人材不足の時代を生き残るヒントは、リーダーの姿勢にあり!

朝倉千恵子(株式会社新規開拓 代表取締役)

「人が足りない」
日本全国で叫ばれる人材不足ですが、建設業においては一層深刻です。

国土交通省のデータによると、2020年度時点、建設業の就業者数は492万人。ピークであった1997年と比べると28.1%もマイナスになっています。さらに、総務省「労働力調査」によると、建設業における60歳以上の割合は26.4%で、職人をはじめ業界内の高齢化は差し迫った課題です。さらに10年もたてば多くの離職が見込まれますが、それを補えるだけの若手人材を確保できている企業がどれほどあるでしょうか。

建設投資、許可業者及び就業者数の推移

出典)国土交通省「建設投資見通し」・「建設業許可業者数調査」、総務省「労働力調査」
※1 投資額については2017年度まで実績、2018年度・2019年度は見込み、2020年度は見通し
※2 許可業者数は各年度末(翌年3月末)の値
※3 就業者数は年平均。2011年は、被災3県(岩手県・宮城県・福島県)を補完推計した値について2010年国勢調査結果を基準とする推計人口で遡及推計した値
※4 2015年産業連関表の公表に伴い、2015年以降建築物リフォーム・リニューアルが追加されたとともに、2011年以降の投資額を遡及改定している

「国土交通白書2021」(国土交通省)を加工して作成
https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/r02/hakusho/r03/html/n2639000.html

危機感を持ちながらも日々に追われる現状

住宅産業に関わる経営者の方々とお話をさせていただくと、皆さま危機感を持ちながらも、つい対応が後手に回ってしまっていると言います。
人手が足りていないことは明らかでも、今日明日の仕事はなんとかやっていける。どうしてもという時には、知人のツテでピンチヒッターを頼む。そうやってその場その場で対処しながらやっているうちに、1年、また1年と時間がたってしまったという方もいるのではないでしょうか。


さらに人材に関する投資は、結果が出るまでに時間がかかります。人を採用するにしても、求人、面接、内定までに数ヶ月は必要です。人材育成ともなれば、業績に明らかなメリットが出るまでに最低でも1年は経過を見なければ分かりません。

だからといって、後回しにしていれば状況は一向に改善しないどころか、ひどくなるのは火を見るよりも明らかです。そもそも今、人手不足で苦しんでいるのであれば、それは3年前、5年前の御社の選択の結果が表れているとも言えるのです。

選ばれる会社と選ばれない会社の格差が大きくなる

人を雇おうとするとき、多くの会社では求人を出して応募が来るのを待ちます。もちろんこれが正攻法ですが、実際に求人を出しての反響はどうでしょうか。

今は有効求人倍率が高い、いわば「仕事余り」の状態です。厚生労働省が発表した2021年12月のデータでは、有効求人倍率は1.16倍。さらに建築・土木・測量技術者や、建設業に限ると倍率はさらに高くなり、有効求人倍率が5倍を超えます。これは1人の求職者に対して、5つもの仕事が提示されていると言い換えることができます。

※出典)一般職業紹介状況(令和3年12月分及び令和3年分)について(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/11602000/000886204.pdf

人口減少に伴う労働力不足は社会現象ではありますが、全ての企業がまんべんなく人手不足に陥っているわけではありません。選ばれる会社には何百人もの求職者から応募があり、一方、何度求人を出しても応募が来ない、せっかく面接ができても他の企業に行ってしまい、いつまでたっても採用できないという会社もあるよう、企業間格差が大きく開く時代になっています。これは求職者の側に、働く場所や働き方などを選ぶ自由ができ、同時にインターネットの発達により多くの情報にアクセスできるようになったことで、より比較対象が広がったからと言えるでしょう。

求人を出すのにどの媒体を使うか、求人票のキャッチコピーをどうするかなどももちろん大切ですが、「この会社で働きたい!」と思わせる何かがあるかという、より本質的な違いが格差につながっているのです。


現状維持からの脱却

求職者から選ばれるような魅力的な会社を作っていくためにとても重要なことは、経営者自身が常に学び成長し、時代の変化に敏感に対応していくことだと私は考えています。

過去思考では、時代の波を読めないどころか、いつしか世の中から置いていかれてしまいます。求職者が求めるものも10年前と今では全く変わっています。働き方も、リーダーの在り方も変化、多様化している今、あなたの会社では何を大切にし、何を変えるべきなのでしょうか。社会が大きく変化している中で、まずは現状維持からの脱却が重要となります。

