店舗の世界観を引き立てるレストルームデザイン

尾崎大樹(BaNANA OFFICE)

『商店建築』2019年9月号 掲載

商業施設において、利用者の満足度を高めるために欠かせない存在となっているレストルームのインテリアデザイン。飲食店を始め数多くの商業空間を設計してきた、BaNANA OFFICE・尾崎大樹さんに、レストルーム計画のポイントとこだわりを聞いた。

尾崎大樹  DAIKI OZAKI

尾崎大樹 DAIKI OZAKI

1975年鹿児島県生まれ。1998年、MYUPLANNING&OPERATORS入社。2013年、BaNANA OFFICE設立。最近の仕事に「グランイート銀座」(商店建築19年9月号 P.128)、「イリーカフェ 有楽町イトシア店」(同誌18年11月号)など。

編集部:

最近では、単純なパウダールームやトイレとしての機能だけでなく、店内の雰囲気を引き立て、また利用者の気持ちをリフレッシュする付加価値を持った場として、レストルームのデザインにこだわる店舗が増えています。尾崎さんはこれまで、さまざまな業態の飲食店の設計を手掛けていますが、店舗のオーナーのレストルーム計画に対する考え方に変化を感じることはありますか。

尾崎:

近年、レストルームのデザインにコストが掛かることに対し、理解のある店舗オーナーが多くなった印象です。トイレタリー設備のデザインや機能性が向上すると共に、良いレストルームが店舗における付加価値となるという意識は当たり前になっていますね。ただ、商業空間・店舗はあくまでもビジネスであり、レストルームだけを豪華にしたり、多くのスペースを割くわけにはいきません。与条件に対して最適なスペースと機能、コストをコントロールするにはデザイナーの経験値が問われます。
東京・中目黒にあるビアダイニング「SCHMATZNakameguro」では、コストを抑えながら、インテリアの世界観を延長したようなレストルームが求められました。同店舗は、定期借地の計画であり、空間全体で設計にかかるコストをうまくコントロールする必要がありました。スケルトンの空間を生かしながら、ドイツのビール文化やビールがつくられる小屋をイメージしたスペースを点在させています。鉄製のパイプや木の素地を多用しながら、ドアの取っ手や床の仕上げなどディテールにオリジナリティーを表現し、少し退廃的で、居心地の良いラフな雰囲気を演出しています。路面店で、前面道路に対して大きく開口するファサードを持っていたので、店の中のにぎわいが行き交う人々に伝わるようなキャッチーなロゴや、目を引く照明計画を意識しました。

SCHMATZ Nakameguro

東京・中目黒の人通りが多い通りに面したビアダイニング「SCHMATZ(シュマッツ)」。ドイツのビール文化を感じさせ、にぎわいを生む装置として、屋台のようなカウンターが点在。スケルトンのシンプルな内装に、カラーリングや照明がアクセントとなる(1~3撮影/ナカサ&パートナーズ)

SCHMATZ Nakameguro
SCHMATZ Nakameguro
SCHMATZ Nakameguro
SCHMATZ Nakameguro

店内の雰囲気を引き継ぎながら、少し明るめの仕上げを用いて気持ちをリフレッシュできるレストルーム。便器はLIXILの「サティス S」を採用。手洗いや水栓には味わいのある機器を組み合わせた

編集部:

SCHMATZのレストルームを計画するにあたり、ポイントとなったのはどのようなことでしょう。

尾崎:

レストルームは、2フロアそれぞれに1カ所ずつ設けています。インテリアの退廃的な雰囲気を表現しながらも、清潔かつ機能的なデザインとしています。合板製のスライドドアの取っ手には、工具の持ち手を転用し、手洗いには欧米で多く見られる金属製ホーローの味のあるシンクを設置。トイレは、木とコンクリートのシンプルな素材感に溶け込む、スッキリとしたタンクレスの「サティスS」を導入しました。私が携わるプロジェクトでは、十数年前からLIXILの「サティス」を採用することが多い。タンクレスシャワートイレという機能性はもちろん、さまざまな空間にマッチするシンプルで美しいデザインにメリットを感じています。

