海外トイレ取材 6

西海岸とパブリック・スペース(前編)

浅子佳英(建築家、タカバンスタジオ)

Amazon Go(アマゾン・ゴー)

もうひとつのITと実空間の直接的な融合、そしてパブリック・キッチンに関連するものといえば、今年はなんといってもAmazon Goは外せないだろう。Amazon Goは、2018年1月22日、シアトルに1号店がオープン。その後、シアトルとシカゴに2店舗、サンフランシスコに1店舗の計6店舗がオープンしている(2018年11月現在)。公式サイトによるとシカゴにもう2店舗、サンフランシスコにもう1店舗の開店がすでに予定されていて、今後も店舗数を増やす計画だという。今回訪れたのはサンフランシスコのオフィス街にあるCalifornia & Battery店だ。

Amazon Go外観

Amazon Go外観

アプリの説明画像

アプリの説明画像。基本的にはアプリをダウンロードし、入店時にゲートにかざすだけだ。購入後は商品を持って出ていくだけ。ただ、店内でほかの人に商品を手渡すことは禁止されている

店内に入るためには最初はちょっとした手続きが必用だ。といっても簡単なもので、Amazon.comのアカウントがあればAmazon Go専用のアプリをダウンロードするだけ。アプリにQRコードが発行されるので、それをゲートのリーダーに読ませればよい。まさにSuicaに代表されるICカード乗車券で改札内に入るような雰囲気だ。店内は食品を中心に商品が綺麗にディスプレイされており、黒を基調にしていることも相まって、日本のコンビニに比べると落ち着いた大人のコンビニといった雰囲気である。とはいえ、売っている商品自体はそれほど特別なものがあるわけではなく、いわゆるコンビニと変わらない。また、人の動きをセンサーによってトラッキングしているというが、ユーザー側としてはどうなっているのかその仕組みを見られるわけではないので、そこでの体験にもいわゆるコンビニと違いはない。一応棚から商品を出したり戻したりしてみたが、当然なにかが起るということはない。どこかにある計算機では、センサーの読み取りをもとに筆者のアカウントのカートに商品を入れたり出したりしているのだろうがそれは見えないからだ。

ゲート
ゲート

ゲート。黒い部分にタッチして入店する

黒と木を基調としており、日本のコンビニと比べると落ち着いた雰囲気

黒と木を基調としており、日本のコンビニと比べると落ち着いた雰囲気

棚の詳細。壁面上部に配線が見える。棚は重量センサーがついているようである。商品はサンドウィッチやサラダが充実している

棚の詳細。壁面上部に配線が見える。棚は重量センサーがついているようである。商品はサンドウィッチやサラダが充実している

天井。よく見ると無数のセンサーが設置されている

天井。よく見ると無数のセンサーが設置されている

ただ、品揃えとして目立ったのは、サラダやサンドウィッチなどランチタイムの食事が充実していることで、その意味では周囲で働く人たちのキッチンの役割を果たしているといってもいいだろう。実際、イートイン・スペースもあって店内(といってもゲートの外)でも食べられるようになっている。近年、日本では外食の割合は減少しているが、調理済みの食料を購入して自宅で食べる、いわゆる中食の割合は増加している。Amazon Goが日本に進出する場合もまずはこの層をターゲットにするのではないだろうか。

ゲートの外にあるイートイン・スペース。ちょうどスタッフが客にアプリの使い方を教えてあげていた

ゲートの外にあるイートイン・スペース。ちょうどスタッフが客にアプリの使い方を教えてあげていた

2台の電子レンジと給水器。ひとり暮らしだと中途半端なミニキッチンよりはこちらのほうがリアルの感じられる

2台の電子レンジと給水器。ひとり暮らしだと、中途半端なミニキッチンよりはこちらのほうがリアルに感じられる

トイレはひとつ。現状ではスタッフの数がかなりいて、わからないことがあれば教えてくれたり、アプリの設定などを手伝ってくれる。また、シアトル店にはガラス張りのキッチンが併設されており、サンドウィッチやサラダをつくる大勢のスタッフが外からも見えるようになっている。レジのない店舗に大量のスタッフというのは、本末転倒という気もするが、人件費の削減が目的ではなく、あくまで客がレジに並ぶ必要がなくなることがポイントだろう。現に日本でもオフィス街にあるランチタイムのコンビニの行列は深刻なので並ばないレジは理に敵っている。

