ウッドショックを変革の契機に 次世代に向けて生き残り戦略を
西村茂和(株式会社船井総合研究所 シニアコンサルタント)
旅行業界や飲食業界などと比較すると、コロナ禍による影響をあまり受けなかった住宅業界。しかし、ここにきてウッドショックが住宅市場にもたらす影響を懸念する声が高まっています。LIXILビジネス情報サイトのマイページ会員さまを対象に実施したアンケート調査においても、興味・関心があるテーマとして「木材不足と価格高騰」を挙げる方が47.8%もいました。ウッドショックに対して、今後、どのような対応策が求められるのでしょうか。船井総合研究所 デザイン住宅グループ シニアコンサルタントの西村茂和氏にお話を聞きました。
足元では坪当たり2~3万円のコストアップに
10月以降、さらなる価格上昇も
ウッドショックは、いくつかの要因が複合的に関係して発生しました。まずコロナ禍からいち早く立ち直った中国やアメリカにおいて木材需要が急増しています。また、中国にコンテナが集まり、世界的なコンテナ不足が表面化しています。さらに、スエズ運河の座礁事故などの影響もあり、物流が滞るという事態も発生しました。
一方、日本ではコロナ禍による在宅時間の増加などによって持家志向が高まり、住宅需要が高まっています。ところが、アメリカや中国でも木材需要が高まり、コンテナ不足などで輸送もうまくいかないといった問題から、日本に木材が入ってこない、入ってきても価格が高いという状況が発生しているのです。
そもそも日本は安い価格で木材を仕入れ、なおかつ品質にも厳しかった。アメリカや中国が日本よりも高い値段で買ってくれるので、世界的な木材マーケットの中で日本の優先度が下がってきています。
地域やそれぞれの会社の状況にもよりますが、住宅事業者の木材調達価格が、坪当たり2~3万円ほど上昇しているようです。30坪の住宅であれば、60~90万円ほどのコストアップになります。
今後、さらに価格が上昇するのではないかという見方もあり、坪当たり4~6万円、さらにそれ以上のコストアップを強いられるかもしれません。30坪の住宅であれば、120~180万円のコストアップになるというわけです。最終的には200万円を超えてくるのではないかという声もあります。
一時期のように「どんなに高い値段を払っても調達できない」という状況は解消されつつあり、企業規模などにもよりますが、コストアップさえ了承すれば調達はできるようにはなってきているようです。しかしながら、住宅マーケットへの影響が今後も続くことは間違いないでしょう。
付加価値を高め、コストアップ分以上の商品力を向上
200万円コストが上がった場合、どのような対応策が求められるのでしょうか。単純に販売価格に転嫁できればいいのでしょうが、例えば建物価格が2000万円だったものが2200万円になれば、自ずと客層も変わります。客層が変われば、営業戦略なども再検討せざるを得ません。
それであれば思い切って、コストアップ分以上に付加価値を高め、商品力を向上していくことを考えてみてはいかがでしょうか。例えば耐震等級3を標準にする、省エネ性能をワンランク向上するといった新たな付加価値を付与していくことで、例えば200万円というコストアップ分を上回る500万円の値上げに踏み切るのです。新たに付与した付加価値を前面に押し出した営業戦略なども講じていくことで、ウッドショックを契機として、ターゲットとなる客層を変えることができるのではないでしょうか。
多角化経営の実現で危機を乗り切る
いきなりターゲット層を変えられないというのであれば、事業の多角化に踏み切るという手もあります。
中長期的に見ると、新築住宅事業の経営に加えてリフォームや土地活用といった周辺ビジネスにチャレンジすることが大事でしょう。そういった周辺ビジネスにチャレンジし、今から新築住宅マーケット以外の収益源も確保しておく必要があるのです。
事業の多角化が実現されていれば、現在のようなウッドショックにより、新築住宅事業でコストアップを求められたが価格転嫁も難しいとなっても、リフォームなどの他の事業で利益を確保していくという方針をとることもできます。
専門店化によって効率を高める
ウッドショックのような事業リスクを克服するためには、業務効率を高めるということも重要です。業務効率を大幅に上げることができれば、コストアップ分を吸収することができるかもしれません。
例えば、一般的に集客から契約に至るまでの割合は8~10%と言われています。10件のコンタクトがあって、そのうち1件が契約となるわけです。この数字を高めることができれば、集客にかかるコストや時間の削減にもつながります。
不動産情報総合サイトを運営する企業の調査によると、住宅会社を決定するまでにお客さまは平均2.5社とコンタクトをとっているそうです。この結果を考慮すると、お客さまは2社、もしくは3社から1社を絞るので、契約率を50%にまで高めることは決して夢ではありません。
では、どうしたら契約率を高めることができるのでしょうか。ひとつの方法として専門店化を進めるというものがあります。
飲食業界でも、何でもある居酒屋ではなく、ひとつの料理に特化した専門店の方が人気を得ています。住宅も、例えば「当社は平屋専門の住宅会社です」とか、「二世代住宅ならお任せください」といったように、自社の強みを生かして専門店化することで、訴求方法や売り方が明確になります。その結果、問い合わせの総数が減ったとしても、ターゲットにマッチングしたお客さまからの問い合わせにより受注率が高まり、受注棟数が増えたということにもなり得るのです。
加えて、“売る仕組み”がはっきりすることで、ノウハウやスキルの習得も効率化され、経験の浅い営業担当者でも売れるようになり、人件費の削減も期待できるでしょう。
業務のデジタル化は必須
業務の効率化という点では、業務のデジタル化は必須でしょう。DX(デジタル・トランスフォーメーション)はハードルが高いので、まずは業務のデジタル化を検討すべきです。特にデジタル化が求められるのが工務分野でしょう。
現場施工の部分はブラックボックス化しており、ムリやムダも多い。発注ミスなどが重なり、計画時の粗利と完成後の粗利に大きなズレが生じることもよくあるのではないでしょうか。現場管理システムなどを導入することで、まずはムリ・ムダを省き、不要な経費削減、利益率向上を目指しましょう。
将来的な経営リスクに対応するための変革を
今後、どんな新しい経営リスクが現れるのかは誰にも分かりません。職人不足、事業継承の問題など、現時点で予測がつくものだけでも多岐にわたっています。そこにウッドショックのような突発的なリスクも発生してくるのです。
飲食業界では、コロナ禍によって業態変化を余儀なくされた企業も少なくありません。店舗型からデリバリー中心の業態に変化するなど、急激な変化への対応を迫られました。住宅業界はコロナ禍の影響はあまり受けませんでしたが、ウッドショックをひとつの契機として業態やビジネスモデルの変革を求められるかもしれません。
コロナ禍の影響について、「もうコロナ前に戻ることはない」という指摘もありますが、「もうウッドショック前に戻ることはない」という状況が訪れる可能性さえあるのです。
それだけに、ウッドショックをひとつのきっかけとして、まずはできるところから、持続的に事業を継続していくための変革に着手してみてはいかがでしょうか。
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公開日:2021年07月21日