「北欧、暮らしの道具店」に学ぶ、消費者に愛される理由とは?
高山 達哉(株式会社クラシコム)
クラシコムが運営する「北欧、暮らしの道具店」は、「フィットする暮らし、つくろう。」をテーマに、北欧を中心に国内外の雑貨や衣料品などを販売するECサイト。商品の販売だけにとどまらず、Web記事や音声メディア、ドラマといった独自コンテンツを通して、お客様とダイレクトに繋がっているのが特徴です。今回は、クラシコムの高山 達哉氏と一緒に、これからの暮らしや住まいについて考えてみました。
ビジネスの本質は、お客様との信頼関係を築くこと
LIXIL Housing Technology TH統括部 TH戦略部 井畑 貴之氏(以下、井畑氏):
「北欧、暮らしの道具店」では、北欧カテゴリのインテリア雑貨や道具、アパレル、コスメなど、さまざまな商品を展開されています。年間18万人ものお客様がお買い物されていると伺いました。これほど愛される理由はどこにあるとお考えですか。
クラシコム・ブランドソリューショングループ 高山 達哉氏(以下、高山氏):
一見するとECサイト、ECメディアだと思われるかもしれませんが、われわれは「ライフカルチャープラットフォーム」と定義しているんですよ。取り扱っているのは商品だけでなく、記事や動画、Podcast、映画といったコンテンツも含まれます。一貫したライフカルチャー(世界観)のなかで、商品やコンテンツと繋がることができる場所。それが、「北欧、暮らしの道具店」です。
井畑:
制作したコンテンツは、YouTubeやSpotify、Instagramなどを通して、広く配信されていますね。
高山:
はい。お客様との接点を増やし、ライフカルチャーに触れていただくことでエンゲージメントが深まり、結果として商品を買っていただいています。われわれのビジネスの本質は「お客様にものを売ること」ではなく、「お客様との信頼関係を築くこと」です。そうした考え方が受け入れられているのではないかと思います。
井畑:
どのようなコンテンツが、お客様との信頼関係を深めているのでしょうか。
高山:
一般的に、生活雑貨やインテリアに関するコンテンツというと、以前はライフスタイルの提案が主流でした。でも、暮らしの外側(スタイル)だけ提案しても、お客様には響きにくくなっていると感じます。生きていくうえで、誰しも切実な葛藤やちょっとした辛さが内側にあって、それらとうまく折り合いをつけたり少しでも心地いい状態にしていきたいという試行錯誤が、暮らしのスタイルにつながると思います。だから、お客様がそのスタイルを望む理由はどこにあるのか、見えない痛みはなんなのかを捉えていくことが大事だと考えています。
われわれのコンテンツの根底には、お客様ひとりひとりのなかにあるモヤモヤが包み込まれているんです。といっても、わかりやすい形でモヤモヤを表現するのではなく、コンテンツに触れたあと、すがすがしい気持ちになれるような暮らしの提案を心がけています。このようなアプローチがコンテンツの深さとなり、共感の深さにもつながっているように思います。
インテリアが変われば、1日1日の感情も変わる
井畑:
2021年のコンセプトプレゼンでは、「どんな時間(トキ)も機嫌よく」というテーマでコラボさせていただきましたね。LIXILの商品と「北欧、暮らしの道具店」の雑貨を組み合わせ、機嫌よく暮らせる空間をデザインして、住宅会社様に紹介しました。
高山:
そうでしたね。LIXILさんの商品とわれわれの商品の相性がよく、とても素敵なシーンを提案できたと思います。今年のコンセプトプレゼンは、どういった内容ですか。
井畑:
テーマは「Less is more」です。ものを増やすのではなく、減らすことで豊かになる暮らしもあるのではないかという思考実験を盛り込みます。インテリア建材では、「ラシッサD」の新レーベルである「NORTH FOREST(ノースフォレスト)」を紹介する予定です。
高山:
どんなインテリアにも合わせやすそうなデザイン、カラーですね。
井畑:
そうなんですよ。「NORTH FOREST」では、どんな家具にも合わせやすい、北欧にゆかりのあるカラーを採用しました。ここ数年、わかりやすく「●●●スタイル」と定義できるインテリアは減っていて、大半が複数のテイストを組み合わせたミックススタイルになっています。そのなかでも北欧テイストは定番化していて、どんなインテリアにもミックスしやすい柔軟さがあるんです。
新レーベルでは、テンダーオークをベースに淡いグリーンを合わせれば、北欧の明るいイメージをデザインできるし、カームチークをブラックで引き締めれば、北欧ヴィンテージ風を演出することも可能です。ドアだけでなく床や建具を自由に組み合わせて、お客様の理想とするミックススタイルを実現するお手伝いができるといいなと考えています。
高山:
われわれのお客様も、リノベーションに憧れているという方が多いです。でも、「なにをどうしたらいいのかわからない」という声をよく聞きます。念願のマイホームを建てたけれど、「これでよかったのかな」という不安が湧き上がったり、「もっと、ああしたらよかった」「こうしたらよかった」という後悔が膨らんだりというお話も伺います。
「NORTH FOREST」のような建材を使って住まいの一部を変えるだけで、自分好みのスタイルに近づけるというのは、とてもうれしいことですよね。インテリアが変われば暮らしの印象が変わり、1日1日の感情も変わります。リノベーションが変化のきっかけになるのは素晴らしいことだと思います。
「使っているだけで、地球に貢献できる」商品を
井畑:
これからの暮らしや住まいを考えるとき、環境問題は切り離せないテーマのひとつになっています。「北欧、暮らしの道具店」での環境に関する取り組みがあれば教えていただけますか。
