海外トイレ事情 18
ガーナ、アクラ ── パブリック・トイレから地域自治を問う
小竹輝彰(大阪大学大学院博士前期課程)
まさか学生のあいだにこの国を訪れることになるとは。日本では秋麗の候、大荷物を抱えながら初めてガーナの地に足を踏み入れた時の感想は、ただ「暑い」の一言に尽きた。
市街地では、子どもが家事の手伝いをしたり、老人が道端で寝転がったり、住民たちが平穏な生活を送っている風景が目に映る。しかしそのような場所が、現在のガーナの土地管理の側面から言うと「非正規」の市街地に分類されている。私は首都アクラの中心部にほど近い非正規市街地を中心に踏査したのだが、非正規だからといって、けっして治安が安定しない不法地帯のようなエリアということではない。むしろ、住民たちの力で地域運営やインフラ整備までやってのけてしまう、自治地域である。
このような、自分たちでインフラまでもつくり上げてしまうという点にポテンシャルを感じたため、短期間の滞在ではあったが、地域のトイレ事情について地図の作成やインタビューを行なった。この場では、それを通じて得られた知見をもとに、日本人の常識とはかけ離れた「パブリック・トイレ」について紹介したいと思う。
トイレを使えるのは誰か
居住区内を探索していると、狭いドアが横一列に並び、中からは便器が顔を覗かせている、日本に住む私でも、明らかに「あっ、トイレだ!」と判別できる建物に出会う。
トイレは居住区内に点在しているが、誰もが自由に利用できるわけではない。血縁関係に基づく地縁組織であるクラン(Clan)ごとにトイレの整備や管理をしているため、トイレを使うことができるのは、そのクランに所属する人である。インタビューによれば、トイレの隣に居を構える住民でさえ、異なるクランに所属していれば、そのトイレを使うことはないという。
壁と屋根こそあるものの、半開きのドア一枚で外とつながるトイレは、住宅の機能の一部というよりは、住宅から独立した屋外の機能である。個室内には便器がひとつあるだけの、いたってシンプルなつくりで、電気もなければ紙もない。利用に際して、住民たちはバケツに水を汲んで持ち込んでいる。
有料のパブリックトイレ
大西洋にほど近い居住地の南端に、そのトイレはあった。一般的な民家より大きな建物の入り口には受付の男性が待ち構え、中に入るには5GHS(日本円で約100円)が必要だという。おそるおそる中に入ると、なんと綺麗に清掃された個室のトイレたちが。しかも居住地では珍しい、男女で分けられた秩序あるトイレである。
このトイレは、料金さえ払えばクランに関係なく誰もが利用可能であり、主な利用者はクランにトイレを持たない人々や来訪者である。そういった意味で、最もパブリックなトイレなのかもしれない。ただし、広い地区内に1カ所しかないため、5分以上かけてアクセスしなければならない人もいる。
水まわりに関連する2つのタンク
未舗装の居住地を探索していると、ところどころコンクリートで舗装された「○」が地面から頭を出している。現地の方に尋ねると、これは糞尿を溜めておくタンク「Septic Tank」だという。直径・深さともに4フィートの円筒型をしたこのタンクは、もちろん公的に整備されたものではなく、クランによって設置されたものである。ひとつのトイレに対して必ずひとつ以上のSeptic Tankが付随しており、逆に言えばSeptic Tankがあれば近くにトイレがあることを示唆している。
コンクリートで塗り固められたSeptic Tankも、一定量溜まると蓋を開け、クランが料金を払うことで民間の衛生車が回収する。その際、吸引ポンプの長さに限度があるため、Septic Tankの位置は車両の通行できる大通り沿いに限定され、先の分布図からもトイレの位置が地区の外縁部に多いことが確認できる。
こうしたエリアには別種のタンクも存在している。地上の、屋根の上に積まれたタンクである。これは生活用水を蓄えておくタンク「Water Tank」であり、すべてのトイレに搭載されているわけではない。大きさや置き方もさまざまであるが、Septic Tankと同様、車両とタンクをつなげることで水を蓄え、しばしば発生する断水時でも利用できる。
おわりに
ガーナの非正規市街地におけるトイレ整備は、住民たちの力で設置から維持管理まで行なわれる、自治の一環である。日本では当然のごとく公的に整備されているトイレについて、立ち止まって考え直してみる機会を提供してくれるのではないか。
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公開日:2018年01月31日