商業施設から住宅まで、幅広く活躍するデザイナーに聞く空間づくりメソッド
新しい時代に考えた、2つの新しい住まいの在り方
―CREATORS LAB デザイナー インタビュー2
高橋紀人(Jamo associates)
1980年代に建てられた中古住宅をLIXILの建材を使ってリノベーション・・・。デザインを担当するJamo associatesには名だたる実績を誇る商空間づくりでの実力を生かしていただくべく、「ホテルスタイル」「カフェスタイル」のふたつのテーマでのデザイン開発を依頼しました。「人とともに、長く在り続ける空間づくり」を信条とするJamo associates代表の高橋紀人さんに、このリノベーションプランの概要を語っていただきました。
高橋紀人(Norito Takahashi)
1996年、デザイン専門学校を卒業後「EXIT metal work supply」の立ち上げに参加。2000年、インテリア・スタイリスト神林千夏と共にJamo associatesを設立。アパレル空間、飲食店、ホテル、住空間と多岐に広がる分野で独創のデザインを作り続けている。
ホテルスタイルは「ほどよく整理された現実的な非現実」を表現。
──ホテルスタイル、カフェスタイル、それぞれのテーマにどのように取り組まれましたか?
「はじめにホテルスタイルから考え始めました。ホテルはそもそもデザイナーズホテル、ラグジュアリーホテルなどの「非現実的な」空間としてのあり方の流れがありました。ものすごく整理整頓されたつくりこみの世界で、とてつもない非現実的なサービスが受けられる場所。一方で、近年それとは違う流れ、サードプレイスとして使われるような、生活との中間地点のようなホテルが生まれていて、それを私自身おもしろいなと感じていました。言葉にすると「ほどよく整理された現実的な非現実」。今回、そんな空間を住宅として表現したいと考えました。
生活する場所だけど所帯じみていない。ちょっとだけ上質。人を呼べて、生活感をしまい込める部屋。なので納戸の面積比率を上げた空間を用意することからホテル案の計画は始まりました。ラグジュアリーに届きそうで届かないくらいのバランスを狙ったのがホテルのプランです。今回のプランでは細かいペルソナは設定しませんでしたが、ざっくりと夫婦と子供ふたりの4人家族が暮らす住まいとして想定しています。カラーの全体的なトーンはグレイッシュ。アクセントとしてウォルナットを差し込みました。沈んだ、重みのあるトーンの色味で、飽きのこないデザイン。大人っぽく、落ち着いたコンテンポラリーな空間を目指しました。」
「普遍で不変」を目指したカフェスタイル。
「カフェスタイルは夫婦と子供ひとりの3人家族の想定。最近の料理ブームも背景にありますが、こちらの案では料理する奥様を主役にしたプランをイメージしました。意匠的には「普遍で不変」。オーソドックスなスタイルでデザインしようというのが最初のヒラメキでした。スタンダードなんだけど、気が利いているという。」
──具体的にどんなイメージだったのですか?
「吹き抜けのある開放的な空間で、真ん中にキッチンがある。キッチンは庭を向いていて、料理しているママからは自然光があふれるガーデンが一望できます。家族はそんなママを見ながら食事をする。まさにセンターポジションにママがいるという空間です。直感的に使いたいと思ったのは、長く飽きない素材=オーク材でした。ヨーロッパ・アメリカ、アジア、世界各国でスタンダードに使われています。特別ではないけれど一番愛せる素材じゃないでしょうか。トレンドに支配されないカジュアルな白木調をイメージしました。」
ニューノーマルの時代の家のあり方とは?
──2020年は新型コロナウイルスの影響で生活スタイルが大きく変化しました。住宅のデザインにおいて留意されたことはありますか?
