アニテラス×LIXIL
ペットと共生する明るい未来を志向する「アニテラス」
上島あゆみ(アニコム ホールディングス株式会社 経営企画部経営企画課係長)
後藤 晋(株式会社Shin空間 代表取締役)
田中邦義(株式会社LIXIL LHT サステナビリティ企画推進部)
三重県の伊勢市と松阪市に挟まれた位置にある多気町に、敷地面積115万㎡の巨大リゾート施設「VISON(ヴィソン)」が、2021年7月に開業。おしゃれな食と温浴施設を全国展開しているアクアイグニスをメイン事業者とする合同会社「三重故郷創生プロジェクト」が運営しています。この施設内に、ペット保険国内シェアNo.1のアニコム損害保険株式会社を中核会社とするアニコムグループが、動物の殺処分ゼロを目指すアニマルシェルター施設「ani terrace(以下、アニテラス)」を2022年5月に新規オープンさせ、暗いイメージが強かった動物の保護施設を、これまでにない明るく開放的なものにしようと挑戦しています。
コロナ禍でペット需要が高まる中、LIXILはアニコムグループと協働でペット用建材や設備を開発。ペットと快適に共生できる住環境を提案しています。ここでは「アニテラス」の構想段階から担当されているアニコムの上島氏、施設の建築工事を担当されたShin空間の後藤氏に、施設への思いと、ペットと共生する未来に向けてのお話を伺いました。
リゾート施設「VISON」に誕生したアニマルシェルター施設「アニテラス」
田中:
皆さま、本日はお集りいただきましてありがとうございます。
アニコムさんのアニマルシェルター施設「アニテラス」のコンセプトやその活動に共感し、LIXILでもペット関連の商品を多数持っていることから、約2年前よりこのプロジェクトに参加させていただいております。今回、施設に提供させていただいた商品は、防音・断熱内窓の「インプラス」、キャットウォール「猫壁(にゃんぺき)」、スマホや音声で住宅設備・家電をコントロールする「ライフアシスト2」、消臭・抗菌効果もあるアロマエアーディフューザー「SEAROMA(シローマ)」の4点です。
「アニテラス」を企画されたアニコムの上島さま、建築工事を担当された後藤さまに、施設のコンセプトやポイント、さらには今後の活動の展開などもお聞かせいただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
上島氏:
アニコムは、“涙”を減らし、“笑顔”を生みだす予防型保険会社グループを目指して2000年に設立されました。ペット保険を中心に、人と動物が共生するうえで必要となるさまざまな支援をペットのライフステージの川上から川下にわたって行っています。創業当時は、日本にペット保険はまだ確立しているとは言えませんでしたが、創業者であり、現在もグループトップである小森伸昭が会社を立ち上げ、この20年間で普及に努めてきました。“ペットは家族”という思いから、その後、動物病院支援事業、動物医療の臨床・研究、ブリーダーマッチングサイトなど、ペット関連サービスを行う子会社5社を率いるアニコム ホールディングス株式会社として2010年に東証マザーズに上場し、2014年には東証1部へ市場を変え、今日に至っております。
日本において動物の保護施設というのは暗いイメージがあるかと思いますが、ヨーロッパではペットはまさに家族の一員であり、保護施設はとても明るく、温かいイメージです。そうした明るい動物保護施設を構想していたところ、3年前に三重県のリゾート施設「VISON」からお話をいただき、検討を進めてきた結果、ついに実現することになりました。VISONのメイン事業者であるアクアイグニス代表がもともと動物好きで、猫の保護活動もされていたこともあり、VISONにも動物のための施設をつくりたいという思いがあったと伺っています。
この「アニテラス」は、飼い主がいない犬や猫を保護し、新しい飼い主さんにつなげることを目的としています。2020年2月には三重県と「動物愛護推進等の事業に関する連携協定書」を締結しており、最初は三重県で保護された犬や猫を中心にお預かりしていく予定です。「アニテラス」という名前は、「命(アニ)を照らす(テラス)場所」という思いを込めて名付けました。私たち人間と暮らすペットは大切な家族の一員であり、日々の活力を与えてくれる、いわば心の発電所のような存在だと思っています。一方で、日本では飼い主がいない犬や猫がまだまだ殺処分されているという課題もあります。そこでアニコムは、動物と関わる企業として、殺処分という社会課題を解決すべく、「アニテラス」の建設・運営を決めました。
