「建築とまちのぐるぐる資本論」取材9

古木と古民家の循環経済(サーキュラーエコノミー)をつくる

山上浩明(聞き手:連勇太朗)

本特集連載のなかで何度か出会ってきた共通のトピックが、マテリアルの循環、建材のリユースである。そこで、長野県を中心に「古木」(★1)の買取りから保管、販売、設計・施工までをワンストップで手掛け、古民家を活用したサーキュラーエコノミーにも取り組む山翠舎を訪ねた。まだ雪が残る時節、大町の倉庫工場では古材の量と物の迫力に圧倒された。ビジネスを生み出し力強く回していかなければ社会は変わらないと言う山上代表に話を伺った。

建築とまちのぐるぐる資本論 取材9

Fig. 1: 山翠舎の大町倉庫工場。

建築業の当たり前を疑う

連勇太朗(以下、連):

大町倉庫工場をご案内いただきましてありがとうございました。長野市で運営されているコワーキングスペース「FEAT.space」に移動してのインタビューです。まずは、山翠舎の歴史や事業について教えてください。

山上浩明(以下、山上):

大町まで来ていただきありがとうございました。古木は一般的には古材と呼ばれますが、沢山の在庫がある状態でお恥ずかしい限りです(笑)。もっとサイクルさせていきたいと思っています。
山翠舎は施工をメインにした建築会社で、古木を使った店舗の設計・施工や古民家移築も数多く手掛けています。歴史的には、1930年に私の祖父・山上松治郎が創業した建具屋の山上木工所が始まりです。父が住宅などの建築施工も行う工務店として1970年に法人化し、50年以上が経ちました。長野市の本社にも工場があり、知識をもった熟練の職人さんを抱えているのが特徴です。また、大町の倉庫工場には解体される古民家から引き取ってきた「古木」を常時5,000本以上ストックしています。近年は、飲食店の開業支援や古民家を使った宿泊施設をつくることにも力を入れています。

連:

山上さんの著書『“捨てるもの”からビジネスをつくる 失われる古民家が循環するサステナブルな経済のしくみ』(あさ出版、2023年)を拝読しましたが、改めて古木を扱うビジネスについてお話ください。

山上:

私は2000年に東京理科大学を卒業してソフトバンクで働いた後、山翠舎に入ったのが2004年です。その頃は長野県内のゼネコンの下請け仕事がメインの会社でした。2006年から新規事業として、古民家などで使われていた木材の買取りと販売を始めましたが、その動機は、良い材が使われている建物が無惨に壊され、捨てられていくのはあまりにもったいない、という非常にシンプルなものです。人の一生よりも長い時間を経てきた木に魅力を感じますし、大工の手仕事の跡にも感動します。なんとかしようという第一歩が買取りでした。私は常に主体的に課題にアプローチしていきたいのです。少しでも状況を前進させることの積み重ねでこれまでやってきました。
実は山翠舎は古木の施工会社としてはパイオニアで、1985年から「オクトパスアーミー」というブランドショップの施工を全国で50店舗ほど手掛けていました。当時はアンティークの輸入材を購入していたのですが、私の父が、なぜこの古い木がこれほど高価なのか、とぼやいていたのを子どもながらに覚えています。山翠舎の足元を見ると、素晴らしい古木が沢山あったのです。
また、建築業界・不動産業界には「手間がかかるから建て替えた方が安い」という常識がありますが、料理などと同様に手間をかけた方が良いものができると思いますし、私は「面倒」という言葉が好きではありません。同じ機能、同じ面積の建物であっても、150年前の材料が使われた空間と、型番で指定するクロス貼りの空間とでは必ず違いがあるはずですが、業界としてそうした時間や質、物の来歴といった情報を欠落させてエンドユーザーに伝えている状況も良く思っていませんでした。
原状回復も大きな無駄だと思います。コスト重視で「安かろう悪かろう」でつくるために原状回復せざるを得ないという悪循環になっています。魅力的な空間をつくれば、次に借りる方にとっても居抜きはメリットがあるはずです。
建築は近代化以降、設計者と施工者とがはっきり分けられ、設計図書を元に相見積りをさせて決めるという、ある意味で西洋的な方法でつくられています。私たちが目指しているのは、そうやってみんなが腹を探り合うのではなく、みんなが腹を割って、設計も施工も互いに身を乗り出してより良いものをつくるような世界です。

建築とまちのぐるぐる資本論 取材9

Fig. 2: 山上浩明さん(左)、連勇太朗さん(右)。

物量を扱うためのビジネス

連:

2006年に古木の買取り・販売事業を始められたということですが、世の中はまだ地球環境への問題意識や、アップサイクルといった考え方が広く浸透していなかった頃ですね。

