タイル探訪 その2:地域、歴史、風土への共感

時を超えるタイル

塚本由晴(建築家)

外壁タイルの4象限

今回訪れた作品を比較すると、前川のテクニカルアプローチのシステム志向と、今井のフェニックスモザイクの物語志向が、建築家の作家性の問題としては好対照を成し、長い歴史をもつタイルの民芸的でクラフト的な性格と、近代以降の大量・均質を目指した工業的性格が、生産の問題としては好対照を成す。これら2軸を交差させた4象限に、各作品をプロットしたのが右上の図である。一連の前川の打込み煉瓦タイルは、精度が上がるのに反比例するように熱を失い冷たくなっていったことから、第4象限から第1象限を跨いで位置づけられる。日本における磁器の開祖、李参平を祀る陶山神社や、日本二十六聖人の道程を辿って拾い集めた陶片や窯片でつくった今井のフェニックスモザイクは第3象限に位置づけることができる。レーモンドの大劇会館は有田焼を使って、システム的にファサードを構成しているので竣工時は第4象限だが、生産地との繋がりやノエミの貢献が見直された復旧の物語により、第3象限にシフトしたと考えるのも面白いだろう。
空間論が主流となった20世紀の建築の言説は、無限の拡大成長という神話を無意識に想定しており、その神話と強力にカップリングされた資本主義的合理性に抗えない。このカップリングに対抗するうえで信用できるのは、ものづくりに内在する不変の行程や、自然物のふるまいであり、そこに登場する事物の繋がりを追う連関型の想像力である。ほかの建材と同様、近代化の中で大量生産や規格化を経験したタイルだが、今も土、釉薬、窯、職人など、それを取り巻くものとの関わりを強く写し取る「やきもの」としてのタイルは、事物連関型デザインの強力なパートナーである。タイルの事物連関に牽引された本論考が、外壁タイルの表現に込められた、地域、歴史、風土への共感を少しは浮き彫りにできていたら嬉しいのだが。

本論考の4象限の図。

参考文献:
毎日新聞2021年7月5日版
『建築家・前川國男の仕事』(美術出版社、2006年)
特許公報:昭38-23385(特許庁)
『日本のタイル工業史』(INAX、1991年)
『今井兼次 建築創作論』(鹿島出版会、2009年)
世界的巡礼地日本二十六聖人記念館「望徳の壁」修復に密着「数万の陶器・ガラス片が不死鳥に」
NBC長崎放送/https://youtu.be/9Pjg8fb5MWI?si=TXPkQWmeyVb5KKZ8

INAXライブミュージアム「建築陶器のはじまり館」

「INAXライブミュージアム」

LIXILが運営する、土とやきものの魅力を伝える文化施設「INAXライブミュージアム」(愛知県常滑市)の一角に、近代日本の建築と街を飾ったテラコッタを展示する「建築陶器のはじまり館」がある。 LIXILは、主に大正時代から昭和の初期(第2次世界大戦前)まで、鉄筋コンクリート造の建築に取り付けられた装飾のためのやきもの「テラコッタ」を譲り受け保存してきた。この「建築陶器のはじまり館」は、屋内と屋外の展示エリアで構成され、屋内展示では、関東大震災を契機に明治期の煉瓦造の洋風建築から鉄筋コンクリート造へと変わっていく建築の近代化の流れと当時の建築を彩ったテラコッタについて、社会情勢を紐解きながら解説し、近代建築の巨匠、フランク・ロイド・ライト設計の「帝国ホテル旧本館(ライト館)」の食堂の柱など貴重な資料を展示している。屋外の「テラコッタパーク」では、長く建築物の壁を飾ってきたテラコッタを、本来の姿である壁面に取り付けた状態で展示し、ゆったりとした芝生広場で青空の下、日本の近代建築が花開いた時代の息吹や、人びとのものづくりへの熱意が伝わってくる。

①:「建築陶器のはじまり館」展示風景、左は帝国ホテル旧本館(ライト館)食堂の柱。
②:「テラコッタパーク」屋外展示風景。
③:ライト館「光の籠柱」のテラコッタ。
④:大阪ビル1号館にあった愛嬌のある鬼や動物の顔のテラコッタ。

企画展「帝国ホテル煉瓦製作所 ―フランク・ロイド・ライトのデザインに挑んだ常滑の職人―」

会期:2024年5月14日(火)まで会期延長 ※展覧会終了
会場:INAXライブミュージアム
「窯のある広場・資料館」2階

フランク・ロイド・ライトの代表作として知られる帝国ホテル旧本館(ライト館、1923年)は、大谷石とやきものによる建築素材で覆われ、使われたやきものの数は400万個以上。当時、その膨大な数と高度な造形の要求に挑み奮闘した愛知県常滑の職人たちに光を当て紹介します。

所在地:愛知県常滑市奥栄町1-130 tel:0569-34-8282
営業時間:10:00〜17:00(入館は16:30まで)
休廊日:水曜日(祝日の場合は開館)、年末年始
入館料: 一般700円、高・大学生500円、小・中学生250円(税込、ライブミュージアム内共通)※その他、各種割引あり
web:https://livingculture.lixil.com/ilm/

雑誌記事転載
『新建築住宅特集』2024年3月号 掲載
https://japan-architect.co.jp/shop/jutakutokushu/jt-202403//

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公開日:2024年06月26日