イートイン・スペースの反対方向を見る

イートイン・スペースの反対方向を見る

トイレは従業員に言って鍵を開けてもらうスタイルだった

トイレは従業員に言って鍵を開けてもらうスタイルだった

やはり男女共用の大きなトイレ。おむつ替え用のベッドも用意されている

やはり男女共用の大きなトイレ。おむつ替え用のベッドも用意されている

便器
鍵

ひとつのブースのなかに小便器と大便器の両方がついている。鍵は番号で開くタイプだ

Amazon Goの体験を上手く言葉で言い表わすのは難しいが、個人的な印象としてはクレジット機能付きのSuicaやAmazonでの書籍のショッピングに似ている。感覚的なものなので、これにはもちろん個人差もあるだろうが、筆者はクレジット機能付きのSuicaを使用してから、電車賃というものをまったく気にしなくなった。同様にAmazonを使うようになってから、書籍も書店のようには吟味せずについクリックしてしまう。Amazon Goのセキュリティが電車の改札に似ているというだけでなく、われわれがすでに「ピッ、ピッ」と改札機にタッチし、何も考えずに乗り換えアプリに従って移動するようになったように、Amazon Goが普及した際には好きな時に好きなものを何も考えずに棚から取るという状態になるのかもしれない。街中に大量のモノが転がっていて、それを好きな時に採る。まるで動物が森で木の実をもぎとるかのように。

Amazon Goは近年急速に普及しているネットショッピングとリアルショッピングの融合でもあるわけで、リアルな社会や生活にどれぐらいの影響を及ぼすのかはまだ未知数だが、ショッピングという行為そのものの大きなパラダイムシフトがここから起きるかもしれないと思わされた。

Uber(ウーバー)

売っている商品そのものは同じでも、買い方が変わればその体験はまったく違うものになる。Amazon Goはまさにその例だが、同様に、提供するサービスは同じでも提供のされ方が変わればその体験は大きく変わる。その意味で最も大きな体験の差を感じたのは、自家用車で乗客を運ぶライドシェア・サービス「Uber」である。Uberは、誰かの運転する車に対価を払って乗せてもらい移動するという意味ではタクシーと同じだ。だがその体験は、多くの人が語っているとおりタクシーとはまったく違う。特に旅行先で地図も地名も道路も時には言葉もわからない観光客にとっては、絶大な力を発揮する。体験するのが手っ取り早いのだが、簡単に記してみよう。

まず地図アプリで行き先を調べる。グーグルマップではなくCitymapperというアプリを使用するのが個人的にはお奨めだ。すると、徒歩、自転車、Uber、Lyft(Uberと同じライドシェア企業でライバル会社)の4種類それぞれで移動した際に必用な時間が表示される。 Uberをクリックすると相乗りかどうかと車種が選べるようになっているので選んでクリック。自動的にUberのアプリが立ち上がるので確認ボタンをクリックするともう配車が手配されている。配車までにかかる時間と車種とナンバーが表記されるので確認。到着直前と到着時にはアプリで通知が来るので、間違いも少ない。車が到着すると車種とナンバーを確認したうえで確認のためにドライバーに挨拶とともに名前を告げれば、あとは自動的に──正確にはドライバーが目的地まで──連れて行ってくれる。

金額はあらかじめ表示されており、いくらになるのかと気を揉むことはない。目的地は位置情報として共有してあり、そのデータをドライバーもカーナビとして使用しているので場所を伝えるのに苦労することもない。さらに移動中もアプリで自分が今いる場所をリアルタイムで見られるので安心である。到着してからも支払いに煩わされることなく、お礼を言ってただドアを開けて降りればいい。降車すると、アプリから金額の通知が届く。★1?5の段階評価を付けたあと、チップを払えば終了だ。

Citymapperのアプリ画面 Uberのアプリ画面

左の2つはCitymapperのアプリ画面。右の2つはUberのアプリ画面
左:まずは目的地を入力
左中:徒歩、自転車、Uber、Lyftの4つでのそれぞれの時間が表示される
右中:左の画面でUberを選ぶとUberのアプリが自動的に立ち上がる。車の種類とともに金額が表示される
右:マップ上に近郊にいる車が表記される。もう1回クリックすれば配車手続きは完了だ

