ごみ分別に始まる循環型の未来まちづくり
――鹿児島県・大崎町の挑戦
第2回 循環型社会を拡張させる。
自治体の資源リサイクル率日本一を達成した鹿児島県大崎町の取組みを紹介するレポートの第2回。前回は、資源リサイクルの具体的な取組みについて、現地レポートしました。しかし大崎町の取組みはごみ処理課題にとどまりません。これをきっかけに、循環型社会を目指したもっと幅の広いまちづくりへとつなげています。資源リサイクルの考え方が拡張され、未来のまちづくりを目指そうとする大崎町の取組みを、あらためて伺いました。
資源リサイクルにとどまらない、未来のまちづくり
――SDGsを目指した循環型まちづくりと他地域への普及展開
大崎町の資源リサイクルは、2001年に生ごみの分別回収に着手し、2002年には生ごみの堆肥化がすでに開始されるといった先駆的な取組みでした。2018年には11年連続リサイクル率日本一を実現して、大崎町が広く知られるようになります。その取組みのために、リサイクルに関する住民参加が徹底され、ごみ分別を通じた地域のコミュニティが形成され、環境・グローバル人材育成事業なども進められました。それらは同時に、SDGsと重なるところがありました。そこで大崎町は2019年1月「大崎町SDGs推進宣言」を出します。そこには町内のSDGs理解促進だけでなく、リサイクル事業の他地域展開、人材育成を中心とした地域経営のビジョンがあり、資源リサイクルだけで終わらせない、未来志向のまちづくり理念がありました。
大崎町のSDGsの取組みはリサイクル事業とともに実は知られており、同年7月、経済・社会・環境の分野をめぐる広範な課題に統合的に取り組む国(内閣府)の「SDGs未来都市」に選定されました。翌8月、大崎町は「大崎町SDGs未来都市計画」を発布。モデル事業を推進していきます。そこに描かれたビジョンは、リサイクル事業の他地域への普及展開でした。大崎町内に閉じた考えではなかったのです。他地域への普及によって事業化が進み、その利益が大崎町へ循環する。町内のノウハウだけでは難しかった事業化が地域内外の人材協力によって実現する。そのような地域経営に向けた目線があり、そのための普及展開です。未来へ向けたまちづくりの筋道が描かれていたのです。
それから2年後の2021年、自治体だけでは成し得ない課題解決をも見据えて、多様な主体がパートナーシップを組んだ「一般社団法人大崎町SDGs推進協議会」が設立されました。その時、大崎町が目指そうとしている未来都市のイメージを描いたのが「サーキュラーヴィレッジ大崎町」でした。これは持続可能な社会モデルで、循環型の社会・まちづくりと、それを他地域へ普及展開させることが示されています。
現在大崎町のSDGsの取組みは、大崎町SDGs推進協議会を中心に次の4つのカテゴリーで進められています。
1. 循環型社会を研究する
2. 循環型社会を生み出す仕組みをつくる
3. 循環型社会を支える場をつくる
4. 循環型社会を広める
それぞれどのような取組みが行われているか、大崎町SDGs推進協議会の遠矢将さんに伺いました。
循環型社会を研究する「サーキュラーヴィレッジ・ラボ」
――リサイクルシステムの評価
どうすれば循環型社会が実現できるかを研究するプロジェクトです。まず行われたのが、長年運用されてきた廃棄物処理の仕組み「大崎リサイクルシステム」の影響や評価。大学や研究所などの専門機関と共同で、町民の行動や環境への影響が調査されました。たとえば、宮崎大学の土屋有先生との共同研究では、ごみ分別を前提とした場合、購買行動にパッケージの影響がどれほど出るのかアンケート調査を実施。国立環境研究所の河井紘輔先生との共同研究では、環境への影響を調査。GHG(二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガス)排出量の分析では、一般的なごみ焼却処分の場合と比較すると、約40%削減できているという試算が出されました。
アカデミックな難しい研究ばかりではありません。専門家を招いて講演していただく、町民の勉強会のようなイベント「OSAKINI Cafe」も開かれました。話題は広く、ごみの分別・処理にまつわるものばかりではありません。たとえば住宅の断熱性能の話や、大隅半島で水揚げされる「未利用魚」の話など。未利用魚とは、流通市場に乗らない水揚げ魚のことで、知られていない、数が少ない、早く傷むなどの理由で売れない魚。その有効活用が望まれているのです。
循環型社会を生み出す仕組みづくり/場づくり
――家具の地域循環/使用済み紙おむつリサイクルへの挑戦
「大崎リサイクルシステム」にとどまらず、循環型社会を生み出す「仕組み」をつくっていく取組みがあります。
たとえば、学校家具の更新で使用しなくなった小学校の机と椅子。従来産業廃棄物として処理されてきましたが、希望者に寄贈し、それをどう使ったかレポート調査するところまでのプロジェクト「メグルカグプロジェクト」が2023年に始動しました。改造して使う方もいましたが、そのまま再利用したケースが多かったとのこと。寄贈対象者を大崎町から100km圏内と限定したにもかかわらず、120セットが1カ月で捌けてしまったそうです。資源が消費/リサイクルされる概念図「バタフライダイアグラム」というものがあります。製造→消費の先に再生の環が描かれ循環を表しますが、リサイクルよりはリユースの方が環境負荷やコスト面で合理的とされています。メグルカグプロジェクトはその理想的な循環のひとつと言えるでしょう。また、利用希望者は地域内の社会福祉関連施設が多く、資源循環が福祉に貢献する副次効果も見られました。これからも継続されるシステムです。