リゾート施設内での展開となるため、明るく身近で親しみが持てる施設にしたい。動物好きな方だけではなく、元々ペットに興味がなかった方でも、たまたま「アニテラス」を訪れて、保護猫、保護犬のことを知っていただける場所になればと思っています。また、既にペットと暮らしている方にも喜んでもらえるよう、ペットホテルやドックランを併設する予定です。「アニテラス」は動物の殺処分をなくしていくというアニコムグループの社会貢献の一環として運営していくものですが、事業継続の観点からも、ペットホテルなどを活用して得た収益を、運営費用に充てる仕組みを検討しています。アニコムグループとしてもこの規模のアニマルシェルター施設を直接運営するのは初めてですので、さまざまなことに挑戦し、ここでの体験をしっかり次の活動につなげていきたいと思っています。
「アニテラス」施設について
上島氏:
「アニテラス」の敷地面積は約3,000㎡、建物の延べ床面積は約500㎡です。施設内には最大で猫30頭、犬15頭程度が収容できます。動物たちが閉じ込められているようにはしたくないので、フリーエリアを設け、自由に放すなどして、来訪者の方々と触れ合えるような空間もつくりました。実際に触れ合うことで相性が合うかどうかもわかりますからね。一方で、それぞれの居場所があるほうが安心して休めるため、夜の間はケージの中で就寝します。夜間も施設の温度管理などはLIXILのライフアシスト2を使って24時間行いますので、安心です。私たちはしつけも行いながら新しい飼い主への譲渡を目指しているので、屋外に設置したドッグラン等も積極的に活用していく予定です。
後藤氏:
このプロジェクトに参加させていただいたきっかけは、隣の農園・レストラン「NOUNIYELL(ノウニエール)」のデザインをプロデュースされたアポロ&チャーのデザイナー・川村明子さんが「アニテラス」のデザイン監修もされるということで紹介を受け、施工をお引き受けしたという経緯です。上島さんからも、動物の保護施設の暗いイメージを払拭する明るい雰囲気にしたいというご要望がありましたが、川村さんのデザインはその期待に十分応えるものになっていると思います。家具類が搬入されれば、さらに明るくなると思います。
ペットを飼う場合によく問題になるのは、ペットの臭い、吠え声、建物への傷などがあります。建材についてはアニコムの上島さんがよく勉強されていて、床、壁など材料について具体的な要望が出されたので、それを踏まえて素材を選定しました。例えば床材には耐久性・耐水性のある長尺シートを使い、壁面と接するところはアールをつけて床材を15㎝立ち上げました。ワンちゃん、猫ちゃんがおしっこをしても角に溜まらず掃除をしやすくするためです。
また私の事務所(愛知県)では、これまでLIXILさんのスーパーウォール工法※1を採用した高気密・高断熱の住宅を数多く手掛けておりますが、この工法は、防音性能も高く、ペットの吠える声が外に漏れにくいので、ペットを飼っている方にも大変喜ばれています。「アニテラス」では、スーパーウォール工法に加え、防音のために内窓インプラス※2も採用しました。内窓は、窓の結露や断熱・気密を高めるためリフォーム時に入れることが多いですが、ペットを飼っている施主さまに防音対策としてもお勧めできる商品です。アルミに比べて熱を伝えにくい樹脂でできた内窓ですから、サッシ自体の結露もありません。結露は放っておくとカビやダニが繁殖し、人だけでなくペットにもよくない環境になりますからね。 オープンして運営が始まっても、建築的に修正したいところが出てくるでしょうから、末永くお付き合いしていく予定です。
「アニテラス」の経験を今後どう活かしていくか
後藤氏:
スーパーウォール工法は防音性がありますし、排気と吸気のバランスをとった計画換気をしているのでとても助かります。私はカメを飼っていて、結構臭いがするのですが、この計画換気でだいぶ軽減されています。 「猫壁(にゃんぺき)」は半日の工事で取り付けできるので、猫を飼っている人には使いやすい商材だと思います。それ以外にも猫用の小さい出入口のついたドアや網戸など、ペットにやさしい商材はたくさんあるので、今後はお客様に提案していきたいですね。とにかくペット需要は高まっているので、お客さまからの相談も増えていくと思っています。
上島氏:
VISONの「アニテラス」を建てる際に、後藤さんにはいろいろリクエストを聞いていただきましたが、実際に運営していくなかでさまざまな改善ポイントが出てくると思います。今後、次の施設を建設・運営する際には、その経験を活かした作りにしていきたいと思っています。動物の保護施設からは少し離れますが、東京都中野区にアニコム損保が建設し、2021年3月にオープンしたペット共生型賃貸住宅「アニコフローラ東中野」では、10世帯のうち一部の住戸に「猫壁(にゃんぺき)」を入れていますが、これがあるから入居を決めたというお客さまもいらっしゃいました。こうしたペット共生賃貸住宅はこれからさらに手掛けていきたいと思っていますので、「アニテラス」での経験は大いに役立つと思っています。