余談だが、評価をつけた後にチップ支払いの画面になっているのも上手いシステムである。多くの人の場合、目的地まで到着すれば★を5つ付けるだろう。そして★を5付つけた後には相応のチップを払わなければならないという気持ちになるだろうからだ。

待ち合わせ場所のピンを正確に打つこと、道路には車線があるので反対車線で待たないようにすること、空港などでは道路が立体に重なっていることもあるので階数に注意すること(経験談)あたりを気にしてさえいれば、こんなに便利なサービスはない。

このように書いても、タクシーとなにが違うのかと思う人もいるだろう。たしかに「他者の運転する車に乗って移動する」という物理的な行為そのものに変わりはないのだが、Uberを使用した移動はスマートフォン上のアプリのなかを移動しているような不思議な感覚がある。いや、よく考えてみれば、じつは不思議でもなんでもなく、タクシーをつかまえる、運転手に目的地を伝える、代金を支払うなど、これまでタクシーで行なっていた物理空間での行為の大半をアプリのなかで行なっているのだから、そういう感覚になるのは半ば必然だとも言える。ともかく、移動中もスマートフォンを触っているのでUberでの移動はピンポイントで点から点へと移動するような感覚なのだ。日本ではタクシー会社の反対もあって普及までにはまだ時間がかかりそうだが、周囲の国で一般化すれば規制し続けるのも難しいだろう。そして、ITを使ったシェア・サービスは自動車だけにとどまらず、さらに簡易な電動自転車と電動スクーターが急速に普及し始めていた。

JUMP Bikes(ジャンプ・バイクス)

JUMP BikesはUberが買収したシェア電動自転車である。Uberと同じアプリで車と自転車を切り替えるだけで使用できるので、きわめてスムーズに利用できる。特にサンフランシスコ市内は歩いて回るのには広いけれど、車で回るほど広くもないので、自転車がちょうどいい。後日見せてもらったデザインコンサルタント会社のIDEOの天井にも社員が通勤で使用している大量の自転車が吊るされていた。

こちらも利用は簡単だ。まずはアプリの地図上で近くの自転車を探し、借りたい自転車があれば予約をクリック。すると4桁のPIN(暗証番号)が発行される。自転車に到着するとPINを入力。鍵のロックが外れるので、鍵を外し、自転車の指定の場所に収納した後は好きな場所に漕いで行けばいい。さらにJUMPは電動自転車にもかかわらず、乗り捨てできるという点が特徴だ。シェア電動自転車は、充電の問題があるのでこれまでは専用のドックを決めてそこに返却するのが一般的だった。JUMPは道路にある自転車置場に鍵をかけるだけなので、行きたい場所までピンポイントで移動できる。そしてサンフランシスコ市内には自転車乗りにはありがたいことに自転車置場が道路に大量に設置されている。

JUMP Bikes。オレンジ色の派手な車体。ただ、この色のおかげで離れていても探しやすい

JUMP Bikes。オレンジ色の派手な車体。ただ、この色のおかげで離れていても探しやすい

デ・ヤング美術館前の駐車スペース。サンフランシスコは自転車置場がたいへん充実している

デ・ヤング美術館前の駐車スペース。サンフランシスコは自転車置場がたいへん充実している

利用料金は30分あたり2ドル。その後は1分あたり7セント課金される。Uberやタクシーだと移動中に見たい場所をみつけても途中で降りるのは億劫だが、自転車ならその点も問題ない。また、アシストする力は日本の電動自転車に比べ強力でスピードはかなり出るし、サンフランシスコの坂もグイグイ登っていく。サンフランシスコにはバスや路面電車などの公共交通機関もあるが、駅から目的地まで近いとは限らない。シェア自転車は、いわゆるラストワンマイルを担う交通手段として近年期待されており、Uberが買収したのもそのあたりが理由のようだ。

Metro Bike端末
Metro Bikeドック

Metro Bike。これはメトロが運営するシェアバイクサービス。専用のドックに返却する

路肩のスペースを自転車置場としている

路肩のスペースを自転車置場としている。写真奥に見えるのは、ディラー・スコフィディオ+レンフロ《The Broad Museum》とフランク・ゲーリー《ディズニーコンサートホール》

Bird(バード)、Lime(ライム)