大崎町では埋立てごみの15〜20%(重量ベース)を「使用済み紙おむつ」が占めています。これを埋立処分にまわさず、回収、処理、リサイクルを可能にしようというプロジェクトがユニ・チャームと志布志市、大崎町、そおリサイクルセンターの共同事業で行われました。高機能な紙おむつは原材料が高級で、使用済みは水分を含んでいるのでそもそも焼却炉に負担をかけます。どの地域でも、使用済み紙おむつを原料に紙おむつをつくる「水平リサイクル」が理想なのです。処理方法はまず粉砕し、パルプ、プラスチック(不織布)、高分子吸水体に分離。これを洗浄、殺菌、漂白する技術が難しかったのですが、オゾン処理が成功しました。そうした技術開発を行う企業と、回収事業を行う自治体の共同事業です。回収では専用ボックスを用意したり、回収頻度を上げる工夫がなされました。
循環型社会の実現は、机上の仕組みづくりだけでは叶えられません。町民同士、あるいは町外からも、さまざまな人の協力が不可欠。そのために必要なのが場づくりです。人が集まれる場所、社会実験を進められる場所。
前回の記事で紹介した「GURURI」は、資源リサイクル生活の体験型宿泊施設。視察研修の受け入れと合わせて、情報発信やコミュニケーションの深度を深める場として建設されました。また、それ以前から「OSAKINI
Day」という町民向けお祭りイベントが開催され、地域の人が集って循環型社会を一緒に考える場づくりがなされていました。上記の住宅改修調査事業で改修される空き家もまた、空き家の資源リサイクルについて考え、情報発信する場となっていきます。
循環型社会を広める
――視察プロジェクト/生ごみ堆肥化の普及と展開
大崎町はごみ処理行政を合理化するにとどまらず、それを機にSDGsにかなった地域経営を進めようとしたところに先進性があります。そのために、システムの他地域への普及と展開を図り、相互連携の道を開こうとする考えがあります。
そこで始められたのが視察研修を受け入れる「スタディツアー」。大崎町のごみ処理の現場である、埋立処分場、生ごみ堆肥化工場、リサイクルの中間処理施設の視察・見学を受入れ、単なる施設の紹介だけでなく、大崎リサイクルシステムの考え方、課題などの情報発信が行われています。視察の先に企業研修も開催され、参加者が気づきや理解を深め自社の企業活動にとりいれてもらうことで、システムの普及と展開が図られています。この働きかけは将来、大崎町との連携につながることが期待されています。
また大崎リサイクルシステムの直接的な普及・展開を狙ったのが「ALL COMPOST PROJECT(オールコンポストプロジェクト)」です。これはごみ処理を焼却から堆肥化へ転換を検討している自治体に対し、実証機会を提供するプロジェクト。自治体担当者は、大崎有機工場(堆肥化工場)で研修したのち、自身の地域で生ごみ回収と堆肥化の実証実験を行い、分析報告書を作成して本導入への判断材料とするもの。生ごみ成分の違い、堆肥化する場所と気候の違い、住民の意識の違いなど、地域によって条件や状況が変わり、地域で違う堆肥化のノウハウはやがて大崎町にもたらされていきます。プロジェクトは国内のみならず海外の都市へも広がりを見せていますが、このような社会貢献が、寄附につながったり、将来の事業相互連携の可能性を生むなど、地域経営の糸口になっています。
生ごみの堆肥化は、システム化されてはいるものの、人の経験と判断に頼らざるを得ないプロセスもあります。特に温度管理と攪拌、散水のタイミングです。そこに職員の負担があり、作業効率や汎用化するうえでの課題がありました。そこで、この管理ノウハウをデジタル化するプロジェクトが始まりました。研究開発パートナーは、オークションビジネスをはじめとした情報取引き支援を行ってきたオークネットとそのITプラットフォームを構築するオークネットIBS。堆肥化工程での発酵温度と攪拌、散水のタイミングを自動記録し、作業のノウハウをデジタル化する「生ごみ堆肥化プロセスのデータ化」です。ノウハウの伝達は、上記のような他地域への展開時に必要で、相互のプロジェクト連携も見込まれています。
難しかった建物の資源循環への挑戦が始まる
資源循環で難しいものの1つに建材が挙げられます。複合素材が多く、分別にコストがかかるのが要因です。木造廃材ですら釘が打たれていますから、チップ材としてもリサイクルできず、燃料としてしか活用されません。大崎町では体験型宿泊施設「GURURI」の建設で廃材利用を試みましたが、2004年、既存の空き家1棟分の建材をいかに循環させられるのか、調査研究が開始されました。まずは解体した廃材がどれだけ再利用できるのか、経済的な裏付けはあるか、あるいは解体せずに再利用できる方法は何かを調査します。これは鹿児島大学鷹野敦研究室、LIXILとの共同研究で、実在する空き家を1軒解体、改修して進められ、研究結果が待たれます。
そもそも資源循環を展開してゆくには、再利用できる建材製品種別を増やす必要があります。一般的にこれまでは資源循環を念頭に入れた製品開発がなされていないために再利用が難しい課題がありました。この課題に挑むのは製造業者であるLIXILの役割です。すでにもっている樹脂製品、リサイクルアルミ製品などの再生製品ラインナップ、技術をこのプロジェクトに摘要し、さらなる技術開発につなげようとしています。このプロジェクトの推移を次回レポートしてゆきます。
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公開日:2024年09月27日