トラフとつくるタイル VOL.3

鈴野浩一、禿真哉(トラフ建築設計事務所)

『コンフォルト』2015 October No.146 掲載

トラフのふたりは LIXIL ものづくり工房とタイルを試作中。
工場を見学し、タイルが出荷される状態になるまでの話にも興味津々。
さあ、最後の試作品が届けられるのが楽しみだ !

紙張りシート工夫も重要 まるで神様がつくったように?

グリッドを消すために変形シートが必要か

モザイクタイルはもちろん現場で一つひとつ、張っていくわけではない。基本は30センチのシートにあらかじめピースを配置したものを施工していく。トラフが試作中のクローバータイルはどういうシートに収めることができるのだろうか。

LIXILタイル開発部の酒井渉さんはかつて、『ビーンズ』という種類の形の豆のタイルをシートに収める方法を考案した。それぞれ形の違う豆を四角いシートに並べると、施工後には必ずシート縦横のグリッドラインが見えてくるそうだ。そのラインを消すために最終的に開発されたのが変形六角形型のシートだった。
「このタイルでいちばん気を遣ったのがシートのグリッドを消すことなんです。1つひとつのピースがランダムな配列で、境目が消え、自然に、まるで神様がつくったように見せる(笑)。これが難しくて、でも最高に楽しい作業なんです」と酒井さん。

「クローバーはパソコン上でさまざまに回転させてみました。同じ型の反復性はさほど気にならず成立しているのかなと思っています」と禿真哉さん。それに対して、酒井さんからアドバイスが。「できるだけ多くのシートを並べて検証してみてください。社内では『癖』といいますが、面全体でその癖を消していくことが大切です」。

シートの縁周りからクローバーの葉をはみ出させたり、葉と葉の間隔を調整しながら癖をとっていけば、クローバーは変形シートではなく規格の30センチ角シートでつくれるだろうということになった。

最初は六角形で、ぐるぐると回しながら張ることで癖を解消。それをさらに風車形に変形した力業で商品化した『ビ ーンズ』(現在は廃番)。

「なるほど、境目がわからなくなるんですね。(右 / 禿さん)」
「これは、かなーり考えました(笑)。(左 / 酒井さん)」
グリッドを消すため、組合せを探っていく。1枚、クローバーの向きを変えるだけで問題が解決することも。

試作品第3弾がやって来た! 釉薬と顔料の組み合わせで表情は無限に

透明釉のみずみずしさ、マットのシャープさ

釉薬の違いや顔料の量、焼成時間、マット釉かどうか……。微妙な違いでタイルの表情が変わっていく。これが面になると、どんな景色が生まれるのだろう。

第2弾の試作品から約1カ月半後。LIXILものづくり工房の小関雅裕さんが第3弾の試作品を持ってトラフ建築設計事務所にやってきた。クローバーは第2弾よりも透明感が増し緑の明度が上がり、第1弾にあった釉だまりも復活。「すごい技術です。マットよりも、やはり透明釉を使った方が植物の瑞々しさが出ますね」と鈴野浩一さん。「四つ葉の割合が1シートに1枚だと多すぎるかな。四つ葉ありと三つ葉だけの2種類のシートをつくるか、もしくは四つ葉を単品で焼成し、施工の段階ではめ込んでいくという方法もあります。コストとの兼ね合いになりますね」と小関さん。

一方、35ミリ角タイルは乳白釉、白マット釉それぞれ6グラムと12グラムを施釉したもの、さらにそこにグレーの顔料の量が違う段階のサンプルが出来ていた。微妙にニュアンスの違う白のタイルたち。

「35ミリ角のほうはタイル自体が背景で、目地を際立たせるというコンセプトなので、マット釉の試作を依頼しました。それが正解でしたね。微量のグレーを混ぜたシャープなマ ット、逆にクローバーは釉薬の存在感で植物のフレッシュさが伝わるものを選びました」と鈴野さん。禿さんは、「たくさんのサンプルをつく っていただいたおかげで、第3弾では迷うことなく、これだと決定できました」。

「こうして並べると微妙な違いもはっきりわかりますね!」(鈴野さん)
たくさんのサンプルを前に、ほぼ迷うことなく決定。「ここまで出してもらったおかげです。ものづくり工房に感謝ですね」。
トラフはこのタイルをどう使うの?

目地と壁のシームレスな関係からタイルの可能性を探る

35mm角タイルの施工イメージ

カタカタとした目地の歪みが印象的。目地色と側面の壁を同色にすることで面の流れをつくっている。トラフ建築設計事務所

決定した2種類のタイルを使い、トラフがCGで施工イメージをつくった。同じ白のタイルなのに目地色でこんなにも印象が変わるのかと驚く。不揃いの目地は手づくり感があり、タイルは目地を引き立てる脇役を務めている。床に張ったクローバ ーは、四つ葉を探す子どもと建築を近づけるタイルになっていきそうだ。

「今回の企画では、建築の全体像から工場にズームするという振幅の作業が面白かった。引いて見る、近づいて見る。それは普段のプロジェクトでも大切にしていて、それを材料レベルでも体験することができました」と禿さん。「新たな課題も見えてきました。連続した壁面で、壁がそのままタイルの下地になるような。一つの面の流れとして、そこにタイルが自然に入ってくるような。材料の質感も色も、目地と壁面がシームレス。そんな空間をつくりたい」と鈴野さん。

小関さんは語る。「タイルというやきものと目地材の組合せだけで考えていると広がらない。トラフさんのように、違う素材と補完しあうような空間づくりができれば、タイルのニーズもさらに広がっていくと思います」。

このタイルを使った空間が完成し、またご紹介できる日が楽しみだ。

クローバータイルの施工イメージ

フレッシュ感のある釉薬たっぷりのタイル。タイルの疎密のつくり方でも面の表情が変わっていく。子どもたちは、四つ葉探しを楽しむだろう。
トラフ建築設計事務所

取材・文/谷口三千代 撮影/梶原敏英(*を除く)

トラフ建築設計事務所

2004年に鈴野浩一と禿真哉により設立。住宅やオフィス、店舗、公共施設の設計のみならず、プロダクトデザインや展覧会の会場構成などでも活躍中。
東京都品川区小山 1-9-2-2F
http://torafu.com/

LIXILものづくり工房

愛知県常滑市奥栄町1-130(INAXライブミュージアム内)
https://livingculture.lixil.com/ilm/ceramicslab/

雑誌記事転載
『コンフォルト』2015 October No.146掲載
https://www.kskpub.com/book/b479869.html

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公開日:2015年09月30日