空き家再生ビジネスにどう挑むか? ―ポテンシャルと課題から取り組み方を考える―

小寺伸幸(株式会社船井総合研究所 不動産支援部 不動産グループ マネージャー)

総務省が発表した「平成30年住宅・土地統計調査」によると、日本の空き家は848万9,000戸となり、過去最多を更新しました。全国の住宅に占める空き家の割合も13.6%にまで上昇。今後、さらに空き家は増加していくと見られており、地域の課題となっています。こうした中、国でも空き家対策を積極的に推進しており、2015年には「空家等対策の推進に関する特別措置法」を施行。住宅業界においても、空き家にビジネスチャンスを見出し、空き家再生ビジネスによって実績を上げる企業も登場してきています。
そこで今回は、空き家再生ビジネスに詳しい船井総合研究所の小寺伸幸氏に、空き家再生ビジネスの取り組み方についてお話を聞きました。

大きな可能性を秘める
ブルー・オーシャン

今後、ますます空き家が増加することを踏まえると、空き家再生ビジネスの可能性はさらに広がっていくと予想できます。既に、順調に成長を続ける企業もいますが、まだまだマーケットに参入している企業は多くありません。その意味では競合が少なく、まさにブルー・オーシャンと言えます。
ただし、現状は主に地方都市に限られています。大都市の場合、そもそも空き家となる住戸が少なく、中古住宅流通市場での売買も盛んなので、空き家を取得すること自体が難しいからです。対して地方部では、空き家の増加に伴い処分に困っているオーナーも増えています。既に事業を行っている企業も地方部の戸建住宅を対象にビジネスを展開しているケースが多いようです。

空き家再生ビジネスは、新マーケットとして大きなポテンシャルを秘めています。実際、短期間で大きく成長している企業が存在していることからも、そのことが分かるのではないでしょうか。ある企業では、1棟当たり平均400万円ほどの利益を生み出しています。もちろん誰もができることではありませんが、やり方次第で新築事業と同様に利益率がよい事業にもなり得るのです。分譲住宅の開発などと比較すると物件の回転も速い。うまく事業化できれば、持続的な成長を後押ししてくれるでしょう。

参入障壁が多いことも事実
下請けとして経験を積むという選択肢も

現在、空き家再生ビジネスを手掛ける多くは、不動産事業を得意とする企業です。ビジネス自体が不動産事業の要素が強く、大いなる可能性がある半面、中小工務店が参入するには、いくつかの障壁があることも事実です。

・空き家の仕入れ

まず、どう空き家を仕入れるのかという問題があります。不動産事業を手掛けていれば、地域の不動産情報などを入手しやすいでしょうが、新築・リフォーム事業に特化した中小工務店にとっては、そもそも不動産仲介のネットワークがないため、ハードルが高くなります。最近では公的な登記変化情報などを元に相続が発生している人を割り出し、DM発送代行などを請け負う事業者もいます。こういった事業者のサービスを活用することで、仲介ではなく所有者から直接空き家を仕入れることも可能です。

・不動産の査定

次に、空き家の物件情報を取得できたとしても、不動産事業の知識がないと査定が難しいという問題もあります。一般的に築25年を経過してくると建物の価値はゼロになるので、路線価などを元に土地の価格で査定を行うことになります。やはり不動産事業に関する一定のノウハウや経験が求められます。

・“売れる住宅”にする改修コストの見極め

空き家を買い取り再販する場合、新築住宅の6~7割くらいの価格設定にしないと売ることが難しくなります。毎月のローン支払い額を賃貸住宅の家賃程度に抑えることも重要です。そのためには、リフォーム費用はできるだけ抑えたいところです。不動産会社が空き家再生ビジネスを行う場合、インスペクションなどを得意とする企業に外部委託することが多いようですが、建物の現状を見極めて、どのくらいの改修コストをかけて“売れる住宅”に仕上げるかを短期間で算出する必要があります。
買い取りする物件を見極める難易度を踏まえると、耐震改修が必要になる旧耐震基準の建物ではなく、まずは新耐震基準を満たしている建物を買い取りされた方が良いと思います。たとえ耐震基準以降の建物であっても、実際にリフォーム工事を始めてみると、想定以上に改修すべき箇所が多かったというのはよくある話です。また意匠性や機能性にこだわりすぎるのも禁物です。瑕疵担保責任なども視野に入れ安全性などを確保しながらも、新築の6~7割の価格で十分に利益を確保できる、そういった事業モデルを構築することが求められるのです。

そもそものところで、空き家を買い取ること自体に抵抗感がある工務店さんも多いのではないでしょうか。分譲住宅事業を手掛けていれば、それほど抵抗感はないかもしれませんが、注文住宅を中心に行っている場合、不動産を一旦買い取るということに怖さを感じてしまうのは当然です。資金調達のこともありますから。
こうしたリスクや不安を解消するためにも、一度、リフォーム会社として空き家再生ビジネスを実施している不動産会社などの下請けに入り、ビジネスの方法などを含めて学んでみるというのも選択肢の一つかもしれません。

本格的な不動産事業への足掛かりに
若年層向けの提案メニューの一つ

これまでモノづくり(住宅づくり)にこだわってきた会社も、今後の新築市場の縮小に備えて事業の多角化を推し進めることが大切になっています。その一つの方策が不動産事業への進出です。その足掛かりとして、まず空き家再生ビジネスに挑戦してみるという考え方もあります。これまで貫いてきたモノづくりへのこだわりも維持しながら、不動産ビジネスを展開していくことで、新築市場の縮小に対応するための多角化戦略を模索していくのです。

若年層を中心とした提案メニューの強化という点でも空き家再生ビジネスは見逃せません。空き家を再生した住宅を購入している方々の所得水準は300万円前後です。借家世帯の4割が年収200~500万円という調査結果もありますから、まさに平均的な所得水準の方々が空き家を再生した住宅を購入しているのです。新築には手が届かないが、戸建住宅には住みたい。そういう顧客層に選ばれるのが空き家再生住宅です。
かつてのような所得水準の上昇が見込まれない中で、特に地方部では「マイホームを手に入れたいが、経済的な問題で難しい」という方も増えています。そういう方々のマイホームの夢を実現するという点でも、空き家再生ビジネスに取り組む意義があるのではないでしょうか。

小寺伸幸(こてら・のぶゆき)
株式会社船井総合研究所 ライン統括本部 第一経営支援本部 不動産支援部 不動産グループ マネージャー

これまでに中古+リフォームビジネス、不動産売却ビジネス、空き家再生ビジネスなど業態付加提案を実施し、多くの成功事例の輩出実績がある。住宅不動産会社向けに中期経営計画書作成、マーケティング戦略、DX構築支援を実施。地域トップクラスの住宅不動産会社の業績向上を得意とする。

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公開日:2021年11月24日