「建築とまちのぐるぐる資本論」論考1

クラウドファンディングと建築・まちづくり

木村佳菜子(MotionGallery)

昨今、建築やまちづくりの領域において「クラウドファンディング」という言葉が当たり前に聞かれるようになったが、どのような場合にクラウドファンディングが有効なのか、そもそもクラウドファンディングとは寄付や投資とどう違うのかなどと考えると、具体的にはイメージが掴めないという方も多いのではないだろうか。
そこで、数年という浅いキャリアではあるが、クラウドファンディングキュレーター(★1)として様々なプロジェクトを目にしてきた筆者の視点から、建築やまちづくりとクラウドファンディングの関わりについて概説できればと思う。

クラウドファンディングとは何か

そもそもクラウドファンディング(crowd funding)とは、群衆(crowd)と資金調達(funding)を組み合わせた造語で、個人や企業、団体などが主にインターネットを介してプロジェクトのプレゼンテーションを行い、それに共感する人々から広く資金を調達する仕組みのことである。
新たな取り組みを始める際、しばしばまとまった額の初期費用が必要となるが、その企画開発・制作の段階ではまだ売上げがなく、内容が革新的であるほどその有益性を示す材料が少ないため融資も受けづらいなど、資金調達の面で大きな壁がある。こうした「鶏が先か卵が先か」のジレンマを、「プロジェクト実現の前にそのアイデアをもとに」「多数の人から少額ずつ」資金を募ることで構造的に解決するものとして、クラウドファンディングは登場した。
この発想自体はインターネット以前にも世界各地で見られ、鎌倉時代の日本にも、寺院や仏像の建設・修復のために庶民から資金を募る勧進という動きがあった。
だが、人々が金銭的・短期的な利益ではなく共感や参加を動機に資金を提供することで、市場経済の指標では評価されづらい公共的・文化的活動にも資本を届けられるという点は、現代においては革新的と言える。それゆえにクラウドファンディングはオルタナティブな経済としても期待を寄せられてきた。

Fig. 1:クラウドファンディングの仕組み。筆者作成。

2000年代にアメリカで始まったクラウドファンディングだが、日本においては、2011年に寄付型クラウドファンディングが東日本大震災の復興支援の受け皿となったことで認知され始めた。その後購入型クラウドファンディングが普及し、2014年の法改正により投資型クラウドファンディングも広がっていった。2014年度に約200億円だったクラウドファンディングの市場規模は、2021年度には約1,642億円まで拡大している(★2)。
前述の通りクラウドファンディングには購入型や寄付型、投資型(融資型・ファンド型・株式型・不動産型)など複数の種類があるが、応援者がお金を提供しそのリターンとして物や体験を受け取る購入型は、応援の動機を「参加感」に収束させることに向いている。本記事では、建築やまちづくりが他ジャンルのプロジェクトと比べてより参加感が重要になってくることを踏まえて、購入型クラウドファンディングに焦点を当てて見ていきたい。

