お好み焼き住宅論 ──過渡期の今考えるこれからの住宅

家成俊勝(建築家)

『新建築住宅特集』2022年2月号 掲載

もうひとつの方法論

産業化された仕組みの中だけで生きるのではなく、ファーストワンマイルに近づき、自分が使っているものを今こそよく理解する必要がある。今多くのものが、そもそもどうやってできているか分からない。循環型といっても分からないものを分からない方法でリサイクルして、再び原料に戻して、分からない技術で再び商品にしていく。技術は私有化され閉鎖されている。私たちはそのプロセスにおいても蚊帳の外だ。働くことと使うことが貨幣経済による商品を介して分離したために、皆歩み寄れないまま、また別の商品を買い続けることとなる。最初に述べたもうひとつの建築家像の可能性を広げる方法は、まずは「物」の起源を知ると共に、自らの近くにある物を自然物、人工物を問わず転用していくことを考えることである。できればその物に対して人が加える変化を最小限に止めて組み合わせることが望ましい。使えるものはそのまま使っていく。その物は、住宅に一時的に使われた後、さらに別の住宅や用途に使用できる可能性を限りなく担保しておく。これは手に入れた物を私有化するのではなく、共有物を少しの間借りるといった感覚に近い。またその物を組み上げる技術を私有化せず、多くの人で共有でき、力を合わせて共につくることが可能であることを目指したい。そこにその住宅群の固有性や特異性は十分に浮かんでくると考える。何もすべてをこの方法でといっているのではない。現行の住宅ができ上がるプロセスと合わせて、こういった方法も同時に模索していきたい。現在流通している数多の商品も、自らその材料を理解してカスタマイズしながら使っていくことも可能であろう。
猪瀬浩平氏の「コロナの時代の野蛮人―分解の人類学に向けて」という論文(東京都立大学社会人類学会)の中に、分解概念を人文科学に導入した歴史学者の藤原辰史の言葉が出てくる。生態学の分析概念について、「ものの属性(何かに分かちがたく属していること)や機能(何らかの目的のためにふるまうこと)が最終的に使い倒され、動きの方向性が失われ、消え失せるまで、何度も味わわれ、用いられること」と説明されている。もはや私たちは使い倒す能力をすっかり失い、物の機能をひとつの目的でしか見ることができなくなっている。これも商品が、微細な差異を売りにしてさまざまなものを売りつけてきたツケが回ってきたからだ。キッチンの上を見れば、なぜこんなにもたくさんの調理道具が必要なのかと愕然とする。ファーストワンマイルまで遡ること、それは商品以前に立ち戻り、つくり手も使い手もない、地球が生み出すさまざまな物の可能性の広がりに目を向けることで、何度も使い直し、生み出された物をそのまま別のかたちで使っていくような活動を取り戻していく最初の一歩になる。
以前、琵琶湖周辺をいろいろと調べて回ったことがある。そこでは山と川と湖がつくり出す資源と人間の営みが見事に絡んでいた。養分を含んだ土が山から水によって川で運ばれる。その土は田んぼで稲を育てるのに使われる。しかし田んぼに土を入れ過ぎると土量が増えるので、田んぼの下の土を取り出す。取り出された土は瓦になる。琵琶湖湖岸に流れつく流木は大切な資材であり、競売にかけられることもあった。それらは稲を乾かす稲架はさとして利用されていたし、建築資材にも使われていた。香川県丸亀市に属する瀬戸内の島、本島の正覚院の奥の院の大引には舟の櫂がそのまま使用されている。本島を含む塩飽諸島は塩飽水軍の拠点であった。常滑では土管がそのまま擁壁として使われている。いずれも人間が加える手数がとても少ない。勝手に運ばれてくるものや、そこにあるものを誰もが分かる方法で最小限の手間で、元のかたちや性質をあまり変えずに転用を繰り返していく。現代でも古い建物を改修する際には、木材を廃材としてチップにするのではなく、そのまま転用されている例を多く見ることができる。また私が解体現場で働いていた時は、木材を捨てるとお金がかかるので釘を抜いて、刻んで風呂屋に渡していた。そのような例はたくさん見つけることができる。にもかかわらず資源はさまざまに手が加えられて、あまりにも多くの商品を生み出してきた。都市に暮らす私たちによる創意工夫からの撤退である。これからの設計者のひとつの役割は、資源にアクセスし、シンプルな方法で材料を組み合わせ、それをさまざまな目的のために自分たちで転用し、現代のつくり手がもつ技術や知識も総動員して、使い手と共に使い倒していく方法を考えたい。

