DTL Communication Day

TORAFU′s TILE LABレポート

鈴野浩一(トラフ建築設計事務所)

既成概念にとらわれない鈴野氏の柔軟な発想

続けてトラフの鈴野浩一氏は、これまでの設計でタイルをどのように使ってきたのを紹介。2013年「建築の皮膚と体温イタリアモダンデザインの父、ジオ・ポンティの世界」の会場構成を通じて、タイルのパターンや並べ方によるバリエーションに触れ、また光や時間によって見え方が変わることを実感したとういう。そのほか、雑誌コンフォルトの企画でデザインした「クローバータイル」や、広い床を水面に見立ててモザイクタイルを張った「西武池袋本店空中庭園」の事例などを紹介。周りの環境を読み解いたうえで、空間を構成する素材を、素材自体の特性や表情などでコントラストを付けながら用いる手法などを解説した。

スライドで説明する鈴野氏

「なるべく1つの物件について、採用する素材をつくる工場を1つ訪れたい」と語る鈴野氏。製造過程から発見するプロセスを、LIXILの工場見学の様子を通じて説明した。「進行中の物件でも、物質感のあるタイルを空間のなかでもっと活かせないかと考えています。ー方で、技術の進化による表現も広がっていると感じる」と鈴野氏はいう。鈴野氏が最後に紹介したのは、建物のプリミティブなつくり方だ。YouTubeなどでは、手作りで建物をつくる様子が世界中でアップされているといい、それらを見ることが最近のマイブームだという。「その場で掘り起こした土を捏ねてタイルを焼き、建物をつくっていく。そうした過程を見ると、そもそもタイルは身近にある存在ということに気付かされます」。既成概念にとらわれない鈴野氏の柔軟な発想は、タイルが生まれる原点を見つめることからも生まれていることが伺えた。

木野氏と鈴野氏の対談

最後に行われたのは、木野氏と鈴野氏の対談だ。今回の見学を通じた感想を木野氏から求められた 鈴野氏は、「DTLのデザインカテゴリーの1つの『SUPER REAL』では、何が人工なのか自然なのか分からない不思議な気持ちになった」と語った。それに対して木野氏は、希少性の高い素材を代替する側面もあることを説明。また、タイルが近現代の建物に使われてきた歴史を振り返りながら、「ある時期にタイルに対するネガティブなイメージが付いてしまったとすれば、インテリアや 商業施設で最近効果的に使われていることをアピールして、復権を果たしたい」と力強く語った。鈴野氏は、石のような味わいを持つDTLの大判タイルを、現在計画を進めている個人住宅で検討していることも明かした。「高精細な加飾技術はさらに発展するでしょうから、その技術を有するメーカーであるからこそできることを、追求していただきたいし、自分たちも活用方法を考えたい」とした。

トラフ設計事務所 鈴野 浩一

鈴野 浩一氏

<プロフィール>
1973年神奈川県生まれ。東京理科大学工学部建築学科卒業。98年横浜国立大学大学院工学部建築学専攻修士課程修了。シーラカンス K&H 勤務、Kerstin Thompson Architects(メルボルン)勤務を経て、2004年トラフ建築設計事務所共同主宰。

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公開日:2019年05月21日