高山:
企業として「社会」と「地球環境」の持続可能性に対して、自分たちなりにやれることと向き合っています。でも、改めてなにかを変えたかというと、そうでもないんですよ。
これまでも、アパレルで使う素材の選定で環境への配慮を重視したり、商品の配送に使う梱包材をできる限り最小限に抑えたりといった努力を重ねてきました。需要予測を徹底することで定価消化率を95パーセントまで引き上げ、商品廃棄率は限りなくゼロに近い値を保っています。でも、そうした取り組みをセールスコピーとして、あえて使わないようにしていました。お客様に対して直接的に、どんないいことがあるのかを伝えることのほうが大事だと考えていたからです。
井畑:
現在はいかがですか。お客様の環境に対する意識は高まっていると感じますか。
高山:
はい、高まっていると思います。自分にとってスマートな選択をしたいと考える方にとって、環境問題は大切な要素になりつつあります。
お客様の気持ちに応えるためにも、どんな素材を使っているのかといった事実の説明は大切なんですね。最近はコミュニケーションの際に、ひとつの情報としてしっかり伝えるようにしています。
井畑:
わたしたちもお客様から「環境」「自然」という言葉をよく聞くようになり、LIXILの取り組みを伝えるようになりました。たとえば、「ラシッサD」シリーズをはじめとしたインテリア建材は、環境面への配慮を積極的に推進しています。製造工程で発生するすべての廃棄物はリサイクル率100パーセントを達成しているほか、使い捨てプラスチックを環境配慮型素材に切り替える活動も進めています。また、アルミリサイクル率100パーセントの技術開発に成功したことは、お客様からすごくよい反応をいただけるんですよ。
高山:
リサイクル率100パーセントとは、すごいですね。
井畑:
そう言っていだけるとうれしいです。LIXILは企業として、リサイクル率を高める取り組みを進めています。アルミに関していうと、2031年3月期までにリサイクル率を100パーセントにする達成目標を掲げています。「普通に使っているだけで、地球に貢献できる」というのが理想ですよね。
でも、購買層によって問題意識が違うから、伝え方がむずかしいし、うまく伝えられていないんじゃないかという葛藤もあって……。御社のように急がず、緩やかなペースで訴求していけばいいのかもしれませんね。とても参考になるアプローチです。
ドキドキハラハラより、穏やかなコミュニケーション
井畑:
今後の展望や挑戦してみたいことについて教えてください。
高山:
お客様に対する提案を深めるためにも、もっと商品カテゴリを広げていきたいですね。コンテンツの種類が増えてきたので、企業向けの新しいコンテンツパッケージを色々と試してみたいし、リアルでつながるサービスや施設にも挑戦したいです。コンテンツや商品、事業を横展開していくことで、より魅力的な「ライフカルチャープラットフォーム」に成長していけたらと考えています。
井畑:
コンテンツの制作に関して、目指していきたいことはありますか。
高山:
より多くの人に見てもらうことをKPIにしてしまうと、お客様との距離が逆に離れてしまう可能性もあると考えています。世の中にコンテンツが増えて可処分時間の争奪戦が起こっているなか、ページビューや再生回数を取りにいこうとすると、視聴者を獲得するために不安な気持ちをあおったり、ドキドキハラハラさせたりすることを意識してしまう。エッジ、フックのあるコンテンツの方が人の心を掴みやすいからです。
でも、われわれが求めているお客様との関係は、それでは得られません。ある種「凪」な気持ちで見られるもの、気持ちが必要以上にアップダウンせず、穏やかな気持ちでいられるもの、見終わったときにすがすがしさや小さな希望を感じるものをつくっていきたい。自分たちのライフカルチャーを大事にしながら、お客様との信頼関係を深めるコンテンツをつくっていきたいと考えています。
井畑:
その瞬間の良し悪しではなく、長期的、総合的な価値観を伝えていく姿勢が、「北欧、暮らしの道具店」の心地よさに繋がっているのだと理解できました。われわれもビジネスユーザー、エンドユーザーのみなさまが暮らしや住まいに求めることに着目した一棟提案を、これからもブラッシュアップしていきたいと思います。
高山さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。
文:さいとうきい
Photo:林 ひろし、LIXIL所有
プロフィール
高山 達哉
株式会社クラシコム
取締役
ブランドソリューショングループ マネージャー
1985年生まれ。WEBサイト制作会社にて、コンテンツマーケティングのプランナーを経て、2015年9月にクラシコム入社。広告事業の立ち上げを行い、「北欧、暮らしの道具店」に新たなビジネスラインを確立。現在も様々な企業とのコラボレーション施策を統括、「北欧、暮らしの道具店」の世界観やブランド価値を広告主にソリューションとして活用いただく取り組みに従事している。
井畑 貴之
株式会社 LIXIL
Housing Technology
TH統括部 TH戦略部 部長
1974年生まれ。1993年にLIXIL(旧トステム)入社後、ビル部門の実施設計部門に従事。住宅建材部門に異動した後は営業を長らく経験し、2018年4月から本社コントラクター営業部門(現
TH統括部)の戦略担当として従事。2022年4月からTH戦略部の責任者。主に、デジタルを含むB2Bマーケティングの企画・推進を展開している。
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公開日:2023年07月28日