商業施設から住宅まで、幅広く活躍するデザイナーに聞く空間づくりメソッド
LIXILオンラインセミナーレポート「人とともに、長くあり続ける空間づくり」
―CREATORS LAB デザイナー インタビュー3
高橋紀人(Jamo associates)
2021年2月5日(金)、昨年末に公開された「CREATORS LAB」でデザイン・スタイリングを担当した高橋紀人氏(Jamo associates)を講師に迎え、オンラインセミナーが開催されました。当日は「商業施設から住宅までの空間づくりメソッド/人とともに、長くあり続ける空間づくり」と題して、3つのパートからレクチャー構成。600名以上の聴講者を集めたセミナーは示唆に富んだ有益な知識と経験をシェアする場となり、多くの参加者から高い評価をいただきました。
高橋紀人(Norito Takahashi)
1996年、デザイン専門学校を卒業後「EXIT metal work supply」の立ち上げに参加。2000年、インテリア・スタイリスト神林千夏と共にJamo associatesを設立。アパレル空間、飲食店、ホテル、住空間と多岐に広がる分野で独創のデザインを作り続けている。
セミナーでは会社概要と数多くの設計実績の紹介に続き、高橋氏が手掛けてきた案件を学習事例に、Jamo associatesのプロジェクトで様々に活用される「6つのデザインの進め方」について話していただきました。
いかにデザインを進めるか
高橋紀人(以下高橋):
「そもそもデザイン作業に取り掛かる際、いきなり白紙の状態からつくるのは難しいものです。フリーに何をつくってもいいと言われても困ってしまいますよね。そんなときに私たちはこれからご紹介する6つほどの手法を用います。」
様式を定める
高橋:
「まずはじめは様式です。いちばんオーソドックスなやり方ですから、みなさんも試されているかと思います。【A】は2008年に手掛けたアパレルショップですが、こちらはモロッコスタイルを追求しました。お客様とイメージが共有できないとき、明快な様式をグリップさえできれば、キーワードをたどりながら書籍や検索エンジンで画像などを収集することができます。集めた情報からは建具の寸法なども解析しながら細かく忠実に作り上げられると思います。【B】はセレクトショップです。店内にはティピなども配置していますが、こちらはお客様から先に提示されたサンタフェスタイルの方向性をもとにつくり上げました。この手法を用いる際の注意点は、たくさん選んだ参考写真から2~3枚に絞るということです。それを徹底的に見続け、解析していきます。」
何かに見立てる
高橋:
「次に見立てです。これもよく使う手法です。【C】は2015年にデザインしたアパレルショップです。グレイッシュな空間で、天井には木製のルーバーが並んでいます。比較的シンプルにまとめていますが、こちらは店名から“猿山”“動物園”といったキーになるワードを導いて、ショップの全体へと展開しました。天井のルーバーには意味があって、そこに猿が雲梯のようにぶら下がって遊ぶシーンを想像して採り入れたものです。ピックアップした猿山の写真はカラーチャートとしても使いました。モルタルで固めた人工的な色味、形状などをショップの中に反映させています。同様に海外の動物園のサインなどもデザインに応用したりしています。
【D】はセレクトショップ。蛍光灯が並ぶ明るく白い空間です。スッキリしていてさわやか。でもトンガッている。オーナー様から事前に入店しやすく圧倒的に明るい店、という要望がありました。そこで入店しやすさ→親しみやすさ、夜も圧倒的に明るい街なかでフレンドリーな存在という連想からコンビニに見立て、これをアパレルに変換するという作業を行いました。」
ストーリーを描く
高橋:
「【E】はニューヨークのデザイナーの単独路面店です。自分自身はスタンダードなデザインを好みますが、これは壁面に象徴的な穴が空いたアートな空間になりました。この案件では事前にデザイナーとのミーティング時に“ロマンティック”というワードを頂き、簡易なポエムのような物語【F】をつくりました。そのテーマが“in the water”というタイトルで、この文章を立体化していくという作業を行いました。従来の手法と違うのは言葉化したものにどんどん色をつけていくような作業の事例です。実際には海の中の気泡をイメージしたものを壁に採用しました。床は波が打ち寄せる砂浜を思い描き、矢羽貼りを使いながら歩行方向に対して濃くなるような仕上げになっています。他には宝石箱をイメージしたミラーの什器台、様々な面材を使ったフィッティングルームなど、物語の中のワードを膨らませ、立体化して表現しました。このようにビジュアル情報から引っ張られることなく、言葉からインスピレーションを得る手法は自分的にも気に入っていて、自由な発想に繋がりおもしろいものが生み出せると思っています。」