土管をそのまま擁壁に用いている常滑の風景。

土管をそのまま擁壁に用いている常滑の風景。

舟の櫂を大引きとしてそのまま利用している正覚院。

舟の櫂を大引きとしてそのまま利用している正覚院。

琵琶湖に流れ着く流木。かつては稲架や建築資材として利用された。

琵琶湖に流れ着く流木。かつては稲架や建築資材として利用された。

3点提供:家成俊勝

最後に

近くに転がっていた重さ約2トンの石を基礎として施工中の「仮の家」(ドットアーキテクツ・住宅特集

近くに転がっていた重さ約2トンの石を基礎として施工中の「仮の家」(ドットアーキテクツ・住宅特集 2022年1月号)。 提供:家成俊勝

それができれば面白いことが起きる。大阪城に使われた大きな石は船でいろいろなところから来た。昆布も船で北海道から海を渡って関西に来た。昆布と石が大阪で出会った。めちゃくちゃ重い石を、人力で地面の上を運ぶのは大変なので昆布を地面に敷いて、昆布のぬめりで石を運び、使用後の昆布がもったいないから出汁にしたという嘘みたいな話。多分嘘だと思う。だが、昆布を重たいものを滑らす材料として使い、その後もったいないから出汁にしてしまう感覚、使い倒す能力はこんなユーモアを生み出す。その先にはきっと皆が知恵を出し合い、さまざまな出会いを通した楽しい出来事が待っているはずだ。
商品の組合せから、商品以前のものの組合せのために想像力を駆使し、お好み焼きのようにそれぞれの店や家のやり方で味の違いやストーリー、ユーモアを生み出す。開かれたつくるプロセスは、分断されているものを繋ぎ合わせ、私たちの手で私たちの暮らしをつくるための一歩になるのではないだろうか。お好み焼きの潜在性の②~⑤についてはいずれまた。

INAXライブミュージアム「世界のタイル博物館」6点画像提供:LIXIL

INAXライブミュージアム「世界のタイル博物館」

株式会社LIXILが運営する、土とやきものの魅力を伝える文化施設「INAXライブミュージアム」(愛知県常滑市)の一角に、タイルの魅力と歴史を紹介する「世界のタイル博物館」がある。
タイル研究家の山本正之氏が、約6,000点のタイルを1991年に常滑市に寄贈し、LIXIL (当時のINAX)が常滑市からその管理・研究と一般公開の委託を受けて、1997年に「世界のタイル博物館」が建設され、山本コレクションと館独自の資料による装飾タイルを展示している。
オリエント、イスラーム、スペイン、オランダ、イギリス、中国、日本など地域別に展示されていて、エジプトのピラミッド内部を飾った世界最古の施釉タイル、記録用としての粘土板文書、中近東のモスクを飾ったタイル、スペインのタイル絵、中国の染付磁器にあこがれたオランダタイル、古代中国の墓に用いられたやきものの柱、茶道具に転用された敷瓦など、タイルを通して人類の歴史が垣間見える。また、5,500年前のクレイペグ、4,650年前の世界最古のエジプトタイル、イスラームのドーム天井などのタイル空間を再現。タイルの美しさ、華やかさが感じられ、時間と空間を飛び越えて楽しむことができる。
この博物館でもうひとつ興味を引くのは古便器コレクションだ。木製から衛生的で耐久性のある陶磁器製に変わり、青や緑の釉薬や染付が施されたものなど、トイレを清らかな空間に設えた工夫が見られる。

イスラームのタイル張りドーム天井の再現。

イスラームのタイル張りドーム天井の再現。

メソポタミアのクレイペグによる壁空間の再現。

メソポタミアのクレイペグによる壁空間の再現。

常設展示室風景。

常設展示室風景。

古便器コレクション。

古便器コレクション。

土・どろんこ館では、やきもの用粘土を使って作る「光るどろだんご」体験教室を開催(要予約)。

土・どろんこ館では、やきもの用粘土を使って作る「光るどろだんご」体験教室を開催(要予約)。

世界のタイル博物館

所在地:愛知県常滑市奥栄町1-130
tel:0569-34-8282
営業時間:10:00 ~ 17:00(入館は16:30まで)
休廊日:水曜日(祝日の場合は開館)、年末年始
入館料: 一般700円、高・大学生500円、小・中学生250円(税込、ライブミュージアム内共通)
※その他、各種割引あり
web:https://livingculture.lixil.com/ilm/

雑誌記事転載
『住宅特集』2022年02月 掲載
https://japan-architect.co.jp/shop/jutakutokushu/jt-202202/

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公開日:2022年06月22日