「もちろんあります。withコロナの新時代を考えるとウイルスを家に持ち込まないようしっかりと配慮しなければなりません。なので今回の2つのプランとも玄関に手洗器を設けました。家の入口でまずしっかり手を洗ってウイルスの対策をしようという工夫です。ちなみにカフェスタイルでママ中心のキッチンに重点を置いたのも、じつは、ニューノーマル時代へのひとつの答だと思っています。今年は自分自身も外出を控え、家で過ごすことが多かった。外食することもなんとなく躊躇われるような風潮の中、自宅なら人と会うのも安心できるのではないかと考えました。なのでカフェスタイルは一般的な住宅よりリビング・ダイニングの座席数を増やし、たくさんの人を呼べる家にしました。キッチンからベンチシートが伸びて、ダイニングテーブルが置かれる。ベンチシートは詰めれば座席も多く取ることができます。スツールも2脚くらい置けますから、人数もさらに増やせます。十数人まで対応できるママ会のような集まりができるのです。さらにテラス席も2箇所。おうちでパーティーだってできる。もちろんママだけでなく、パパも子供も友人知人をたくさん呼んで楽しむことができます。」
ロースタイルで実現するストレスのない家時間
──テレワークの導入が進み、自宅で仕事をする人も増えてきましたね
「そのあたりを反映させたのがホテルスタイルのプランです。着目したのはダイニングとの段差を設けたリビング。巣のように籠もるイメージも演出しつつ、自由に姿勢を変えて過ごせるロースタイルソファを配置しました。オフィスではデスクに座って固定的な姿勢で仕事をしなければなりませんが、家ではどんな姿勢で仕事をしても構わない。ときには寝転がったり、うつ伏せになったり。いろんな姿勢になれるほうがリラックスできてストレスにならないと思いました。最近、国際的な家具メーカーが発表した研究でも、今後の働き方としてソファワーカーが増えると指摘しています。ホテルのラウンジでノートパソコンを広げている光景をよく目にしますよね。もはや430のシートハイに730のテーブルだけがワークステージじゃないということです。そもそも日本人は低いスタイルで暮らしていたのですから、親和性も高いはず。そう考えるとロースタイルソファはコロナの時代の生活において、スマートに適応したアイデアということができるかと思います。」
抑揚をつけたガーデンエリア
──お庭についてはいかがですか?
「ガーデンテラスはカフェスタイル、ホテルスタイルどちらも抑揚がついてシーンがいくつか作られることをイメージしました。カフェスタイルのテラスは単調にならないよう床のカタチ、床材の組み方を工夫しています。みんなで集まるゾーン、2人で語り合うゾーン、1人でベンチに座るようなゾーン、と3つのゾーニングを意識しました。ホテルスタイルの床はタイルです。アプローチする部分はデッキDSを採用。タイル部分が縁側的に使えて、座って落ち着けるだろうなと考えました。また、子供が遊んで汚れたりしたとき、あるいは海の近くにこの家があるとして、サーフィンなど海遊びのあとで使えるように、ガーデンシャワーも設けています。人を沢山招くことができるカフェスタイル。プライベートな感覚を重視したホテルスタイル。ともに外部からの視線を遮る機能を持った植栽と調和する空間にしたいと考えました。」
室内窓で開放感をさらに演出
「カフェスタイルの2階は広くはありませんが、書斎スペースを設けています。家で仕事するとき、電話やリモートでのミーティングの際、子供の声や生活音を遮断したいと考えました。その書斎を吹き抜けの横にレイアウトしたのですが、窮屈さを解消するために造作の室内窓を設置しました。吹き抜けの下から見上げると開放感もさらに増すと思います。ホテルタイプでは寝室にシャワールームを設け、ベッドの裏側にウォークイン・クローゼットを作ったのが特長です。」
高橋流発想法とは?
