プレミスト有明ガーデンズ × LIXIL
普段の暮らしを楽しむ“大きな家”のような集合住宅
光井純、安部絵理香(光井純&アソシエーツ建築設計事務所)
臨海副都心エリアの有明では、東京2020オリンピック・パラリンピックのセンターコート「有明コロシアム」の他、商業施設や子育て支援施設、多目的イベントホールなど、未来へ向けての開発が進んでいます。2022年以降には東京都心と臨海部を結ぶ新たな交通機関、バス高速運用システム「東京BRT」も本格運行する予定。今後の発展が期待されるエリアに、2020年2月、分譲マンション「プレミスト有明ガーデンズ」が完成しました。水と緑豊かなベイエリアの環境を活かし、タワーマンションとは一線を画す“大きな家”のような集合住宅を提案。建物全てを活用して、家族との暮らし、住人同士のコミュニティを大切にした空間を実現しています。
今回は、デザイン監修をされた光井純 アンド アソシエーツ 建築設計事務所 株式会社の代表取締役・光井純氏と、同社アソシエイト・安部絵理香氏に、建物のデザインコンセプトとアプローチ空間に採用されたLIXILの大形セラミックスタイル「グラディオス」についてお話を伺いました。
湾岸エリアに誕生した日々の暮らしを大切にした住まい
——プレミスト有明ガーデンズの概要を教えてください。
光井氏:このプロジェクトは依頼を受けた当初、四角い建物で割とよくある板状マンションの計画でした。ただ単純に板状マンションを配置するだけだと、まちの表情が単調になってしまい威圧感が出てしまいます。そこで我々はクライアントさんと相談して、「分節※1を用いることで、ヒューマンスケールをつくっていきましょう」とデザインを進めることにしました。2棟構成の住居棟はハの字に配置されていますが、正面側の西棟は3つの建物が集まってひとつの棟ができているように見えます。これが大きな一面の建物だと、どうしても単調になりがちです。3段階に雁行した平面とコーナーサッシによって立体的に変化をつくっています。そして分節部分にはタイルを貼って表情をつくり、さらに塗装とガラスへ変化させ、素材の重さや軽やかさを上手く使って、この3つの分節をきちんと表現する。そうすると、タワーがヒューマンスケールとして感じられ、陰影の表情が出てきます。見方によっては雲が重なり合っている、あるいは波が重なり合っているような感じに見えるかもしれません。こうした分節の手法が、全体のボリューム計画をするうえで一番の特徴になります。さらに今回は、低層部や共用廊下側など人の目に近い部分にもタイルを使い、繊細な表情をつくっています。
安部氏:湾岸エリアという場所柄、周辺は高層のタワーマンションが多いのですが、せっかく板状マンションとしてスタートしているので、地に足の着いたような建物をつくろうと考えました。都心に近く水と緑に恵まれている土地なので、田舎暮らしに憧れる都会の人たちも住みたくなるような“ひとつの大きな家”をつくりたいということから始まっています。そのためコンセプトも「一棟丸ごと使いきる“大きな家”」と銘打ってプロジェクトを進行させました。スタイリッシュで高級な暮らしというよりは、肩ひじを張らない暮らしをして欲しいという想いでデザインを行っています。
光井氏:そういう意味では、最近の若い方のライフスタイルに近いのかもしれないですね。カジュアルに家族で暮らす。同じマンションに暮らす方々ともコミュニケーションを取ってお友だちになっていく。気軽におしゃべりしながら、家族間である程度の距離感は保ちプライバシーの部分はきちんと守って、みんなで楽しみながら生活する。高級感、5つ星ホテルなどというのではなくて、“大きな家”といっているように、無理に背伸びをせず、「もっと楽しい時間を過ごそうよ」という点が全面に出せたプロジェクトになったと思います。
安部氏:多くのマンションでは使われない共用部の空間が結構ありますよね。カッコよくて、椅子が置いてあるけれど雰囲気的に座りにくい。そのような場所はできるだけ無くして、どこでも誰でも使えるように工夫しています。
光井氏:今回、そこが良い感じに表現できていますね。ざっくばらんというか、先ほど申し上げたように肩ひじを張らない。ネクタイを締めなくてはいけないような、よそ行きな感じがなく、非常に感じのいい空間になっています。
註1:分節化。建築設計では、単位空間をフォルムごとに区分けし、その結合によって全体空間をつくる理念として使われる。
2つの庭をラウンジで繋ぎ、緑の中でくつろげる大空間を実現
——1階共用部のラウンジは“大きな家”のリビングルームのようです。
安部氏:2棟の住居棟をハの字に配置したことで、2つの大きな庭をつくることができました。1階にメインの共用部がまとまっていますが、実は1階の天高があまり取れなかったので、スペースを細かく分節せず、2つの庭を有効に活用して水平に広がりを持たせたラウンジ空間を配置しました。そうすることで高さが十分になくても視覚的には広々と感じられ、開放感のある空間づくりを目指していきました。
光井氏:安部が申し上げている通り、今回はハの字型の配棟になっているので、ハの字型の中庭と西棟外側の庭と両方に2つ庭があります。共用部を仕切る壁をガラスで透明につくると内側の庭と外側の庭が繋がって見える。そこが上手く活用されていると思います。
安部氏:2つの庭に挟まれたラウンジの窓を開ければ視界が開けて風も通ります。大きな広い共用部に少し用途の違う家具や設えをつくることで、子どもも大人も、お互いに見える範囲の中で自分の時間を過ごすことができます。子どもは遊び、お母さんは読書するといった個々に行動しながら一緒に過ごせるひとつの空間が実現できました。
光井氏:“みんなのリビングルーム”みたいな感じですね。色々な仕掛けが用意してありますから、誰かは本を読み、誰かはお茶を飲み、子どもたちは賑やかに遊んでいる。空間が、緩やかに区切られながらも全部見えていて、その背景に緑の庭が見えている。凄くいいと思う。戸建てでこのスケール感はできませんから、やはりマンションならではの空間づくりですね。マンションで暮らすということに対して、これまでは「ホテルライク」とよく言われていましたが、最近は「カフェスタイル」という言葉が近いかもしれません。つまり、肩ひじ張らずに、わいわい話しながら賑わいが生まれる。「そこが面白いよね」というライフスタイルが感じられます。
安部氏:建物の撮影があって入居後に訪れたことがありますが、1階共用部のラウンジでは、子どもをキッズゾーンで遊ばせて、ママはちょっとコーヒーを飲んでいる、という情景が日常的にありました。設計の想いが伝わって、きちんと使われていて嬉しかったですね。
光井氏:マンションの共用部って、ただ大きく豪華なラウンジスペースなどをつくっても「きれいに保持しなくてはいけない」という感覚が生まれて、意外と遠慮して使う人が少ないですよね。そのようななかなか使ってもらえないスペースをつくっても意味が無いということで、我々もデベロッパーさんと議論していたのですが、プレミスト有明ガーデンズはひとつの解答だと思います。敷居を高くしないで、ドンと下げて「自分のリビングスペースの延長上にあるように使ってください」というイメージでデザインしました。ざっくばらんな雰囲気なので緊張しないし、子どもたちに「うるさい、静かにしなさい」と言わなくても済む。そこが大事だと思います。中庭ですから守られている空間なので、扉を開けておけば「子どもたちは外に出て遊んでくれば」と言える。絶妙な距離感の取り方と言いますか、「快適だな、自分も住みたくなるな」と思えますよね。
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公開日:2021年08月25日