麻布台ヒルズ×LIXIL

麻布台ヒルズ 新しい街の空間をタイルで彩る

森ビル株式会社:増沢 唯 株式会社日本設計:加藤 弘治・宇喜多 昌秀・市原 慎太郎

麻布台ヒルズ 森JPタワーのオフィスエントランス
麻布台ヒルズ 森JPタワーのオフィスエントランス。エレベーターホールへと続く内壁にも“さざ波”が途切れることなく流れていくようにガラスモザイクを配した
© DBOX for Mori Building Co., Ltd - Azabudai Hills
© DBOX for Mori Building Co., Ltd - Azabudai Hills
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2023年11月に開業した「麻布台ヒルズ」を象徴する圧倒的な緑を実現するためには、建物の超高層化が必要でした。細分化された土地を取りまとめて大きな敷地を生み出し、そこに超高層タワーを建てることで、足元に緑豊かなオープンスペースを生み出す。この都市づくりの手法が、森ビルが長年にわたってこだわってきた「ヴァーティカル・ガーデン・シティ(立体緑園都市)」です。麻布台ヒルズ全体の約8.1haの広大な計画区域には、約2.4haの圧倒的な緑が広がり、延床面積約861,700m2の空間に、オフィス、ホテル、住宅、商業施設、文化施設、教育機関や医療機関など、多様な都市機能が集積するコンパクトシティとなっています。
取り組みのひとつとして、「街全体がミュージアム」をテーマに掲げ、ミュージアムやギャラリー、敷地のあらゆる場所にパブリックアートを設置するなど、芸術・文化が一体となった街を創出。地上64階、高さ約330mを誇る森JPタワーのオフィスエントランスやインターナショナルスクールの外壁は美しいタイルで彩られています。
今回はプロジェクトを担当された森ビル株式会社の増沢氏および設計を担当された日本設計の加藤氏・市原氏・宇喜多氏に、麻布台ヒルズの街づくりをはじめ、タイルの魅力についてお話を伺いました。

麻布台ヒルズ 森JPタワー
設計/森ビル株式会社、株式会社日本設計
ファサードデザイン/Pelli Clarke & Partners(高層タワー)
/Heatherwick Studio(低層、学校)
インテリアデザイン/Yabu Pushellberg(住宅、オフィスロビー)
施工/清水建設株式会社

人の営みを中心とした都市の街づくり

──麻布台ヒルズの概要を教えてください。

森ビル株式会社 設計部 一級建築士 増沢 唯氏
森ビル株式会社 設計部 建築設計2部
一級建築士
増沢 唯氏

増沢氏:麻布台ヒルズの開発コンセプトは“Modern Urban Village〜緑に包まれ、人と人をつなぐ『広場』のような街”です。「Modern Urban Village」を支えるふたつの柱は「Green」と「Wellness」。圧倒的な緑に囲まれ、自然と調和した中に多様な人々が集まり、心身ともに健康で豊かに、より人間らしく生きられる新しいコミュニティーの形成を目指しています。

森JPタワーと中央広場 © DBOX for Mori Building Co., Ltd - Azabudai Hills
森JPタワーと中央広場
© DBOX for Mori Building Co., Ltd - Azabudai Hills

高低差のある地形を生かして、敷地全体を緑化することで、約6,000m2の中央広場を含む約24,000m2の緑地を確保し、都心の既成市街地でありながら、麻布台ヒルズ全体が緑と水でつながり、自然あふれる憩いの場を創出しています。まずはじめに人の流れや人が集まる場所を考え、街の中心に広場を据え、その後、3棟の超高層タワーを配置しました。これは、まず建物を配置し、空いたスペースを緑化するという、従来の手法とは全く逆のアプローチです。そして、さまざまな施設がともに連携し、暮らす、働く、集う、遊ぶといった人の営みの全てがシームレスにつながるよう施設や動線を配置しています。

グローバル企業の多様なニーズにこたえる国際水準のオフィスや日本を代表する食の専門店が集積した店舗面積2,600m2の「麻布台ヒルズ マーケット」、「Green&Wellness」なテーマに沿った約150もの店舗からなる商業施設などのほかに、都心最大級の生徒数を誇るインターナショナルスクール「ブリティッシュ・スクール・イン東京」も開校しました。60ヵ国以上の国籍を持つ幼児・初等教育科の生徒約740人が在籍。豊かな自然を感じられる環境の中、国際感覚に優れた未来を担う子どもたちを育みます。

約6,000m<sup>2</sup>の広さを誇る緑豊かな中央広場 イメージ図 © DBOX for Mori Building Co., Ltd - Azabudai Hills
約6,000m2の広さを誇る緑豊かな中央広場 イメージ図 © DBOX for Mori Building Co., Ltd - Azabudai Hills