田中:
いま上島さまからお話がありましたペット共生マンションは、通常のマンションに比べて若干家賃が高くても、入居率、稼働率が高いと言われていますね。後藤さまからもスーパーウォール工法がペット共生住宅においても有効であるとのお話をいただきました。こうした商材はペットを飼われている方のリフォームを促すことにもつながると思っています。LIXILとしても、「アニテラス」の経験を踏まえて、新しい商品開発につなげていきたいですね。
アニコムさんは『家庭どうぶつ白書』を毎年発行されていて、そこにはワンちゃん、猫ちゃんにはどういった病気が多いのか、保険の請求が多いのはどういうケースかなどといったデータが掲載されています。ワンちゃんは暑さに弱く、夏は皮膚系の疾患が多い。寒さに弱い猫ちゃんは、冬にあまり水分を取らなくなるから泌尿器系の疾患が多くなる。温度変化が動物にもかなりのダメージを与えていることがこれらのデータから見えてきます。快適な住空間に整えることは、ペットの病気予防の観点からも重要だとわかりました。できれば住空間とペットの病気についてアニコムさんと一緒に研究していきたいと思っています。また、スーパーウォール工法の事例を通して、室内環境の温度管理やペットへの影響などを、後藤さまたちと共に引き続き勉強しながら、普及活動も併せて行っていければと思っております。
LIXILが掲げる企業のパーパス
田中:
LIXILでは製品開発をする際、企業の社会における“存在意義=Purpose(パーパス)”を考慮しています。これは「世界中の誰もが願う、豊かで快適な住まいの実現」です。これまでも人を中心とした健康で安全な商品開発をしてきましたが、同時に、ペットにもよい商品をたくさん開発していました。ですが一般ユーザーの皆さまにうまく伝えられていなかったと思っています。社内にはペットを飼っている社員も多く、ペットのための建材をもっと開発していきたいと思うメンバーもたくさんいたのですが、事業部を超えて一つにまとまって取り組むことはこれまでありませんでした。
今回の「アニテラス」という具体的なプロジェクトへの参加をきっかけに、「人とペットが共生できる幸せな暮らし」の実現というビジョンを掲げ、各事業部の有志を募り始めました。さっそく賛同してくれた事業部から今回の商品を提供させていただきましたが、今後はさらに多様な商品でお応えできるようにしたいと思っております。
アニマルシェルター施設「アニテラス」の存在とともに、殺処分の実態を知っていただくことも重要です。その先にはペットと人が共生できる住まいづくりをお手伝いしていきたいと思っています。
【アニテラス データ】
所在地 | 三重県多気郡多気町ヴィソン672番1 農園3 |
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事業主 | アニコム先進医療研究所株式会社 |
デザイン・設計 | アポロ&チャーカンパニー、Shin空間、GREENデザイン設計 |
施工 | Shin空間 |
階数 | 地上1階 |
敷地面積 | 2,990.52㎡ |
延床面積(テラス含む) | 491.89㎡ |
構造 | 木造軸組み |
用途 | アニマルシェルター |
竣工 | 2022年3月 |
LIXIL使用商品 | アロマエアーディフューザー「SEAROMA(シローマ)」、内窓「インプラス」、キャットウォール「猫壁(にゃんぺき)」、スマホや音声で住宅設備・家電をコントロールする「ライフアシスト2」 |
取材・文/フォンテルノ 撮影(特記以外)/シヲバラタク
以下商品リンク
スーパーウォール工法:https://www.lixil.co.jp/lineup/construction_method/sw/
インプラス:https://www.lixil.co.jp/lineup/window/inplus/
猫壁:https://www.lixil.co.jp/lineup/s/catwall/
ライフアシスト2:https://www.lixil.co.jp/lineup/smarthome/lifeassist2/
アロマティックエアディフューザー:https://parts.lixil.co.jp/lixilps/shop/campaign/searoma-top/
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公開日:2022年04月20日