなくなって途中でストップしてしまった。おまけに校庭のエントリーのすぐ側なので目立ちすぎて思春期の女子用にはどうかと思う。そのせいだか知らないが、最近また建設の始まったこの建物は職員室になるそうだ。ということは、これからも女子は水道もなく、トイレットペーパーもなく、汚物入れもなく、生理痛の時ひっそりと座れる場所もないぼっとん便所を使わないといけないと思うと、ふびんでならない。

マソロ高校の「女子の部屋」は職員室に用途転換

マソロ高校の「女子の部屋」は職員室に用途転換。(すべて筆者撮影)

ルワンダは国際援助金受領大国である。美しい建物を建てたり貴重なハイテク医療器具などを寄付する心の優しい人々がこの国にはたくさん来る。でもその後、その建物のメンテナンス費用、医療器具を作動させる電気やプリントアウトの紙の費用、水洗トイレのトイレットペーパー、水の費用をどうやって工面するか、またその建物の社会的・文化的な影響を考える人は少ない。ポンとお金を落っことしてお国に帰ってしまうことが多々ある。受領国のほうも援助金欲しさのために近代化をアピールしようと、無理な建築法を押し付けることがある。おいてけぼりになってしまうのは田舎の低所得層だ。ルワンダのトイレ事情を通して国際開発協力を見直してみたい。

庄ゆた夏(しょう・ゆたか)

1972年生まれ。General Architecture Collaborative主宰、ニューヨーク州セラキュース大学建築学部准教授。設計、施工のほか、建築の紛争緩和、和解、震災復興における役割についてリサーチ、フォーラムを米国、ルワンダ、日本などで行なう。主な論文=「Looking Like Developed: Aesthetics and Ethics in Rwandan Housing Projects」(2014)、「Fukushima Dark Tourism」(2016)、「Darker Side of Engagement」(2018年刊行予定)ほか。

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公開日:2018年04月25日