山上:

そうですね。古木はゼロから集め始め、500本ほど集めたところで販売を始めたのですが、まったく売れず苦戦しました。当時からアピールしていたのはまさに環境のことで、貴重な材を燃やしてしまうのではなく、そのまま使えば環境負荷が少ないのですが、本当に反響がなかったですね。
今から振り返れば、古木を買う人があまりいなかったのは当然です。お客さんは古木そのものではなく、古木を使った空間がほしいわけですから。様々な試行錯誤を粘り強く続けるなかで、設計事務所への営業を強化して、有名なデザイナーの方のインテリアに採用してもらったこともあります。ただ、頑張って営業をして古木を入れていただいても、利益としては手間の割に合わず、この方法でも駄目だと思いました。
設計のプロにアピールして多少使われたとしても、その使用量には限界があります。そこで、空間として提案するために、2009年に設計・施工を始めました。設計部を立ち上げて、最初に目を付けたのが飲食店の内装です。それが軌道に乗り、これまで500件以上の古木を使った設計・施工や古民家移築を手掛けてきました。
良い雰囲気にしたい、温かみのある空間がほしいというエンドユーザーの要望に応えるだけではなく、設計・施工がワンストップでできること、それによってコストが抑えられることが私たちの強みです。事業費全体の規模から適した材の量やデザインを考えていくことができます。

連:

会社の歴史のなかで、色々な試行錯誤や戦略の転換があったことが伝わってきました。社会的にもこの20年ほどで、変わったこともあると思いますが、どうご覧になっていますか。

山上:

持続可能性、SDGsが求められる時代が到来し、古木による空間の雰囲気というような感性に訴えるところだけではなく、古木を使うことが社会への環境アピールになるという論理的な理由からも採用されるようになってきました。私たちはそうした多面的なアプローチが大切だと思っています。「MUJI HOTEL GINZA」(2019年)、「BEAMS JAPAN SHIBUYA」(2019年)、「スターバックスコーヒー 千曲店」(2018年)「同塩尻店」(2020年)など、大企業の店舗での実績も増えてきました。
私は、ビジネスとしてある規模の経済を回していくことを非常に大事にしています。なぜなら、私は山翠舎の3代目で、事業は現社員だけではなく、出入りする社外の職人さんはじめ様々な人の生活を支えていますから。仕事を生み出し、その価値を伝え、人を雇い、設備投資をしていくことが社会を変えることにつながっていきます。

連:

しっかりとビジネスとして回していかなければ、古民家の空き家問題など、大きな問題の構造は変えることができないということですね。

建築とまちのぐるぐる資本論 取材9
建築とまちのぐるぐる資本論 取材9
建築とまちのぐるぐる資本論 取材9
建築とまちのぐるぐる資本論 取材9

Fig. 3・4・5・6: 山翠舎の大町倉庫工場。常時5,000本以上の古木をストックし、職人による加工が行われている。材が使われていた場所や建てられた年がわかるものは記載されている。

山上:

古民家が解体・廃棄される直前で買取りを行っているのですが、そもそも古民家の解体自体が問題です。本来は、解体という意思決定よりも上流にアプローチして、解体されないようにしたいのです。最近は山翠舎の知名度が上がってきたおかげで、空き家の状態から相談をいただけるようになってきました。山翠舎が借り上げてリノベーションをして再び貸すというサブリース(転貸)や、お客さんの新規事業をファイナンスの面でお手伝いするという方法で、古民家をなるべくそのまま活用していきたいと思っています。
掃除やメンテナンスが定期的に行われている「潜在的空き家」(★2)の古民家も少なくありませんし、古民家を維持していくにはかなりのコストや手間がかかるにもかかわらず、先祖への気持ちなどから処分することができず悩んでいる方も沢山いらっしゃいます。そうした方々の思いや歴史をいかに引き継いでいけるのか。私たちは、大切な物をお預かりするという気持ちで、人と事業のマッチング、建築と事業の新しい組み合わせが肝要だと考えています。

建築とまちのぐるぐる資本論 取材9
建築とまちのぐるぐる資本論 取材9

Fig. 7・8: 長野市の「FEAT.space」は、山翠舎が借り上げて運用している。補助金申請を手伝いながら投資が行なわれた。カフェ、コワーキングスペース、イベントスペースから成る。

連:

サブリースは借り手に対しての説得力がありますね。

山上:

そうですね。私たち自身が家賃を払ってリスクテイクをしているわけで、自信をもっておすすめできます。

連:

本特集連載でも、若い建築家たちが自ら場所を運営し始めている事例が沢山ありました。事業者の立場を理解するためのトレーニングにもなりますね。

山上:

コストの配分や運営の苦労など、少なくとも事業者の話がよくわかるようになります。あまり入り込むと本業ができなくなるので要注意ですが(笑)。やはり大切なのは建築空間だけではなく、グラフィックやサービスなども含めた全体性だと思います。建築業・不動産業も直接的にリスクを取ってまちづくりを仕掛けていくべきだと思います。

小諸・長野での古民家を使ったまちづくり

連:

まちづくりに関わるお話も聞かせてください。

山上:

小諸市役所に勤める方とのご縁があったことを機に、旧北国街道沿いの元旅館を再生したコワーキングスペース「合間 / FEAT.space 小諸」(2022年)をつくって、直接運営をしています。
同じ街道沿いでは、サイフォンでお茶やコーヒーを提供する「彩本堂」(2021年)、建具や畳をつくっていた建物をギャラリー兼倉庫にリノベーションした「酢重ギャラリー ダークアイズ 小諸」(2023年)も施工しました。また、ハム・ソーセージ専門店「デリカテッセン山吹」やイタリア料理屋「Citta Slow」も、古い建物を再生したお店で、同じ通り沿いの徒歩圏内に複数の古民家リノベーションが展開されています。
リピートしたくなるお店が増えてきたので、小諸では宿泊事業も始めようとしています。現在進行形のプロジェクトですが、約10億円を投資して、空き家になった古民家を借り上げてリノベーションし、運営業者とマッチングを行い、分散型ホテルをつくる計画です。
長野市でも「FEAT.space」(2022年)や古民家をシェアオフィスにした「FEAT.space 善光寺下」(2023年)など複数の施設を運営している流れのなかで、高級宿泊施設を計画しています。
私たちは、古民家だから良いでしょうと謳う施設ではなく、古民家であることを抜きにして、ごく自然に良いサービスを提供しなければなりません。何も知らずに泊まっても良い思い出になり、後からそれが古民家である、山翠舎が関わった空間だとわかるという順序です。私たちは、味へのこだわりやサービスへの愛があり、真剣に取り組んでいる事業者さんとのネットワークをもっています。山翠舎を知っていただくことで、山翠舎が関わった他の飲食店さんなどにも足を延ばしてお金を使っていただきたい。
将来的には、長野市の善光寺界隈や小諸市の中心市街地を、店舗と宿泊施設による観光ネットワークの発信地にしたいです。目指すはスペインのサン・セバスティアンのように、食と泊まる場所とがセットになったまちです。「FEAT.space」に全国から関係者が集い、ワイワイガヤガヤと情報交換するようなネットワークもつくりたいです。私たちが手掛けた500店舗の飲食店を束ねるようなイメージで、そのまちづくりバージョンができれば良いですね。
まちづくりのポイントはファイナンスだと思います。事業者主体で融資一択ではなく、地元のゼネコンもリスクテイクをしながら物件を所有し、事業者は運営をメインに進めていくべきではないかというのが持論です。山翠舎が成功事例をつくり、全国に提案できるような存在になりたいです。まちづくりは基本的に当事者が主体となってすべきですから、長野生まれの私は長野以外では実践できませんが、各地に真似したい人が増えていくと良いですね。

建築とまちのぐるぐる資本論 取材9
建築とまちのぐるぐる資本論 取材9
建築とまちのぐるぐる資本論 取材9
建築とまちのぐるぐる資本論 取材9

Fig. 9・10・11・12: 小諸のコワーキングスペース「合間 / FEAT.space 小諸」。約120年前に建てられた元旅館を再生。1階にはカフェが入っている。

建築とまちのぐるぐる資本論 取材9
建築とまちのぐるぐる資本論 取材9

Fig. 13・14: 「酢重ギャラリー ダークアイズ 小諸」。器、絵画、民藝品、ヴィンテージ家具などが扱われている。2階は倉庫として改装。

マテリアルの固有性から始める

連:

学生の卒業設計は、今の社会を映し出すという側面があります。かつては新築のプロジェクトばかりでしたが、20年ほど前からリノベーションが増えてきて、昨今はさらに廃材の利用や、現場付近の資源を使うという提案も少なくありません。注目が高まってきていると思います。
一方で、実務的には古木はそれぞれの形が違っていて扱いが難しいと思いますが、いかがでしょうか。

山上:

古木は100〜200年前の時代からのギフトであり、私たちはその存在に委ねられているようなものだと思っています。それぞれがユニークかつ代替不可能な物なので、その物ありきで設計やものづくりをすることができないかと考えています。大町の倉庫工場に来て、実物を見ていただき、3Dスキャンを活用して構想してもらう。