Lime Bike。こちらはさらに駐車スペースは小さい

Lime Bike。こちらはさらに駐車スペースは小さい

サンタモニカでは多くのシェア電動自転車とシェア電動スクーターが利用されていた

サンタモニカでは多くのシェア電動自転車とシェア電動スクーターが利用されていた

さらに、ロサンゼルスの街の風景を変えるほど急速に普及しはじめていたのが、BirdとLimeという電動スクーターのシェアリングサービスだ。日本でいうキックボードの電動版である。使い方はJUMPとほぼ同じで、アプリ内のマップでスクーターの場所を検索し、乗りたい場所が見つかったらスクーターまで移動。ここからの認証の仕方には少し違いがあり、Birdはバイク本体に付いているQRコードをカメラでスキャンして認証するかたちだ。あとはやはりJUMPと同じように好きな場所に移動すればいい。電動バイクは自転車よりもさらに小さいために機動力が高く、駐車スペースも小さい。自転車のように自転車置場に鍵をかける必用もなく、基本的には路肩や邪魔にならない場所に停めればいい。ロサンゼルスの特に海岸沿いでは大量の電動スクーターが利用されていた。スケートボードの盛んなこの地域では特に相性がいいのだろう。もうひとつ電動自転車との大きな違いは電動スクーターは運転免許証がなければ運転することができないことだ。アプリ登録時に運転免許をスキャンして認証しなければならない。Birdは海外の運転免許証でも登録できるようになっていたが、Limeはアメリカ合衆国内の免許を持っていなければ登録できないために今回は使用できなかった。

Lime Bike ハンドル
Lime Bike 駐車スペース

Lime Bike。ハンドルに付いているQRコードをスマートフォンのカメラで読み取って認証する。その右側がアクセル。利用してみたがそれなりにスピードもでるし小回りも効いて快適だった

Lime Bike 利用者
Lime Bike 利用者

ロサンゼルスの海岸沿いではどこでも利用者を見かける

スマートフォンによるITと実空間の融合、 所有からシェアへ、ラストワンマイルなど、これらの交通サービスは今後さらなる発展をしていくのは間違いないだろう。もちろん、放置自転車やスクーターと歩行者、車とのトラブルなど解決すべき問題も多い。実際、サンフランシスコでは、電動スクーターの利用に関して市と各シェアリング・サービスとの間で調整を行なっている最中のようで、まだ普及には至っていなかった。

そもそもBirdは許可を申請してからサービスを始めたわけではなく、まずサービスを立ち上げてから、事後的にサンタモニカ市から許可を取り付けている。必要な事業免許を取得していないと市から刑事告訴されたものの罰金を支払うというかたちで許してもらっている。規則や慣習でがんじがらめの日本では考えにくい展開だが、この楽観的で適当な感覚こそが西海岸でITが花開いた理由の本質ではないだろうか。ヨーロッパでも日本でもなく、そしてアメリカのなかでも東海岸ではなく西海岸でこそITが発展した理由を目の当たりにした思いだった。

これらのシェア・サービスは、慢性的な渋滞や過剰な満員電車などの都市の病を、解決とまではいかなくとも和らげる可能性は多いにある。さらにゲーミフィケーションを利用したBirdの充電の方法など、これらのシェアリングサービスにはより興味深い部分もあるのだが、そのあたりの考察は次回の後編に譲りたいと思う。ともかく、ITは現実空間と融合することで、これまでの法や規制の見直しをも突き付けており、それは必然的に公共空間の変容を求めることになるだろう。現在わたしたちはたぶん歴史的に見ても大きな変革期のまっただなかにいる。そして、変革期にはどうしても古い規制や古い慣習は新しい時代の到来の邪魔をしてしまう。日本もある意味では軽薄で適当な部分はある。新しいものを軽薄に取り入れ、許可を申請する前に実験による社会実装を進めてしまうような風土が、今は重要なのかもしれない。

浅子佳英(あさこ・よしひで)

1972年生まれ。建築家、デザイナー。2010年東浩紀とともにコンテクスチュアズ設立、2012年退社。作品=《gray》(2015)、「八戸市新美術館設計案」(共同設計=西澤徹夫)ほか。共著=『TOKYOインテリアツアー』(LIXIL出版、2016)、『B面がA面にかわるとき[増補版]』(鹿島出版会、2016)ほか。

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公開日:2018年12月27日