──建築家、デザイナーについてお聞かせください。

増沢氏:3棟の超高層タワーの外観デザインは、アメリカの Pelli Clarke & Partner(ペリ・クラーク・アンド・パートナーズ) が担当しました。世界各国でランドマークとなる超高層タワーをデザインし、国内では当社の「愛宕グリーンヒルズ」や「アークヒルズ 仙石山森タワー」などを手掛けています。Pelli Clarke & Partnerの創設者であり、偉大な建築家でもある故シーザー・ペリ氏は、「個々の建築デザインはより良い街を実現するためにあるのだ」という哲学をお持ちでした。それは森ビルの思想とも一致するものです。
低層部のユニークな建築とインターナショナルスクール、ランドスケープはヘザウィック・スタジオのデザインです。ヘザウィック・スタジオは、トーマス・ヘザウィック氏率いるイギリスのデザイン集団で、建築、都市計画、プロダクトデザイン、インテリアデザインなど従来の枠組みに捉われない多彩なプロジェクトを手掛けています。これまでにロンドンバス、ロンドン五輪の聖火台、上海万博の英国パビリオン、ニューヨークのリトルアイランドやヴェッセルなど、数々の独創的なプロジェクトを手掛けてきたデザイナーです。
森JPタワーのオフィスエントランスやスカイロビー、タワープラザの吹抜け空間は、アマンレジデンス東京のインテリアを手掛けたヤブ・プッシェルバーグに依頼しました。彼らはニューヨークとトロントを拠点に、世界中の著名なホテルや商業施設等のインテリアを手掛けるデザイナーです。

配置図
配置図
用途構成
用途構成

──プロジェクトはどのように遂行されたのでしょうか。

増沢氏:立場や事情の異なる約 300 人の地権者の方々と少しずつ議論を重ね、およそ35年の歳月をかけてつくりあげてきました。当然、長い年月の間には社会背景やニーズ、生活スタイルなども変化が生じます。完成ぎりぎりまで検討を続け、幾つもの調整をさせていただきました。開発コンセプトに沿った良い街づくりへ、当社が培ってきた開発での知見を全て注ぎ込んだ「ヒルズの未来形」ともいうプロジェクトです。
麻布台ヒルズはデザイナーのこだわりが詰まっています。コロナ禍で海外デザイナーとの打合せは Web 開催が多く、対面であればすぐ終わる内容もメールでは何度もやり取りが生じ苦労しました。期限が迫りタイムリーな決定が必要な時は、就寝時間帯にやり取りすることもありました。
森稔会長の思考をまとめ記した100ページの冊子があるのですが、迷ったり悩んだときに読み返しています。その中に「ひとりで実現できる夢というのは、実は大したことではない。夢が大きければ大きいほど、多くの人の知恵や協力が必要です。」という言葉があり、たくさんの企業や人が関わった今回のプロジェクトは、この言葉が正に当てはまっていると感じております。パートナーや設計者、施工者、メーカーの皆様と意思疎通を図り、デザイナー意図の具現化、性能や品質を保つディテール検討へ議論を繰り返した結果、実現、開業へ至ることができ非常に感謝しております。

森稔氏が執筆した『龍になれ、雲おのずから集まる』
森稔氏が執筆した『龍になれ、雲おのずから集まる』

外壁タイルで表現した空間づくり<ブリティッシュ・スクール・イン東京>

インターナショナルスクール「ブリティッシュ・スクール・イン東京」正面外観
インターナショナルスクール「ブリティッシュ・スクール・イン東京」正面外観

──インターナショナルスクールの外観は、ヘザウィック・スタジオによるデザインですが、麻布台ヒルズ全体においてどのような位置づけになりますか。

外観はツリー・ハウスをイメージしてデザインされた
外観はツリー・ハウスをイメージしてデザインされた

増沢氏:麻布台ヒルズの難しい立地や地形、敷地形状を克服するには、「Modern Urban Village」というコンセプトを可視化する唯一無二のデザインが不可欠であり、ヘザウィック・スタジオならばそれが実現できると考えて依頼しました。彼らが日本で初めて手掛けるプロジェクトでしたので、最初は日本の慣習や工法などを理解いただくため意見交換を重ねました。
インターナショナルスクールの外観デザインのベース・イメージは「ツリー・ハウス」です。子どもたちが緑に囲まれたツリー・ハウスで学び、遊び、成長していく。拡張した柱頂部は、木の枝が広がっていく様を表現し、広がった木の枝の上に教室やアウトドアスペースが配置されているというイメージです。柱脚部は、木の根が大地に広がるように外構床はデザインされています。
開発前は、「お子さんがいらっしゃる家族世帯が少なく寂しいと感じる」といった地元の声もありました。インターナショナルスクールができたことで、国際的な雰囲気にガラッと変わり、朝夕の登下校で送迎に来た親同士が会話を交わし、その間、子どもたちは広場でのびのびと遊ぶといった光景が見られるようになりました。
東京が熾烈な国際都市間競争を勝ち抜くためには、世界から企業や才能あるグローバルプレーヤーを惹きつける必要があり、外国人ビジネスワーカーやその家族の生活を支える 生活環境の整備が不可欠です。そのひとつとして教育環境の充実が挙げられます。

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公開日:2024年05月15日