インタールード

我々は何をデザインするのか?―ぐるぐる資本論のデザインターゲット

連勇太朗(建築家、CHAr)

2023年5月から始まった本特集連載「建築とまちのぐるぐる資本論」、いかがでしたでしょうか?
1年間で、合計10本の取材記事、3回の鼎談と対談、5本の論考をお届けしました。そして、うれしいことに2024年度も特集を継続していくことが決まりました。1年を締めくくる本テキストでは、今まで様々な現場を見て回り、沢山の方々とお話しして得られた学びを振り返ってみたいと思います。このウェブサイトの特性上、各記事の関係性を表現することが難しいので「事後的な目次」として、読者の皆さんがコンテンツにアクセスするための羅針盤になれば幸いです。

さて「ぐるぐる資本論」という概念を1年間かけて考えてきたわけですが、イントロダクションで書いた当初の思いや問題意識は今も変わっていません。特に「『ぐるぐる資本論』の経済モデルはDIY可能であり、どんな人でもどんな場所でも自分の力で創造できるという着想から出発しています」という仮説は、尾道空き家再生プロジェクトの豊田雅子さんやニシイケバレイの深野弘之さんへのインタビューを通して強い確信へと変わりました。まずは何か小さくてもいいからアクションを起こしてみること、ビジョンがあればそこから仲間が増え活動が展開していくということを教えていただきました。本特集に登場した多くの実践者が、物・金・人・事の新しい循環系をDIY的に構築しているということに多くの人が勇気づけられたのではないでしょうか。小さな経済システムは誰でもこの手で創造することが可能なのです。

「『建築とまちのぐるぐる資本論』ってなんだ?―本特集への招待」連勇太朗

「建築を残し希望を託す 尾道空き家再生プロジェクトの15年」豊田雅子

「土地・隙間・人々のアソシエーション ニシイケバレイ」須藤剛、深野弘之

価値の交換

取材では、お金とは何かという抽象的なレベルから、事業の収益構造という具体的なレベルまで、多くの方に赤裸々に語っていただきました。ぐるぐる資本論の探求では、物事に対して「価値」がどのように付与されるのかという、古くて新しい根源的な問いに向き合うこととなりました。山翠舎の山上浩明さんには、事業を開始した当初は古木がまったく売れなかったことや、建築家やデザイナーのプロジェクトに採用してもらったとしても労力に対して利益が見合わないというリアルな話をしていただきました。本来であれば捨てられてしまった古木を価値あるものとして扱うために「味がある」といった認識の水準を超えて、現実の市場の動きを見据えながら、そのメカニズムのなかに古木を組み込む必要があります。資源の物質的・社会的・経済的価値を包括的に扱う枠組み(あるいは知性)が求められているのだと感じます。本多栄亮さんの論考では、ヨーロッパ圏での資源循環の先進的な取り組みを紹介していただきましたが、局所的な挑戦を経済的に広げていく政策的支えなど多方面のアプローチが求められているのかもしれません。

上勝町の取材では、「上勝町ゼロ・ウェイストセンター」の発起人である田中達也さんから、特別な観光資源をもたない上勝町を、全国そして世界へ知られる存在にするための工夫や戦略を、その背景にある思いと共にお話いただきました。建築の領域で言えば、中村拓志さんによる建築が日本建築学会作品賞を受賞したことも記憶に新しいところですが、グッドプラクティスを丁寧にブランド化していくことの重要性を学びました。また同時に、地元でカフェや体験プログラムを提供している東輝実さんが、これからの上勝町の未来を考えていくうえで、観光などの観点から住人の日常を「商品化」することに対する違和感について、率直な思いを語られていたことも印象的です。手触りのある、根本にある思いを漂白しないような経済的価値の付与の仕方、そしてその価値の享受の仕方に関して、社会全体でもっとトレーニングが必要なのかもしれません。これはまさしく我々の感性の問題でもあります。

「古木と古民家の循環経済(サーキュラーエコノミー)をつくる」山上浩明

「ヨーロッパで進む建築分野のリユース」本多栄亮

「自治としてのゼロ・ウェイスト──上勝町前編」東輝実

「生存戦略がブランドになった時──上勝町後編」田中達也

ぐるぐるの美学

お金の勘定や巡りそのものがデザインの質に影響を与えているという発見もありました。ぐるぐる資本論の探求で「美学」が度々話題になったことは新鮮な驚きです。2000年代末以降から、リノベーションにおける美学に大きな影響を与え続けてきた長坂常さんは、設計料やデザイン料を「人工」から考え、お金すらも「材料」として捉えていました。すべてが「マテリアル」になる時代の新たな建築論の可能性を感じます。建築家の吉良森子さんと建築史家である加藤耕一さんとの鼎談では、「ラグジュアリー」というキーワードが提示されました。リノベーション時代のローコストな建築のつくり方がピューリタン的価値観と結びついているのではないか、という加藤さんの指摘のもと、例えば壁紙などのモダニズムが排除してきた装飾的・表層的要素を、環境と人間の間を取り持つものとしていかに扱うのかという議論になりました。そこではマテリアルがもつ寿命や、デザイナーや建築家といった専門家と一般の人々の立場の違いなど、いくつかの重要な論点が浮き彫りになりました。こうした美学の問題は、突き詰めれば倫理的問題と結びつくものであり、ぐるぐる資本論における意匠論や装飾論など、古典的な意味でのデザイン(物理的・物質的人工物の設計)のあり方が再び強く問われているのかもしれません。

