タイル名称統一100周年記念 巡回企画展

日本のタイル100年 美と用のあゆみ

『コンフォルト』2022 JuneNo.185

生活改善と衛生の意識が高まった100年前、日本ではタイルの名称統一が行われた。「美と用」の観点からタイルのあゆみをたどり、未来を考える企画展がINAX ライブミュージアム(愛知県常滑市)で開催中だ。

展覧会場の「Ⅲ 美と用のあいだで揺れ動いた、日本のタイル100年」エリア。18のトピックスで貴重なタイルが展示されている。

会場の〈Ⅰ 日本のタイルの源流をさぐる〉エリアと、〈Ⅱ 1922年、『タイル』に名称を統一〉エリア入口。突き当たりの建物の写真は「平和記念東京博覧会」に東京タイル業組合が出展した「タイル館」。

Ⅲ エリアに展示されたさまざまな時代のタイル見本台紙。トピックタイトルは「タイル見本台紙に見る美の彷徨」。

①会場の〈Ⅰ 日本のタイルの源流をさぐる〉エリアと、〈Ⅱ 1922年、『タイル』に名称を統一〉エリア入口。突き当たりの建物の写真は「平和記念東京博覧会」に東京タイル業組合が出展した「タイル館」。 ②エリアに展示されたさまざまな時代のタイル見本台紙。トピックタイトルは「タイル見本台紙に見る美の彷徨」。

「柿右衛門色絵応龍文陶板」。25.5×23.5×5.3㎝。所蔵:前坂晴天堂。西本願寺経蔵(1677年・国重要文化財)内部の腰瓦にも張られている。

会場は3つのエリアで構成され、タイル伝来の歴史、名称統一の背景、統一以降の100年のあゆみをそれぞれ鮮やかに浮かび上がらせている。
〈Ⅰ 日本のタイルの源流をさぐる〉エリアでは、瓦、タイル、煉瓦、テラコッタに分けて日本のタイルの起源を紹介している。当時、タイルは瓦の延長線上で「敷瓦」、「腰瓦」とも呼ばれ、「模様瓦」「内張瓦」なども。外装用の「化粧煉瓦」「装飾瓦」「外張煉瓦」といった呼称もあり、25種類にも増えていた。大正期に洋風住宅やビル建築の普及が進むにつれ、需要も増し、タイル市場は流通におおいに不便を来したという。
〈Ⅱ 1922年、「タイル」に名称を統一〉エリアでは、同年(大正11)3月より開催された東京・上野公園の「平和記念東京博覧会」に合わせて全国のタイル業組合員が東京市に集まり、4月12日に名称が統一された背景を紹介する。

〈Ⅲ 美と用のあいだで揺れ動いた、日本のタイル100年〉エリアでは18のトピックスが展開。最初に登場するのは白色のタイルだ。INAXライブミュージアム主任学芸員・後藤泰男さんにこのエリアの見どころを聞いた。「日本でタイルが普及したきっかけは、西欧の文化的なスタイルに倣う生活改善運動や、スペイン風邪によるパンデミックで高まった衛生意識でした。汚れがはっきりとわかる洗浄性に優れた白いタイルは清潔さの象徴となり、水まわりに増えていきました。衛生機能が優先されたのですが、そこには白さの美があり、役物(端部やコーナーなどの特殊形状品)を使って巧みに仕上げた美しさもあります。一方で小森忍や池田泰山たいざんは工芸品のような『美術タイル』という分野を確立しました」。小森の、山茶つばき窯で制作された力強い造形と釉薬の流れが特徴的なタイルは、会場でも目を引く。「白色のタイルと美術タイルの2つは対照的に見えますが、もともとタイルは美と用を兼ね備え、時代と用途によってそのバランスを変化させ、使われてきました。それをあらためて感じてもらえたら」。

それは現代に機能開発されたタイルにも当てはまると言う。23年前にLIXIL(当時INAX)が開発した「エコカラット®」は、高気密住宅で起きた結露やシックハウス問題などを契機に、調湿性(吸放湿性能)を持ち、ダニやカビの発生を抑え、臭いを吸収する効果を付与した。「壁紙が主流の居間や寝室にタイルが進出したことは画期的でした。機能性の進化から、近年は色やテクスチャーを深化させることで、よりユーザーに受け入れられています。人の暮らしにとって用だけではなく、美とのバランスが大切なことがわかります」。
最後のトピックはLIXILと建築家とのコラボレーション。夢のタイルの提案が並び、既成のタイルにとらわれない発想にはっとする。見る者は過去を振り返りつつ、タイルの未来に開かれた可能性を見出すにちがいない。

役物ふくめ150形状

半磁器白タイルの熱量

白色タイルは大正期から清潔さの象徴として広まり、水まわりに定着した。

1950年頃、東京都内に建てられた個人邸の台所。大きさの異なる正方形や入隅、出隅、見切り、笠木など、さまざまな形状の白色タイルを用い、シンクと天板、水切りを細やかに美しく納めている。写真提供:INAXライブミュージアム

1950年頃、東京都内に建てられた個人邸の台所。大きさの異なる正方形や入隅、出隅、見切り、笠木など、さまざまな形状の白色タイルを用い、シンクと天板、水切りを細やかに美しく納めている。写真提供:INAXライブミュージアム

Ⅲ エリアに展示されたさまざまな時代のタイル見本台紙。トピックタイトルは「タイル見本台紙に見る美の彷徨」。

1940年(昭和15)発行の『伊奈の内装タイル』カタログより「半磁器タイルの品番と形状」、左下は「半磁器白タイルの品番と定価」。それぞれ一部。当時は役物が多種類にわたり、150種類の形状を揃えていた。そこには隅々まで張り詰めて仕上げたいというメーカーと施工者の熱量が込められている。