編集部:

レストルームの数や面積については、どのように計画されたのでしょう。

尾崎:

1フロアあたり、30~40人程入りますが、その規模に一つのレストルームが最低限の数だと思っています。経験上50席を超えると2室は必要だと思います。レストルームがいくつ必要かについては、お客さんをトイレで待たせて良いものか、かと言って客席を減らしてまでトイレを設けるべきか、という点で、いつもオーナーと議論になる。近年、飲食店のレストルームに割り振られる面積は狭くなる傾向にあります。でもそれは単に狭くなっているというのではなく、トイレのデザインがコンパクトになっていることや、男性用の小便器だけを設けたブースといった工夫によって効率的な空間の使い方ができているのだと思います。最近では、男性用小便器、男女兼用、女性用という三つを設けるケースも増えている。私個人としては飲食店やバーにおけるレストルームは、気持ちをリフレッシュする場所であると考えているので、1人ずつのブースに仕切られたデザインが好ましいです。

しゃぶしゃぶ れたす 中目黒本店

中目黒にある一人一鍋のお店「しゃぶしゃぶ れたす 中目黒本店」。自然食材にこだわったメニューを引き立てる、丸太や無機質な金属を取り込んだ(1、2撮影/ナカサ&パートナーズ)

しゃぶしゃぶ れたす 中目黒本店
しゃぶしゃぶ れたす 中目黒本店
しゃぶしゃぶ れたす 中目黒本店

レストルームにも金属の特注什器を導入し、自然派の食材と対照的なドライな印象を演出。LIXILの「サティス G」と共に、シンプルで清潔感のある空間を表現している

編集部:

気持ちをリフレッシュさせるレストルームにおいて、デザイン面ではどのようなことに注意すべきでしょうか。

尾崎:

気持ちを切り替えるとは言いましたが、飲食店を訪れた高揚感が“覚めて”しまうようなデザインにはしたくない。その絶妙なバランスを実現するポイントは、照明と素材づかいです。同じく中目黒にある一人しゃぶしゃぶの店舗「しゃぶしゃぶ れたす 中目黒本店」では、新鮮な自然の食材を使ったメニューやその“生っぽさ”を引き立てるような空間をデザインしました。色味のある食材に対して、内装の素材には無機質な金属の質感や、無骨な雰囲気の丸太を意匠として取り込んでいます。一方レストルームにおいては、対照的な“乾いた”質感を演出しました。ただ味気ない空間にならないように、カウンター席と同じ金属の仕上げを用いてインテリアの連続性を持たせつつ、間接照明で素材の質感を引き立てています。トイレの便器周りや、鏡を見た時の顔の位置などに照明を当てて陰影を付けることで、息抜きをしながらも、また華やかな店内に自然と戻っていける雰囲気づくりを心掛けました。

編集部:

レストルームに用いるトイレタリー機器について、こだわっている点はありますか。

尾崎:

前述の空間に溶け込むようなシンプルで奇麗なデザインの他、あえて多機能ではない機器を採用することがあります。機能が増え過ぎると、デザイン的にインテリアにマッチしにくくなることと、海外のお客さんが多く利用する場所だと使い方が分からなくて困るケースもあるためです。一方で、便器のデザインは美しいフォルムだけでなく、カラーバリエーションや多様な質感があると空間デザインにも幅が生まれる。「サティス」にも複数のカラーや上質感のあるマットなものなどが展開していますね。最近は飲食店の中でもバーを始めとする大人の雰囲気を演出した空間は少なくなり、カジュアルでさまざまな年齢、客層が訪れる空間が増えていて、多様なお客さんに対して、店舗体験の付加価値となるレストルームが求められています。そのニーズに応えるために、コストや効率化を図りながらも1店舗ずつ、空間の条件に合わせたオリジナリティーのあるレストルームデザインを提案していきたいですね。

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雑誌記事転載
『商店建築』2019年9月号 掲載
https://www.shotenkenchiku.com/products/detail.php?product_id=345

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公開日:2020年05月27日