連:

建築の核心的なところですね。近代以降、機能ありきで形式やプランを決めてから、最後に材料を考えるように教育されますし、制度的にもそうなってしまっていますから。

山上:

将来的には構造材としても使える、確認申請を通せるようにしたいです。現状は内装として使用されることが多く、イメージを聞いてから、それに合わせて工場サイドで選んでいます。

建築とまちのぐるぐる資本論 取材9

Fig. 15: 異なる材を継ぐ。

連:

スキャニングやトレーサビリティなどの情報技術によって、マテリアルの個別性、固有性に付き合えるようになってきていますね。

山上:

3Dデータはコミュニケーションツールですから、スマートフォンでも十分に事足りるものができます。古木のストックすべてが3Dスキャニングされていて、Web上にマーケットがあり、会員登録すると全データがダウンロード可能で、交渉中や売約済みなどのステータス表示がされているような状態が理想です。
トレーサビリティも重要で、どこにあったいつの時代の物か、誰が所有していたかなどの情報を価値にしていきたいです。時間やプロセスによって価値が上がる財産にすることで、日本が抱えている林業の問題にも応用できると思います。
鑑定の必要がないようにしたいので、海外用のプロダクト販売では既にNFCチップを入れ込んでいます。

連:

鑑定の必要がないというのは、ある種の権威による評価付けではなく、それぞれ個人が多様に物を評価できるようになるということですね。

山上:

私たちは、ユーザーが自由にカスタマイズできるように木のソムリエとして良いものを選び、価値を高めたいと思っています。インターネットで最低価格を検索するのではなく、その仕事に関わる人たちの存在価値が認められ、しっかり評価される世界にしたいです。
今、アーティストのシアスター・ゲイツが森美術館での個展「アフロ民藝」(★3)に向けて、大町倉庫工場で古木を選び、作品化している最中です。また、建築家との協働プロジェクトも進行中ですし、京都工芸繊維大学木内俊克研究室とは3Dスキャンなどを軸とした共同研究を予定しています。古木の固有性や価値を理解してくださる方、活用に賛同してくださる方が増えてきてうれしいです。
常時5,000本のストックがあり、解体のご相談もいただくなかでより沢山の引取りをしたいのですが、既に倉庫に収まらないという状態です。最善の解決策は、古民家をそのままの状態でストックするという発想です。「古民家ディベロッパー」としての実績を積み重ねていきたいです。
多くの方に大町倉庫工場に来て、古木の実物を見ていただきたいです。様々な木を見て、アイディアが降りてくるのを待ったり、私たちと議論するなかで何か方向性が見出せるはずです。

建築とまちのぐるぐる資本論 取材9

Fig. 16: アーティストに使われるのを待つ古木。

  1. ★1──山翠舎は「古木」(こぼく)を、第二次世界大戦以前に建てられた古民家の解体から発生した柱・梁・桁・板・枕木の木材と定義し、商標登録している。
  2. ★2──『“捨てるもの”からビジネスをつくる 失われる古民家が循環するサステナブルな経済のしくみ』(あさ出版、2023年)、p.107
  3. ★3──森美術館「シアスター・ゲイツ展:アフロ民藝」、会期は2024年4月24日〜9月1日。

文責:富井雄太郎(millegraph) 服部真吏
撮影:富井雄太郎
サムネイル画像イラスト:荒牧悠
[2024年3月7日 長野市「FEAT.space」にて]

山上浩明(やまかみ・ひろあき)

1977年長野市生まれ。2000年東京理科大学理工学部卒業後、ソフトバンクに入社。ネットワーク機器の営業を担当し社長賞を受賞。2004年家業の山翠舎に入社。2012年同社の代表取締役就任。2021年事業構想大学院大学にて事業構想修士取得。現在、空き家になった古民家などの社会問題解決を目指し、新規事業を展開している。
主な著書=『“捨てるもの”からビジネスをつくる 失われる古民家が循環するサステナブルな経済のしくみ』(あさ出版、2023年)
https://www.sansui-sha.co.jp/

連勇太朗(むらじ・ゆうたろう)

1987年生まれ。明治大学専任講師、NPO法人CHAr(旧モクチン企画)代表理事、株式会社@カマタ取締役。主なプロジェクト=《モクチンレシピ》(CHAr、2012)、《梅森プラットフォーム》(@カマタ、2019)など。主な作品=《2020/はねとくも》(CHAr、2020)、《KOCA》(@カマタ、2019)など。主な著書=『モクチンメソッド──都市を変える木賃アパート改修戦略』(学芸出版、2017)。
http://studiochar.jp

このコラムの関連キーワード

公開日:2024年03月27日