タイル名称統一100周年企画
ツバメアーキテクツとつくるタイル──みたらしタイルとドーナツ
ツバメアーキテクツ×LIXILやきもの工房
『コンフォルト』2022 December No.188
キーワードは「偶発性」
タイルプロジェクトが動き出したのは2021年12月。タイルを知りたいとツバメアーキテクツの山道さん、千葉元生(もとお)さん、西川日満里(さいかわひまり)さん、鈴木志乃舞(しのぶ)さんは愛知県常滑のINAXライブミュージアムを訪れた。「LIXILやきもの工房」には芦澤忠さんを始め、オリジナルタイル製作の経験豊富なスタッフが揃う。4人が、どのような材料でタイルをつくれるかと素朴な疑問をあれこれ投げかければ、芦澤さんがそれを受け止め、具体的にタイルの可能性を説明してくれる。4人は敷地内の「世界のタイル博物館」も訪れ、歴史の時間軸と地域軸に沿って伝播した各国のタイルの実物に触発された。窯業地として古くから栄えた常滑のまちをリサーチし、近代に生産した土管や焼酎瓶を擁壁などに再利用した風景にも出会う。さっそくそうした体験や調査から、各々新たなタイルのアイデアを出し合った。キーワードは「偶発性」。多様な関係性を建築に取り込んでいくツバメアーキテクツのアプローチはタイルづくりにも反映され、新鮮な3つの試作案が生まれた。
「みたらしタイル」誕生
スケッチをもとに対話を重ね、やきもの工房で具現化。そこから深掘りして、さらに2回の試作を重ねたものが「みたらしタイル」だ。江戸時代に花壇の土留めに使った平瓦(写真※2を参照)を、茶道具の敷板に転用した事例から発想したもので、釉薬の流れ模様が偶然に左右されることがツバメアーキテクツを引きつけた。名称は流れ模様がみたらし団子のようだから。ドーナツにかかるシュガーグレーズも連想させる。模様の色や透明度、タイル素地(きじ)の種類による質感の違い、コーティングなど、掛け合わせで生まれるバリエーションは無限に広がる。4人はおおいに迷いながら8種類に絞り込んだ。
現場で張っていく過程も実験的なものとなった。「タイルが完成したタイミングと現場で内装を決める最終段階が一致したこともあり、手元の材料を見ながら、あらためて空間の質を想像しつつタイルの配置を決めていく経験に、可能性を感じました」と西川さん。「半地下階と1、2階で光の量が異なり、同じタイルでも色味が変化して見えること、垂直の壁と水平の天板ではタイルを張る方向性が変わるため、ささやかな凹凸による表情の違いが際立つこと、個体差のあるタイルの質感と現場の環境から学び、即興的に良い方向に向かっていけるような感覚がありました」。HORA BUILDINGはタイルをつくる楽しさと、建築の楽しさを多くの人に伝える場になった。
「みたらしタイル」 8つのバリエーション
模様を描く化粧材料は、粘土を水で流動状に溶いた「泥」を用いた。
〈常滑↔︎東京〉 タイルづくりのプロセス
タイルが完成するまでの約8カ月間、ツバメアーキテクツの4人とLIXILやきもの工房の芦澤さんは、直接訪問し合い、試作を囲んで対話し、オンライン会議やメール、電話でも打ち合わせた。どんどんタイルの「沼」に入り込みつつ、タイルづくりの知識は4人に確実に伝わっていった。
西川日満里(さいかわひまり)
街歩きややきもの工房との試作の中で、タイルという素材の素晴らしさは視覚によらず、五感で感じられるところにあると気づきました。建材でありながら、製造過程によって生まれる釉薬の厚みや、手法によって変わる流れ方など、タイルそのものに物質としての魅力があります。
千葉元生(もとお)
つくるプロセスや、釉薬による変化などを想像できるようなタイルにして、見た人たちが、そのおもしろさを感じられるものにしたいと考えてきました。やきもの工房で何度もサンプルをつくっていただき、どう見せるのが伝わりやすいかというスタディを一緒にできたことで、想像力を湧かせるシンプルなタイルが見えてきました。
鈴木志乃舞(しのぶ)
実験的な試作を重ねる中で、サンプルからある魅力が見出され、より深掘りしようと新たにサンプルをつくると、また別の魅力が発見されて、いい意味で「沼」だなと感じました。タイルにはどれも捨てがたい魅力が散りばめられているなと感じます。
山道(さんどう)拓人
いろいろな人にこのタイルプロジェクトの話をすると「タイルってつくれるんだ!」と驚かれます。ぼく自身、タイルに対する解像度がめちゃくちゃ上がったなという実感があり、建築だけでなく、プロダクトとしても可能性は大きいと思います。SNSなどで拡散が起きて、プロジェクトが連鎖していきそうな予感がしますね。
芦澤 忠(LIXILやきもの工房)
試作を通してツバメアーキテクツのみなさんのリクエストはとてもおもしろく、やりがいがありました。タイルメーカーとして、本来のタイルの魅力をもっと伝え、体験していただくことが必要だとあらためて思いました。これからも、こういう機会をつくっていければと思っています。
ツバメアーキテクツ
2013年山道拓人、千葉元生、西川日満里によって設立。デザイン部門(設計事務所)とラボ部門(シンクタンク)を設け、二つの活動を循環させることで、新たな空間を提案する。個人の住宅や店舗、公共施設など幅広く手掛け、伝統建築のリノベーションにも携わる。企画段階から建築の設計まで関わった下北沢の新しい商店街BONUS TRACK(2020年)により2022年日本建築学会作品選集新人賞、東京建築賞新人賞・一般一類部門最優秀賞などを受賞。
東京都世田谷区代田2-36-19 HORA BUILDING
tel:03-6274-8551
http://tbma.jp/
DATA
HORA BUILDING
東京都世田谷区代田2-36-19
構造・規模/鉄骨造 地下1階、地上2階建て
敷地面積/80.50㎡
建築面積/51.62㎡
延床面積/135.78㎡(容積率150.57% 許容160.00%)
設計/ツバメアーキテクツ
施工/山菱工務店
設計期間/2020年6月〜21年10月
施工期間/2021年10月〜22年8月
LIXILやきもの工房
タイル製造機器、釉薬調合室、乾燥や施釉設備、焼成窯などの設備、オリジナルタイル製作の経験のあるスタッフが揃う工房。建築家やアーティストとのコラボレーション、歴史・文化的価値の高い建築物のタイルや建築陶器などの復原・再生に取り組む。またやきものの基礎知識を知り、さまざまなタイルの見本を見学できる展示室を一般公開している。
このプロジェクトはLIXILのDTL「ものづくりLAB」サイトで3回にわたり紹介しています。詳細はこちら
愛知県常滑市奥栄町1-130 INAXライブミュージアム内
https://livingculture.lixil.com/ilm/facility/ceramicslab/
2022年11月18日(金)18:30〜20:00、YouTube Live「CONFORTチャンネル」で、ツバメアーキテクツによるオンライントーク「ツバメアーキテクツとつくるタイル」を生配信しました。(※終了)
詳細はhttps://www.youtube.com/watch?v=e9gUgf4h2Awにてご覧ください。
雑誌記事転載
『コンフォルト』2022 December No.188
https://confortmag.net/no-188/
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公開日:2023年01月25日