プロジェクトの目的と動機

クラウドファンディングという仕組みは、建築やまちづくりにおいてどのように活用されてきたのだろうか。事例をいくつか取り上げながらその特徴を挙げてみる。
まずは資金調達の目的である。資金の使い道としては、やはり建物の補修や改修などハード面の費用に充てられる場合が多く見られる。多額の費用がかかり自己資金や助成、融資のみでは賄いきれないことが第一に考えられるが、工事費が資金の使用期間の初めと終わり(≒工期)を定義でき、明確な成果物のある用途であり、応援者にとって透明性・追跡可能性が高いということも大きい。
また、購入型クラウドファンディングには、目標金額を達成した場合のみ資金を受け取ることができ達成しない場合は応援者に返金となる「All or Nothing方式」と、目標金額に満たない場合も集まった分だけ資金を受け取れるがプロジェクトの実行義務もある「All in方式」があるが、工事費を資金用途とするプロジェクトの多くは後者を選択しているようだ。
クラウドファンディングの際に工事概算や具体的な計画を公開できるということは、建物や土地、まちの関係者との調整、および物件契約を済ませている場合が多い。そのため、実行段階にまで進んでいるプロジェクトに適したAll in方式を採用していると思われる。
もちろんハードだけでなくソフトの費用に充てられることもある。例えば東京・谷根千エリアのローカルメディア「まちまち眼鏡店」プロジェクトではウェブ制作費、墨田区北部の下町の財産を引き継ぎ新たな価値を加えていく「八島花文化財団」設立のプロジェクトでは財団の初期運営費などである。また、コロナ禍のような緊急事態下では、まちの拠点を存続させるために一定期間(★3)の施設の運営費を募るものも多く見られた。
建築・まちづくりにおいてクラウドファンディングを選ぶメリットとはどんなものだろうか。
ひとつには、活動や建物のことを物理的な制約を超えて様々な人に知ってもらうこと、いわばPR効果への期待がある。単にプロジェクトの成果物を広告するよりも、プロジェクトの背景やストーリー、進行過程まで伝えられるため、当事者意識をもって見てもらえることも利点だ。
加えて、応援する人々に実際に参加してもらうきっかけを提供し、巻き込んでいく場としても用いられる。
広島・尾道の木造家屋を補修し文化交流の場として開く「LLOVE HOUSE」プロジェクトでは「取り組みに賛同くださる方々に参加してもらい、できるだけ多くの皆さまと私たちの経験を共有する方法を模索していきたい」と述べられているし、青森・黒石にまちのアトリエを作る「Circleこみせ」プロジェクトでは、リターン(断熱ワークショップ参加権やシェアキッチンの1日利用権など)を通して具体的な関わり方を例示しており、それぞれ応援者をプロジェクトの一員と見なす姿勢が感じられる。

Fig. 2・3:青森県黒石市のCircleこみせ。2023年に新たに完成した2階の「まちのリビング」。撮影:髙木隼人

時折、クラウドファンディングのデメリットとしてプレゼンテーションページ作成の「負担」が語られることがあるが、集める資金の追跡可能性やプロジェクトの実現性をページ内で明示し、プロジェクトの意義やストーリー、思いを自らの言葉で記載することは、多くの応援を集めるためにやはり重要だ。
それだけでなく、ページをつくる過程そのものがプロジェクトチームにとって活動の理念やビジョンをすり合わせ、チームメンバーそれぞれにとっての意味を捉え直す機会となったという声も聞かれる。ページ作成を負担と捉えるか、機会と捉えるかはクラウドファンディングに挑戦する動機によっても異なりそうだ。

リターンと参加

購入型クラウドファンディングではリターンを楽しみに応援する人も少なくない。
以下、プロジェクトのジャンルを問わない普遍的なものも含まれるが、建築やまちづくりのクラウドファンディングリターンの傾向を見ていく。
まず、プロジェクトの過程を配信するレター・日誌は、数多くのプロジェクトでリターンに設定されている。
クラウドファンディングのプラットフォームの多くは応援者に記事を配信できる機能を備えており、プロジェクトの起案者は進捗を共有することで信頼性を伝えつつ、応援者の当事者意識を高めるものとしても活用している。
次に、限定グッズや応援者の名前を成果物に記すことなど、プロジェクトに参加した記念や証になるものも人気だ。建物の記念誌や建築図面など、アーカイブと言えるものも度々見られる。
また、まちや建物に関するプロジェクトである以上、体験型リターンもメジャーである。
建物見学会やオープニングパーティへの招待、施設の宿泊券の提供などはプロジェクトの成果物を体感してもらえるし、周辺地域も含めたまち歩きツアーの実施はまち全体の魅力を知ってもらうのに有効である。
さらに、成果物をつくるプロセスに関われるリターンもあり、例えば藤森照信建築のファンであった起案者が長野・富士見町に藤森氏設計の宿泊施設を開業するプロジェクトでは、ワークショップで加工した銅板が実際に宿泊施設の屋根に使用されるという貴重な体験が得られる。