──ホテルスタイル、カフェスタイル、どちらもとても魅力的なプランですね。このようなプラン、高橋さんはいったいどのように発想しておられるのか興味が湧きます。
「私の場合、竣工写真をイメージすることが多いですね。とにかくカッコいいものが好きで、乱暴に聞こえるかもしれませんが、カッコよければ機能的に少し足らなくても、問題ないだろうと思っています。人間は元来順応する機能があると。自分自身も高身長ですが、シートハイ430になんとか座っていられる。慣れるわけです。一方でカッコ悪い洋服を着ていると1日モヤモヤする自分がいます。気分がアガらない。じつはそのことがよほど問題なのではないかと個人的に思うのです。ですから空間を考える際も、竣工写真を撮る時カメラマンが切り取るベストな構図はどこだろうと考えます。そうやって見つけたいちばんカッコいいと思う構図からパースにしていきます。あるいはそのイメージを伝えられる写真などで確認してみます。それをチョイスできたら、あとはオペレーションに広げていくという順番です。平面図を広げて玄関から歩きながら見える光景を空想します。たとえばホテルスタイルでは、ロースタイルソファのあるリビングと、キッチンのバーカウンターのシーンはビジュアルが見えていました。というようにメインとなるポイントを絞ってそこから動きの中で必要な機能を考えていきます。」
“ないものはない”リクシル製品群からチョイスするために
──そして今回のプロジェクトでは随所にリクシル製品を活かしてのデザインワークとなりました。
「とにかく”ないものはない”といってもいいくらいの豊富な製品群。なのでなるべく近しいモノを整理整頓することを心がけました。魅力的なプロダクトが多いので、これイイなとピックアップしたくもなりましたが、そうすると統一がとれずバラバラになってしまいます。ホテルスタイルもカフェスタイルも、オーセンティックでスタンダードなものというコンセプトやテーマは決まっていたわけですから、それを守りながら共通項を見つけていきました。結果的にはシャープでシンプルなデザインをピックアップすることが多くなったように思います。扉でいえば天井までの高さがあるラフィスのハイドアとか、サッシならインプラス for Renovationのようなできるだけすっきりしたデザインのものだとか。尖りすぎず、流行に左右されないものを選べたと思います。
今回、製品をピックアップするために様々な部署の方とお話させていただきました。Z00M越しで直接お会いできなかった方もいらっしゃってその点は残念だったのですが、お話を伺うごとに開発技術の凄さには本当に圧倒されました。一つひとつのプロダクトがここまで突き詰めて考えられているのかと強く実感できて、本当にいい勉強になりました。」
空間は人やインテリアを引き立てるギャラリー
──ありがとうございます。最後に改めて新しい時代の空間デザインに対する考え方を聞かせてください。
「これからの空間は、極端に言えばギャラリーのような空間であればいいと思います。ギャラリーの空間は展示する作品を映えさせます。違う作品が展示されても、また同様に映えさせる。2020年という時代において、ハコ(家)ってそういう役割、ポジションなのではないかと思うのです。インテリアをソフトとすると、最近では輸入家具のショップも増えてきたり、雑貨屋さんも充実したり、そのソフトを入れ替えることはとても容易な時代ですよね。子供の成長、自分の変化・・・ソフトを変えていけば十分に楽しめる。それに対応できるようなハコ=空間。行き着くとまるっきり白いハコに近いものを作りたくなっていて、白い良質なハコと上質な照明さえあれば意外と何を置いても絵になると思っています。たとえばハイライトのタバコを白いギャリーのテーブルの上に置いただけでアートになる。だからこそ空間の骨格だけはしっかりつくる。なるべく普遍で不変、長く使われて愛される、丈夫なものをつくりたい。デザインワークとしてはストイックですよね。でもそのほうがエレガントじゃないですか。この時代にふさわしい上品、上質じゃないかなと思うんですよね。」
(次回は高橋紀人さんを講師に迎えたセミナーを再録してお届けします。どうぞご期待ください。)
Jamo associatesがデザインした「ホテルスタイル」「カフェスタイル」詳細はこちらから!
戸建住宅をデザイナーズ・リノベーション!
LIXILと注目の空間デザイナーとのコラボ実現。センスを凝縮した空間コーディネートをぜひ住まいづくりにお役立てください。
https://www.lixil.co.jp/reform/creatorslab/
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公開日:2020年12月14日