釉薬の達人

小森忍をめぐる発見

小森忍(1889~1962年)は京都市陶磁器試験場勤務を経て、1928年(昭和3)愛知県・瀬戸に小森陶磁器研究所(山茶窯)を設立。池田泰山とともに「美術タイル」の分野を確立した。②写真中央は青釉浮彫りタイル。①のタイルも含め1929年(昭和4)に建てられた実業家・岩崎小彌太の東京・鳥居坂本邸(設計:大江新太郎)食堂外壁に張られたタイルの予備品。出隅の横縁底部や植物柄のレリーフの下部などに見られる釉薬の流れが特徴。流れ方に種類があり、タイルを置く角度を変えて焼成したと考えられる。今回、当時の写真(②写真下部)により張られた様子が明らかになった。

用の進化と美の深化

エコカラットの23年

1998年(平成10)に発売された内装壁材「エコカラット」は2019年(令和元)内装機能建材「エコカラットプラス」に統合され、調湿機能、臭いや有害物質を低減する効果に加え、高精細な加飾技術によってテクスチャーと色の表現力が増した。

発売年の「エコカラット」のカタログ。

発売年の「エコカラット」のカタログ。

2022年4月に発売された「エコカラットプラス・リネエ」。プロダクトデザイナー大城健作の繊細なデザイン。日本の伝統的な尺貫法の規則性と、障子や畳、網代など自然素材のテクスチャーから発想。

2022年4月に発売された「エコカラットプラス・リネエ」。プロダクトデザイナー大城健作の繊細なデザイン。日本の伝統的な尺貫法の規則性と、障子や畳、網代など自然素材のテクスチャーから発想。

リネエのデザインパッケージ。絵画のような組み合わせだ。

リネエのデザインパッケージ。絵画のような組み合わせだ。

3点写真提供:LIXIL

タイルの未来形を探す

平田晃久、板坂留五とのスタディ

LIXILと『新建築住宅特集』の共同企画で、気鋭の建築家の平田晃久、板坂留五るいの2人がこれからの住宅・建築・都市を踏まえた夢のタイルを構想。タイルの未来の可能性を感じさせる着想や、形状がかたちづくられている。平田案は「からまりタイル」。〈「ツルツル」した「衛生的」な表面をつくり出すタイルというものが、同時に、ある毛深さをつくりだすような、多孔質のからまりしろになったとしたら〉という発想から立体のタイルに。板坂案の「1未満タイル」は格子状で〈タイルを選んでからも試行錯誤できるよう、隙間だらけで凹凸のある、輪郭が曖昧なタイル〉。

からまりタイル 平田晃久

塊に穴をあけて植物がからまる「多孔質案」と、タイル目地のおもしろさを模索した「目地案」の十字形を重ね合わせることで、立体的な形状がつくられた。

塊に穴をあけて植物がからまる「多孔質案」と、タイル目地のおもしろさを模索した「目地案」の十字形を重ね合わせることで、立体的な形状がつくられた。 写真提供:LIXILやきもの工房

愛知県常滑のLIXIL「やきもの工房」で、3Dプリンタで造形してタイル製作を行った。

愛知県常滑のLIXIL「やきもの工房」で、3Dプリンタで造形してタイル製作を行った。

1未満タイル 板坂留五

縦横の配置により、市松になったり、棒のラインが通ったり。入隅と出隅は四周の凹凸部が噛み合う。

縦横の配置により、市松になったり、棒のラインが通ったり。入隅と出隅は四周の凹凸部が噛み合う。

ずらして重ねることで、色調や色の濃淡が生まれる。タイル素地の原料を石膏型に流し込む鋳込み法で製作。格子の縦と横の石膏型をつくり、重ねて焼成した。

ずらして重ねることで、色調や色の濃淡が生まれる。タイル素地の原料を石膏型に流し込む鋳込み法で製作。格子の縦と横の石膏型をつくり、重ねて焼成した。

取材・文/清水 潤 撮影/梶原敏英(特記をのぞく)

平和記念東京博覧会(1922年)に出展された「タイル館」。洪洋社発行 高梨由太郎編集『平和記念東京博覧會畫帖』より。

タイル名称統一100年記念企画で使用される全国タイル工業組合制作のロゴマーク。

タイル名称統一100周年記念 巡回企画展

日本のタイル100年 美と用のあゆみ

JAPANESE “TILE” : A Century of Beauty and Utility

会期
2022年4月9日(土)~ 8月30日(火)
企画
INAXライブミュージアム、多治見市モザイクタイルミュージアム、江戸東京たてもの園(3館共同企画)
監修
藤森照信
展示デザイン
中原崇志、永田耕平[DENBAK-FANO-DESIGN]
会場
INAXライブミュージアム「土・どろんこ館」企画展示室
愛知県常滑市奥栄町1-130
tel 0569-34-8282 https://livingculture.lixil.com/ilm/
開館時間
10:00 ~17:00(入館は16:30まで)
休館日
水曜日(祝日の場合は開館)
巡回予定
多治見市モザイクタイルミュージアム:2022年9月17日~(予定)
https://www.mosaictile-museum.jp
江戸東京たてもの園:2023年3月11日~(予定)
https://www.tatemonoen.jp

会場ごとに展示構成が異なります。詳細は各館WEBサイトなどでご確認ください。

  • *INAXライブミュージアムはLIXILが運営する文化施設です。

雑誌記事転載
『コンフォルト』2022 June No.185
https://confortmag.net/no-185/

このコラムの関連キーワード

公開日:2022年07月20日