Fig. 4・5:2023年に竣工した「小泊Fuji」。クラウドファンディングで屋根に使うための銅板を曲げるワークショップの参加者を募った。撮影:ミズカイケイコ

風景への参加、世論形成の可能性

参加ツールとしてクラウドファンディングが使われているプロジェクトを見ていると、応援マネーを投じる行為自体が「そのプロジェクトが実現した未来が見たい」「そういう社会をつくろう」という意思表示になっていることに気付かされる。特に建築やまちづくりではプロジェクト実施により実際に風景が変化するため、その実感を抱きやすいだろう。
「羽根木プレーパーク」という、日本でも先駆け的な冒険遊び場におけるプロジェクトでは、現在進行形でプレーパークを利用している親子だけでなく、子どもが大きくなったり遠方に引っ越したりして今は直接の受益者ではない人々からも応援が集まり、「羽根木プレーパークを次世代につないでいきたい」という意思が顕在化した。
人々のお金に対する感覚を「市場において何かと交換するためのもの」から「社会において自分の意思を表現するもの」へと変えうることは、クラウドファンディングの秘める可能性のひとつである。
また、クラウドファンディングが現象とも言える盛り上がりを見せることで、世論や運動が形成されるというポテンシャルもある。
アメリカ・ポートランドにある建築建材のリサイクルショップ「ReBuilding Center」に感銘を受けた空間デザイナーの東野夫妻が、クラウドファンディングを利用して長野・諏訪市に「ReBuilding Center JAPAN」(通称リビセン)を設立した。古民家等の解体現場から古材や古道具をレスキューし販売するという活動は広く共感を呼び、各地で同様の価値観をもつショップがオープン、互いにネットワークを築いている。それだけでなく、リビセンは諏訪近辺の空き物件を続々と古材を用いてカフェや本屋などに再生しており、まちに活況をもたらしている。こうした古材レスキュー・再生が運動として広がる起点にクラウドファンディングの存在を感じることができる。

Fig. 6・7:2016年にクラウドファンディングで支援を集め、長野県諏訪市にオープンした「ReBuilding Center JAPAN」。提供:ReBuilding Center JAPAN

他にも、東京・国立にあるスナックを当時大学生だった起案者が事業継承することでも話題を呼んだ「スナック水中」プロジェクトがスナック文化の捉え直しや再評価にも波及していったり(★4)、「中銀カプセルタワービル」、「旧尾崎邸」、「三鷹天命反転住宅」という各建築再生プロジェクトが同時期にファンディングされたことで、点が面となり「建築保存のムーブメント」としてメディアに取り上げられるなど、まちづくりや建築再生においてもそのポテンシャルが発揮されつつあるようだ。

