最新の社会情勢から少し先の暮らしを考える
ライフスタイルと住まいのトレンド予測
エクスクリエ×SOCIALING LAB×LIXIL
変化が激しく予測が難しい”VUCA”の時代には、環境の変化に迅速かつ柔軟に対応することが重要です。本レポートは、多角的な視点とデータを用いて、未来のライフスタイルや住まいのトレンドを予測します。新しい視点や実用的な知見を得て、未来の変化に備え、時代をリードする洞察を手に入れていただければ幸いです。
VUCAの時代に求められること
VUCA(ブーカ)とは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った言葉で、急激な変化と予測困難な状況を意味します。このVUCAの時代を乗り越えるためには、以下の3つのスキルが必要です。
1.明確なビジョン
激変する環境に対応しなければならない時に対症療法的な対応になりがちですが、明確なビジョンを持つことで、一貫性のある対応策を打ち出すことができます。
2.変化を恐れないマインドセット
従来のやり方が通用しないケースが増えることが予想されます。新しいことを肯定的に受け入れ、チャレンジするマインドセットが求められます。
3.情報収集と継続的な学習
急激な変化を捉えるためには、情報収集や学習が欠かせません。変化は連鎖するため、常にウォッチし続けることが重要です。
9つのトレンドテーマ
2023年度下期のトレンドを9つのテーマに分類しました。それぞれのテーマについて解説していきます。
1.気候変動の影響と脱炭素社会への準備が進む
2023年は世界各地で平均気温が過去最高を更新し、北半球では40℃を超える猛暑が続きました。衝撃的な熱波は生態系を変え※1、商品・サービスのトレンドを変え※2、暴動や抗議活動が活発になるなど、多くの影響を及ぼしました※3。一部の活動家だけでなく、一般生活者もその脅威を身近に感じるようになり、普段の生活から脱炭素商品やサービスを選ぶ動きが高まっています。
住宅業界でもZEHへの関心が高まり、積極的に採用する地域が増えています。住宅購入検討者の93%が省エネ住宅を希望し、3人に1人は「支払額が増えても住みたい」と回答しています※4。脱炭素社会への準備が着実に進んでいます。
2.レコノミー社会が進行する
レコノミーと呼ばれる循環型の経済と、それを志向する新しいライフスタイルが浸透しています。持続可能な社会のためのリサイクル技術の進化が続き、それを背景に新しいモノを買わずに、修理して長く使う、再生品を選ぶ人たちも増えています。祖父のジャケットを着る若者が現れ※5、大量生産大量消費を支えてきたアパレルのセールは縮小しています※6。住まいについても、新しい家具を買うのではなく、50.8%がDIYをしたことがある社会になりました※7。レコノミーな新しいライフスタイルが生まれています。
3.ポストコロナの生活様式が定着する
新型コロナウイルスが第5類感染症となり、変わったこと、定着したことに注目すると、コロナによって活動時間や、家やオフィスの使い方が変わり、それが定着したのちに必要とされる商品やサービスが見えてきました。例えば、夜の付き合いは戻らず逆に朝型に行動し消費をする人たちが増えています※8。オフィスに人が戻らないため、オフィスの存在意義を変える会社が現れています※9。トランクルームの利用も定着し、手狭になった家を住みかえるのではなくトランクルームを有効活用することが選択肢の一つ※10となっています。
4.メンタルヘルスへの対応が求められる
現役世代の8割が疲れを感じており※11、メンタルヘルスの提案が求められています。心地よく過ごせる空間の提案や、心地よく過ごすための行動習慣を住まいの視点から考えることが必要です。心をすこやかに保つ助けとなる世界の文化に着目してみると、例えばデンマークでは「ヒュッゲ」という居心地の良い空間で、家族や友人と食事を囲み、まったり過ごす習慣があります。スウェーデンには「フィーカ」という、甘いものを食べながらコーヒーを飲む文化があります※12。心地よい空間と行動習慣の提案が、現役世代にとって重要となるでしょう。
5.新しい体験への投資が進む