「予算から自由になるための創意」長坂常

「マテリアリティの再発見と新しい建築的ラグジュアリー」吉良森子+加藤耕一+連勇太朗

スケールの拡張と大資本への還流

ぐるぐる資本論は、個別の地域からジワジワと立ち上がっていくものであり、この特集の目的もそうした現場に赴いて何が起きているのかを学ぶことでした。取り上げられなかった事例も沢山あります。多様な事例がポップアップしている状況には希望を感じます。一方、同時進行で、我々の日常の風景はどんどん貧しくなっているという状況も事実でしょう。「住宅過剰社会」を提唱する野澤千絵さんと創造系不動産の高橋寿太郎さんとの鼎談では、「スプロール化」の力がまったく衰えていない状況を再認識するところから議論が始まりました。そして、小さなグッドプラクティスが「部分最適」であるという指摘のもと、よりスケールを広げて状況を俯瞰的・構造的に考えることの重要性を議論しました。最後の饗庭伸さんとの対話でも同様のことが議論の主題となりましたが、専門家や専門性の捉え方の変更が迫られる現在、改めて学問の本来もつ創造性に目を向けてみたいと思う気持ちになりました。様々な実践を歴史的・理論的に位置づけたり、固有の知見を理論化したり方法論化したりすることでシェアしたり、状況そのものを相対的・構造的に捉えるなど、実践に対して有用なフィードバックを与え続ける運動としての学問が求められていると感じます。森一貴さんの論考で度々参照されているエツィオ・マンズィーニによる参加型デザインやコ・デザイン領域におけるデザイナーの役割を再定義する議論ともつながる話かもしれません。多様な関心と興味を集め、相互作用を連鎖させていく「うつわ」を形成していくために、メタな視点をどのようにプラクティスのなかに導入するのかが求められていると言えます。
このように、特集を通して、小さな局所的解決に満足せず、それを広げ展開していくための方策についても様々なかたちでヒントが提示されました。

鎌倉・葉山を起点に各地の地域創生を目指す「エンジョイワークス」の福田和則さんたちが開発した画期的な仕組みである共感投資「ハロー! RENOVATION」は、住民同士によるテンポラリーなイベントや商売をもとにした局所的なコミュニケーションを、より大きくより広く連鎖させていくために考え出されたものであったというのが印象的です。また、能作淳平さんは、「富士見台トンネル」での実験を、再現性を高め、他の地域に展開していくための戦略として「みんなのコンビニ」を構想したという、小さな取り組みをより大きな動きや展開へスケールアップさせていくという考え方にも強く共感しました。固有の場から立ち上がったグッドプラクティスを、その場限りの属人的アクションで終わらせるのではなく、システマティックな思考や仕組みを導入することで水平的に展開していこうというこれら一連の試みにぐるぐる資本論が次の時代にうねりになっていく可能性を感じさせてくれます。また、寺内玲さんの論考では、「ディストリビューテッド・デザイン(分散的デザイン)」という新たな潮流をバルセロナにおけるプロジェクトを中心に紹介していただきましたが、「自律からネットワークへ」というメッセージとともに、自律的・局所的な活動やノウハウを共有する知のプラットフォームの構築が必要であることが主張されています。

一見、草の根的に見えるomusubi不動産の殿塚建吾さんやHAGISOの宮崎晃吉さん・顧彬彬さんが、現在、大きな資本の動きを利用しながら活動を展開しようとしているということにもひとつの希望を感じました。宮崎さんたちは、設計事務所の運営を請負モデルに頼らなくても経済的に自立させられる状況をつくる必要があると主張しています。それは、大資本のプレイヤーと台頭にフェアな関係で仕事をするためであり、大きなシステムに対して従属的な存在になることを避けるためのサバイバル戦略です。こうした大資本へ、活動を戦略的に還流させていくことが今後どのような未来を生み出すのか継続して注視していきたいと思います。木村佳菜子さんによる、クラウドファンディングというお金の循環システムが新しい搾取や消費のいち形態に矮小化される可能性があるという指摘がリフレインされないよう願うばかりです。

社会学者である松村淳さんの論考で「共同体をベースとした資本主義モデル」と「共同体を食い物にした資本主義モデル」があることが言及されていますが、このふたつのモデルがどのように重なり接点をもつのか、それを考えることが重要なのかもしれません。それがどのような共同体を前提としているのか、あるいはどのような共同体を出現させるのか、今後のぐるぐる資本論の主題となりそうです。

「住宅過剰社会から脱却するための戦略」野澤千絵+高橋寿太郎+連勇太朗

「小さな経済圏に見る希望と倫理」饗庭伸+連勇太朗

「歌い踊れる舞台はいかに可能か──ヘルシンキ中央図書館Oodiから考える」森一貴

「ソーシャルキャピタルで地域を育てる方法」福田和則

「ディストリビューテッド・デザインとバイオマテリアルの可能性」寺内玲

「小さな経済とメンバーシップの建築化」能作淳平

「DIY可能物件日本一の不動産屋による社会実験」殿塚建吾

「風の人から掘る人へ──HAGISOと谷中周辺の10年間」宮崎晃吉

「クラウドファンディングと建築・まちづくり」木村佳菜子

「共同体をベースにした建築とまち、経済モデルを構想する」松村淳

最後に、ぐるぐる資本論を探求する旅にご協力いただき、快く取材・鼎談・執筆にご協力いただいた多くの方々にこの場を借りて感謝の気持ちを送りたいと思います。貴重な経験や知恵をシェアいただきありがとうございました。 読者の皆さんがこの特集を通して何を感じたのか、感想もお待ちしています。また、取材してほしい現場や人をご存知でしたら是非教えてください。次の1年の企画の参考にしたいと思います。

「建築とまちのぐるぐる資本論」お問合せフォーム

https://www2.biz-lixil.com/survey_answer/id=2334

このコラムの関連キーワード

公開日:2024年04月26日