トラフとつくるタイル VOL.1
鈴野浩一、禿真哉(トラフ建築設計事務所)
『コンフォルト』2015 June No.144 掲載
トラフのふたりが、ジオ・ポンティの仕事に触れることで気づいたタイルの魅力。
今度は自分たちで、タイルをつくってみようと動き始めました。
アイディアがリアルな空間に結びつくまでの経過をレポートします。
ジオ・ポンティのタイルでタイルの魅力を知る
「建築の皮膚と体温――イタリアモダンデザインの父、ジオ・ポンティの世界」展の会場構成を担当し、ジオ・ポンティのタイルの復原に立ち会い、その張り方のパターンを変えて、会場の床に不思議な模様を出現させた。トラフ建築設計事務所の鈴野浩一さんと禿真哉さんは、タイルの魅力を、ジオ・ポンティを入り口にあらためて知った。
「同じタイルが並べ方でまったく違うものに見えたり、不思議な変換が起きていました」(禿さん)
「凸凹があるタイルは、陽の光が動けば陰影が動き、常に表情を変えている。まさしくタイルは、体温を感じる皮膚でした」(鈴野さん)
今回、そんな二人が、展覧会で協働したLIXILものづくり工房のスタッフと一緒に、自分たちでタイルをつくってみることになった。まずは多くのタイルに触れてみようと、都内にあるLIXILグループのタイル販売会社ダイナワンに集まる。立体的なタイル、チョコレートやケーキのように「おいしそう」な試作中のタイルが二人は気になったようだったが、さていったいどんなタイルが生まれるのだろうか。
幾何学タイルのメタモルフォーズ
トラフが構成を担当した「建築の皮膚と体温――イタリアモダンデザインの父、ジオ・ポンティの世界」展は2013年11月、愛知県・常滑のINAXライブミュージアム(LIXILグループ)でオープン。その後、大阪、東京へ構成を変えながら巡回した。この床では、同じタイルの張る方向を変えることで、パターンを変化させている。
テキスタイル・タイル
神奈川の湘南T-SITEに4月オープンしたmina perhonen koti(ミナ ベルホネンコティ)のインテリアもトラフの仕事。ミナ ベルホネンコティのテキスタイルやボタンを床に置き、塗装職人なかむらしゅうへいさんに頼んでエポキシ樹脂で固定。素材は違うが、タイル装飾の感覚に近かったという。写真 / 太田拓実
おいしそうなタイル
上/トラフが気になったのは、立体的なタイル、チョコレートやケーキのようにおいしそうなタイル、不定形で目地の面積の大きいタイルなどなど。 下/LIXILスタッフとダイナワンに集まって、タイル三昧。
目地に注目。まるで動いているようなタイル
さて、タイル三昧から数日後のこと、トラフの二人から二つのアイディアが届く。二つとも、視点や発想の転換をうながす、仕掛けのあるタイルだ。
「その1は、水平と垂直がシャキンとした部屋に、小さなほころびや動きをつくるタイル。ジオ・ポンティのピレッリビルもびしっとした高層ビルなのに、外装は手張りのタイル。手工業的な側面と工業的な側面の両方を持つのがタイルの魅力じゃないかな」(禿さん)
「その2では、四つ葉のクローバーを探すというストーリーで、能動的にかかわる床や壁になったらおもしろい。建築との距離を縮めるタイルです」(鈴野さん)
図面をもとにさっそくLIXILものづくり工房チームが動き出す。さらに「透明感のある釉薬で、目地の引き立て役になっているのだけど、よくみると味わいがあるタイル」という要望も加わった。
そして4月某日、トラフの事務所に下の試作品第1弾が届いた。(次のステップはVol.2で。)
アイディアその1
方形のタイルも不揃いな並べ方で、動いているように見える。図と地が逆転し、むしろ目地を引き立てる効果がある。トラフ建築設計事務所
アイディアその2
原っぱに生えたクローバーのようなタイル。よく見ると、一つだけ四つ葉が!張り巡らすと、いくつ四つ葉を見つけられるか、競争になりそうだ。トラフ建築設計事務所
試作タイル第1弾が届く
届いた「その1」の33通りと「その2」のクローバーの試作を見ながら、常滑のものづくり工房とスカイプ会議。「その1」は白い素地かグレーっぽい素地か、そこに釉薬の違いや色つけ顔料を加えたかどうかで、さらに表情に違いが出ている。「短期間でよくこんなに」とトラフの二人もびっくり。
これがいいかなと手にとったのは、素地を手切りしたエッジのぴたっとしたもの。釉薬も手づくり風過ぎず、なにげないが味わいがある。黒い紙の上に並べてみると目地の感じが想像できる。
「その2」はよく見ると、縁にたまった釉薬が少し濃い色に見えているのがかわいい。スモーキーな色とも相性が良いそうだ。床に張ると子どもたちがしゃがんで遊びそう、と想像が広がる。
「その1」の試作
「その2」の試作
取材・文/豊永郁代(編集部) 撮影/梶原敏英(特記と※を除く)
トラフ建築設計事務所
2004年、鈴野浩一と禿真哉により設立。
東京都品川区小山1-9-2-2F
鈴野浩一 SUZUNO Koichi
1973年神奈川県生まれ。96年東京理科大学工学部建築学科卒業。
98年横浜国立大学大学院工学部建築学専攻修士課程修了後、シーラカンスK&H勤務。
禿真哉 KAMURO Shinya
1974年島根県生まれ。97年明治大学理工学部建築学科卒業、99年同大学院修士課程修了。
2000-03年青木淳建築設計事務所勤務。
LIXILものづくり工房
愛知県常滑市奥栄町1-130(INAXライブミュージアム内)
雑誌記事転載
『コンフォルト』2015 June No.144掲載
https://www.kskpub.com/book/b479867.html
このコラムの関連キーワード
公開日:2015年09月30日