クラウドファンディングの課題

とはいえ、クラウドファンディングはあくまで仕組みであり、使い方次第では思うような方向へ作用しないこともある。
例えば、一時的あるいは消費的な関わりにとどまってしまう可能性だ。
クラウドファンディングで資金を集めプロジェクトとリターンを実施し終えた以降の、応援者とのつながりが課題となるケースは時々見られる。またコロナ禍以降、メディアで「クラウドファンディング」とともに「応援消費」という文字列が並ぶことも増えた。プロダクトや食品を生産するプロジェクトなどであれば、クラウドファンディングを先行予約販売に近い形に設計し「ストーリー消費」「応援消費」を促すのもひとつの活用方法であるが、こと建築やまちづくりにおいては、応援者と持続的にコミュニケーションを取っていきたい場合が多いのではないだろうか。
現にその点に注意を払いながらプロジェクトを設計する起案者も少なくなく、例えば東京・国分寺にまちの寮を作る「ぶんじ寮」プロジェクトでは、「本当はそういう動機ではなかったとしても、リターンと取引する形での支援となることで、図らずも要望や権利主張の気持ちを刺激してしまうのではないかと思うのです。○○コースに支援したんだから、あれしてくれ、これしてくれ、という具合に。」という葛藤が示されており、国立にシェア型店舗をつくる「みんなのコンビニ」プロジェクトでは、ノウハウやネットワークを共有し合うオンラインコミュニティへの参加権をリターンに設定するといった工夫を施している(★5)。
さらに、購入型クラウドファンディングではないが、持続的で共創的な関わりを仕組み自体に組み込むべく、共感投資型クラウドファンディングという仕組み(「ハロー!RENOVATION」)も登場している(★6)。
交換とも贈与ともつかないお金を扱える仕組みとも捉えられるクラウドファンディングだからこそ、自身の状況に合わせてプロジェクトを設計し、応援マネーの意味づけをチューニングして活用していくことが可能だろう。
もうひとつ課題として挙げられるのが、現状の社会構造の補完や追認になってしまうリスクだ。
特に何らかの社会課題の解決を意図したプロジェクトにおいては、「クラウドファンディングで多くの応援が集まる」という事象が、社会全体への問題提起としてでなく、公助を後退させる・現状の構造を変えない言い訳として第三者に利用されてしまうリスクが付きまとう。
行き過ぎた資本主義経済の歪みやいわゆる「市場の失敗」「政府の失敗」を解消するために生み出された取り組みが、問題となっている社会構造や体制を補完あるいは強化する装置になってしまうことへの危惧だ。これは、ボランティア・NPOや子ども食堂をめぐる議論でもしばしば取り上げられる観点である。
もちろん、「コロナ禍によりまちの施設が存続の危機にある」といった緊急時などには、公助を待たずにクラウドファンディングをした方が良い場合もあるし、むしろそれによって世論や運動が形成され、より普遍的で持続的な解決策の検討につながっていく可能性もある。
一概に是非が言えるものではないが、いずれにせよ、プロジェクトの社会における位置づけを自覚したうえでクラウドファンディングに臨むと良いのではないか。
以上、建築やまちづくりとクラウドファンディングの関わりについて概観してきた。クラウドファンディングの意義や文脈、そして可能性と課題について大まかにでも知っていただければ幸いだ。
本連載のイントロダクションで指摘されている通り、私たちは創造性の発揮を可能/不可能にしている社会・経済的な構造を無視できない時代を生きている。そのような状況下で、現在支配的な資本主義とは別様のあり方を模索する時、クラウドファンディングの仕組みを創造的に使いこなしてもらえればと思う。

  1. ★1──プロジェクトを発掘し、クラウドファンディングの達成に向けて起案者を伴走支援するスタッフの名称。
  2. ★2──矢野経済研究所の調査による。URL: https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/3042
  3. ★3──プロジェクトファイナンスが基本で、資金の使用期間の初めと終わりを明確にする必要がある。
  4. ★4──本連載の取材2「小さな経済とメンバーシップの建築化」 参照。
  5. ★5──本連載の取材2「小さな経済とメンバーシップの建築化」 参照。
  6. ★6──本連載の取材3「ソーシャルキャピタルで地域を育てる方法」 参照。

サムネイル画像イラスト:荒牧悠

木村佳菜子(きむら・かなこ)

1995年生まれ。東京大学理学部地球惑星環境学科卒業、同大学院新領域創成科学研究科社会文化環境学専攻修士課程修了。クラウドファンディングプラットフォーム「MOTION GALLERY」キュレーター。2023年よりJapan. asset management株式会社にて、リノベーション企画やまちづくりプロジェクト、空き家活用を推進する共創プラットフォーム「空き家リノベラボ」の運営にも携わる。宅地建物取引士。

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公開日:2023年08月31日