ポストコロナの環境で新しい体験を求め、投資する人が増えています。アクティブな体験も、癒しのための体験も、新しい体験に目を配ると、それを求める人たちへ提案できることが沢山ありそうです。例えば、世界ツアー中の「テイラー・スウィフト」のコンサートに殺到する人たちは、高額なチケット代や旅費を支払ってでも、その時その場所でしか体験できない価値に投資をするトキ消費の象徴的な存在だと言われています※13。癒しのためのひとり消費や※14、効いている実感を体験したいために痛いコスメへの注目も集まっています※15。住宅やスペースに目を向けると、ゴルフなどスペースを使う趣味のための住宅やサービスが活況であり※16、キャンピングカー市場も拡大しています※17。
6.ジェンダー役割とワークライフバランスの変革が進む
年収の壁、転職の壁、ジェンダー役割の壁、壁が次々と崩壊しています。ジェンダー役割が変わり、共働き家庭が安全・安心に暮らしていくための、家族や住まいの提案が求められています。ジェンダーイコーリティの意識が高まり、当たり前に働く女性と、結婚相手に自分と同等の年収を求める男性が増えています※18。女性が当たり前に働く家族に対しての、子育てのサポートも手厚くなってきました※19。
7.IT化が遅れていた業界でもAI活用とDXが進む
生成AI元年となった2023年。いよいよAIがビジネスに組み込まれる環境が整いました。人口減少や空き家問題など住宅業界を取り巻く多くの課題に対応するために、DXによる生産性の向上は避けて通れないと考える住宅関連企業が増えています。例えば、農業ではAIやロボットを使って生産性を高めることで売上規模が1億円を超える経営体が増加しています。売上の増加に伴い設備投資への余力も増え、個人経営の農家が減少する中で法人経営体が増えています※20。住宅業界にもDX旋風が吹こうとしており、DX推進に取り組んでいる住宅関連企業は31.9%ですが、推進すべきと考えている企業は98.6%に及びます※21。
8.身近な社会課題への対応が求められる
大きな社会課題に加えて、住まいで解消するべき身近な課題への対応も求められています。空き巣への対応やフードデザートの課題、騒音対策など、住宅関連業界で取り組む必要があるソリューションを提案できる身近な課題が数多くあります。例えば、空き巣に狙われたことがある一戸建ては約2割あるという調査結果があります。防犯対策がしっかりできている家庭は1割しかなく、その理由のトップは費用がかかるからです※22。また、フードデザートと呼ばれる買い物弱者エリアへの対応も求められています。以前は過疎化が進む地方だけの課題だったものが、都市開発の影響で東京都心にも食の砂漠地域が広がっています※23。暮らしや住まいに密着する課題に目を向けてみると、住宅関連業界が用意すべきソリューションが数多く見つかる可能性があります。
9.脱デフレ社会の姿が見えてくる
株高・円安・インフレが継続する日本では、政策金利の上昇圧力も高まっています。約30年続いていたデフレ社会を脱した後には大きな変化があると考えられます。その中心にいる住宅関連業界は、新たな提案が必要になるのではないでしょうか。脱デフレが実現し、金利上昇後も2%の物価安定が実現すると、住宅ローン金利の負担が2.2兆円増すという試算があります。住宅市場には下押し圧力になりますが、一方で預金の利子収入や賃上げの継続で家計には6.1兆円のプラス効果も見込まれています※24。
まとめ・提言
mid-2020s に備えよう
新型コロナウイルスのパンデミックから幕を開けた2020年代も中盤を迎えました。ポストコロナの社会となり、インフレと賃上げが進み34年ぶりに日経平均株価の最高値が更新されました。金利の上昇圧力も高まり、住宅ローン負担増は目の前にあります。先進国では10年代から進んでいたレコノミーでジェンダレスな考え方が日本にも浸透しはじめ、生活や住まい、住宅を持つことにも大きな変化があると考えられます。本当の変革がはじまる2020年代中盤に備えていきましょう。
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公開日:2024年08月28日