人材育成こそが、人材確保の近道

遠回りに感じるかもしれませんが、「人材確保の秘訣は何ですか?」と聞かれれば、私は「人材を育成することです」と答えます。

求職者が、応募する企業を選ぶポイントは一つではありません。

  • 給与などの条件面
  • 働く場所
  • 仕事のやりがい
  • 強く共感する理念 など

給与や待遇で他社と差をつけることは容易ではありません。規模が小さな会社こそ、あなたの会社ならではの仕事のやりがいや、理念などの価値観で差別化を図ることが大切です。そして、「この会社の仕事はやりがいがある」、「社会にとって意義のある仕事をしている」ことを体現してくれるのが、まさに今いる社員なのです。

求人票にどれだけ「やりがいのある仕事です!」と書いたところで、実際に働いている人が目も虚ろで生気がない…そんな会社に入りたいとは思わないのが自然です。逆に「この会社の人はいつも楽しそうに仕事をしているな」と感じられれば、求人を出す前に向こうから「働きたいです」と手を挙げてくれる可能性も生まれます。

住宅業界の仕事はハードです。しかし同時に、住宅業界の仕事ほど、お客さまから直接感謝される仕事もなかなかありません。
何も教えられないまま、結果が出せない人は、いつまでも仕事がハードなだけで辛い思いが続きます。一方でしっかりと教育を受け、結果を出せるようになれば、お客さまに心から喜んでもらうという体験ができ、極上の達成感を得ることができます。この達成感こそがやりがいにつながるのです。

「この会社で働いている人は、皆イキイキと輝いている」
その事実以上に、会社の魅力をアピールしてくれるものが他にあるでしょうか。

イキイキとした職場をつくるのは、他でもない「リーダー」

仕事の達成感による「やりがい」とあわせて意識したいポイントが、職場の雰囲気です。私はこれまで数千もの企業を訪問してきましたが、扉を開けて一歩足を踏み入れた瞬間にその組織のリーダーの本気度が分かります。

全ては社内の澄んだ空気と、社員の活気に表れます。その一端は、観葉植物にも表れます。植物は正直です。観葉植物の手入れで、人の管理と細かいところまでの気配りまで見えてきてしまうのです。

リーダーが明るいか暗いか。リーダーの姿勢は会社の雰囲気や社員の表情に如実に表れます。リーダーが明るい会社は社員も明るい。社員が明るい会社は、会社も明るいのです。あいさつの徹底一つでも、職場の雰囲気は一変します。


以前、ある会社にとても業績が悪い部門がありました。社員たちは笑顔もなく、やりがいも目的意識もなく、ただダラダラと時間を過ごしているようでした。ところがそこに、新しいリーダーが加わったことで、部門が驚くほど変化したのです。
リーダーのやる気、活気づくり、笑顔が職場をどんどん明るくさせ、スタッフたちは見違えるように輝き始めました。「リーダー一人の力がこんなに大きいのか」と周囲はとても驚きましたが、このような事例は全国にたくさんあります。

よく言われるように、会社は、社長の器以上にはなりません。部門もリーダーの器以上にはなりません。「今どきの若者は…」「俺の時代は…」と嘆く前に、まずはリーダー自身が常に学び、変化、成長していかなければいけませんね。

朝倉千恵子(あさくら・ちえこ)

執筆者プロフィール

朝倉千恵子(あさくら・ちえこ)

株式会社新規開拓 代表取締役

小学校教員を経て35歳で人生の転機を迎える。営業未経験でありながら礼儀礼節を徹底した営業スタイルを実践し人生再スタート。3年で他の10倍を販売するトップセールスに。その後独立、2004年株式会社新規開拓を設立。
社員教育コンサルタントとして全国を飛び回り、自らの経験を活かした講演は、多くの企業・団体から支持され高いリピート率を誇る。2021年8月より、音声メディア「Voicy」をスタート。毎日11:30より「働く貴方の応援団長」として、熱いメッセージを配信している。

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公開日:2022年03月23日