住宅をエレメントから考える
建築家の夢のタイル
──新しい風景をつくるエレメントを創作せよ
平田晃久(建築家)×板坂留五(建築家)
『新建築住宅特集』2022年4月号 掲載
1未満タイル──板坂留五
絵を描く時、絵具を塗り重ねながら徐々に全体をかたちづくるように、建築も、風景の中にどうにあるべきかを都度考えながら、要素を足し引きすることで全体をかたちづくっていきたい。街の中でも、自宅の部屋の一角でも、あらゆる要素が絡み合いながらその場はできている。そのような風景の中で、全体像がすぐに想像できてしまうような唯一の方法を選ぶのではなく、いくつもの状況に対する選択の積み重ねによってまとまりをつくっていく必要がある。
タイルは、複数枚の集合として床や壁に敷き詰める建築材料であり、そのほとんどが1枚ごとにはっきりと輪郭を持ち、目地で仕切り、繰り返し並べられる。1枚の単位が覆われる面積と一致していることで、面積から必要な枚数を計算できるので、タイルの形状や柄をカタログから選ぶことがそのまま集合体の姿と直結する。それに対して、私はタイルを選んでからも試行錯誤できるよう、隙間だらけで凹凸のある、輪郭が曖昧なタイルを考えた。
このタイルは、鋳込み製法により格子状に成形し、表面に釉薬を塗布している。格子状であることで輪郭に凹凸があり、ずらして噛み合わせたり、棒を揃えて並べ一様な格子柄をつくったりなど、いくつかの並べ方がある。また、90度回転させると表面となる棒の縦横方向が変わり、光の反射によって色が変化して見える。平面展開だけでなく、格子の隙間で立体的に噛み合わせると、下地にはない出っ張りをつくったり、新たな輪郭をかたちづくることができる。さらに表裏にも凹凸があり、ずらして重ねることで格子の隙間から見える下地の面積が変わり表面に濃淡が生まれる。荷重やジョイントの検討は必要だが、色数や重ねる枚数によって面の中にムラや奥行きをつくり出せる。構造や設備など機能により設計された骨格と、そこにいる人のふるまいや周りの環境との間を、柔軟に取りもつ役割を担うだろう。
1枚のタイルがひとつの単位に満たないことで、全体のあり方を思考し続けることができると夢見て、「1未満タイル」と名付けた。このタイルでできた集合体の姿もまた、おかれた風景と共にあることでようやく満たされるのだと思う。
1未満タイル
板坂留五
- *提供:LIXILやきもの工房 特記なき提供:板坂留五
「タイル名称統一100周年記念プロジェクト」
LIXILは応援します。
1922年東京・上野で開催された「平和記念東京博覧会」において全国タイル業者大で、敷瓦・腰瓦・張付煉瓦・化粧煉瓦・タイルなどさまざまに呼ばれていた建築装飾材の名称が〈タイル〉に統一されました。今年2022年4月12日(タイルの日)に100周年を迎えます。
タイルの起源は、古代エジプトのピラミッド地下空間の装飾にあります。焼きものの持つ装飾性に加え、建物の壁や床を保護する機能性の価値も認められ建築装飾材として世界各地に広まっていきました。588年頃、仏教建築と共に伝来した瓦や塼は、中国の製造技術をもとに日本初の本格的な寺院、飛鳥寺が建立され、建材として用いられた瓦が日本におけるタイルのルーツだといわれています。その後、西洋文化が流入する明治期以降、西洋建築に用いられたタイルや煉瓦、テラコッタの建築装飾材に学び、日本独自のタイル文化が花開しました。
LIXILは、日本のタイル文化の一翼を担うものとして、先人たちに敬意を払い、 また、すべての関係者の方々への感謝を込めて、全国タイル工業組合が主催する「タイル名称統一100周年記念プロジェクト」を応援すると共に、これからもタイルの未来を考えていきます。
全国タイル工業組合「タイル名称統一100周年記念プロジェクト」サイト
https://touchthetiles.jp/
LIXILタイル名称統一100周年スペシャルサイト
https://www.lixil.co.jp/lineup/tile/designers_tile_lab/
〈展覧会〉
タイル名称統一100周年記念 巡回企画展
「日本のタイル100年――美と用のあゆみ」
会期:2022年4月9日(土)~ 8月30日(火)
会場:INAXライブミュージアム「土・どろんこ館」企画展示室
企画:INAXライブミュージアム
多治見市モザイクタイルミュージアム
江戸東京たてもの園
監修:藤森照信 (建築史家、建築家)
https://livingculture.lixil.com/ilm/
雑誌記事転載
『新建築住宅特集』2022年4月号 掲載
https://japan-architect.co.jp/shop/jutakutokushu/jt-202204/
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公開日:2022年05月25日