Wikipediaを利用する
高橋:
「【G】は仙台市にある複合ビル上層階の環境デザインのプロジェクトです。吹き抜け部やエスカレーターまわりのデザインですね。近年、地方と東京の温度差がなくデザインのトーンが似通っているなと感じていました。地域・地方に準じたデザインが必要ではないかと。それでまず仙台市を知るためにWikipediaで調べてみました。いろいろと掘り下げるうちにこれはデザインとして採り入れられそうだなと思ったのが、市の木として定められたケヤキでした。これを利用して空間化を進められないかと取り組み、ケヤキの木肌のイメージを柱に、天井面の切込みはケヤキの葉や葉脈からデザイン化しました。こうしたFactを見つけることは、なぜこうなったのか、という説明が誰に対してもでき、説得につながると思います。」
Google Mapを利用する
高橋:
「最近比較的よく使うのがGoogle Mapを利用するというやり方です。立地のことを考えつつ、自分自身あまり奇抜なものをつくりたくないという信条があって、エリアにスッとなじむものをつくりたいとき、この手法をよく採り入れます。たとえば海沿いにつくるホテルプロジェクトの場合、現地のビューをキャプチャーして色をスポイトツールで拾い、カラーチャートを作成。それらを全体のトーンとして散りばめていきます。さらに近隣の波、ヨット、山などには共通して三角の形状が多いことを発見し、簡略化したパターンなどを使ってパースを作成します。フローリングにその三角形のパターンを使ったり、壁もカマボコタイル的なものを使って波をイメージ、ソファも貼り地で海のブルーを表現するなど、デザインに展開。これらがGoogle Mapで切り取った近隣の景色とリンクすることを目指します。」
立地・環境・店名からアクセントを得る
高橋:
「最後に、ユーモアを含んだデザインアイデアの事例を紹介します。2013年に品川にある商業ビルの環境デザイン【H】を担当させていただきました。ニューヨークスタイルでというお話が事前にありましたのでその様式を丁寧に表現。ただ、少し物足りないかなという思いからユーモアを取り込みたいなと考え、モザイクタイルに“品川”の文字を隠れキャラ的に入れ込みました。同様にネーミングからのインスピレーションとして【I】のカフェでは、普段ペンダントライトなどを選ぶ際に苦労するケースがあることも踏まえ、二子玉川に立地することから“ニコタマ”→“ふたつの玉”とダジャレ的な発想で2つの球体をデザイン化したライトを開発。他地域との差別化、この店舗のオリジナリティの表現に役立ったと思います。こういうアイデアは商空間に限らず、住宅などでも使えるのではないでしょうか。
以上6つの手法をご紹介しましたが、もちろんクライアント様の与件ありきということは言うまでもありません。オリエンテーションをしっかり理解した上で、今回はどの手法が機能するかを見定める必要があります。」
セミナーの最後のパートでは「CREATORS LAB」で高橋氏がデザインされた2つのプランについて、長く愛される空間のあり方など基本的な考え方や、コロナ対応のために工夫した部分、こだわったディテールやLIXIL製品選定のポイントなどを細かく語っていただきました。その内容は「CREATORS LAB」の特設サイトや、当サイトのコラムなどでも読むことができますので、ここではあえて割愛させていただきます。商空間はもちろんですが住空間においても、高橋氏の独創的なアイデアが皆様のお役に立つことを心から願っています。
Jamo associates 高橋氏がデザインした2つのプラン詳細はこちらから!
戸建住宅をデザイナーズ・リノベーション!
LIXILと注目の空間デザイナーとのコラボ実現。センスを凝縮した空間コーディネートをぜひ住まいづくりにお役立てください。
https://www.lixil.co.jp/reform/creatorslab/
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公開日:2021年03月15日