DTL建築セミナー 空間・素材・建築 ―令和時代の建築作法

第3回「伝統・継承・創造」

宍道弘志(建築家、坂倉建築研究所)

イメージの継承と元価値の復原

「伝統・継承・創造ー外装タイルとデザイン」をテーマに、大阪市中央公会堂や神奈川県庁本庁舎などの保全・改修事例を実際の現場写真を見せていただきながら技術的なお話を中心とし、海外作品も紹介していただきました。
紹介がありました大阪市中央公会堂を初めとする歴史的価値のある建造物の改修に共通して、「イメージを継承する」という考えがありました。建築が生まれた時からこれまで、設えを変え、機能を変え付加価値を与えられながら保存されてきた建築に対し、竣工当時のわずかな写真や図面を元に空間からインテリアまで当時のイメージに忠実かつ丁寧に復原することを徹底しておられました。このことから“変化”ではなく、“復原”という改修手法によって「新たな価値<建築の元価値」を重要としているように感じ、それは「イメージの継承=歴史に対する敬意」とも捉えられました。また外観の伝統的なイメージを保つために、大きな役割を担っていたのはタイルという素材の多様性、柔軟性、耐久性にあったのではないでしょうか。
講演を通し、建築がまるで形や素材を変えながら、時代に合ったアイテムに変化し、80年代流行したモノが現在再び流行するといったサイクルを持つファッションのように感覚的に置き換えられ、改修によって建築が自由を獲得しているように感じました。保存されていく建築の価値を再考するきっかけとなり、また実務を始めてままならない私には素材やテクニカルなお話はとても勉強になりました。

足立 明日香

足立 明日香(あだち・あすか)

株式会社遠藤剛生建築設計事務所
2019年 神戸芸術工科大学環境デザイン学科卒/ 2019年 株式会社遠藤剛生建築設計事務所入社

建築と出会う

ずいぶん昔の話しであるが、高校進学を決めるため、ある学校を訪れた。
正門に入ると校舎の2階へと続く大きなスロープ。校舎を取り囲む柔らかな曲線を描く芝生の築山。3棟の校舎を繋いでいるのは、2階からの幅の広い渡り廊下。教室の両側には壁がなく、天井近くまであるガラスのハイサッシで、バルコニーで繋がっている。体育館はバタフライルーフでガラス貼の壁。
単純な四角の箱が並ぶ学校とはまったく違っていた。自分の新しい世界はここから始まるように思えたのだ。
ここへ通うと即決し、3年間過ごした。そこには、建築など何も分からない15歳の私をそのように思わせるものがあった。この高校を設計したのが、坂倉準三建築研究所である。これが建築との最初の出会いである。
新設の府立の公立高校が建築家により設計された経緯は、大阪にひとつユニークな高校をつくりたい念願からによること、先生方も役所等の関係者との様々な折衝、努力と苦労があったということを聞いた。クラスタープランの近代建築の新しい高校をつくるのは、それぞれが大きな挑戦だったようだ。
資料によると、西沢文隆氏が建築から備品・庭園まで心血を注いで努力されたとの校長の言葉がある。若き日の東孝光氏も関わっていた。
その時生まれた学校への思いと誇りは、多くの人を動かし、浸透し、その後も間違いなく受け継がれた。
何年か前、久しぶりに訪れる機会があった。体育館は姿を消し、特徴的なスチールサッシも変わり、ずいぶん印象が変わり、寂しさと複雑な思いを感じた。
今日の話の中で建築の保存・改修について考えた時、歴史的な建築は、ある程度残る可能性はあるが、近代建築はそれに比べ、厳しいように思う。その重要性と価値、思い、どのように保存、改修し、利用するかについては、より多くの人を巻き込んでいく語り部が必要だ。改めて建築家の果たす役割を考えさせられた。

池田 俊子(いけだ・しゅんこ)

MANA 建築設計研究所

保全・改修に対する姿勢

「伝統・継承・創造」のテーマのもと、1900年代前半に建てられたレンガ造の建築物の保全・改修プロジェクトを中心とした講演内容。100年近く残る建築物と、それら伝統を後世に継承していくために尽力する人々のエネルギーに圧倒される講演でした。
歴史的価値を有する外装及び内装を保全するために建築物を地下から杭で持ち上げて免震構造を挿入するとともに、内部の見えない部分で耐震補強を行い、失われた部分は写真や図面から詳細に復原する徹底ぶり。当時のままの完全な状態で継承していこうとする一貫した姿勢に執念に似たものさえ感じました。過去に対する敬意や情熱によって実現し得るのだろうと感服いたしました。
地下や内部から加えた補修及び補強部分を見る者に悟らせない、まるで100年前から当時のまま建ち続けていたように改修する流儀が表れており、社会の流れに対する建築と人の抵抗あるいは挑戦がそこにはあるのではないかと感じました。

土居 和樹

土居 和樹(どい・かずき)

株式会社遠藤剛生建築設計事務所
1994年 大阪府生まれ/ 2019年 大阪市立大学大学院工学研究科都市系専攻修士課程修了/ 2019年 株式会社遠藤剛生建築設計事務所入社

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公開日:2019年12月25日