パッシブファーストの住まいづくり(第3回)

事業継続の鍵はパッシブデザインとの出会い

高野和賢(株式会社高野工務店)

茨城県つくば市の高野工務店さまは、パッシブデザインに取り組み始めたことで、自社の特徴や強みをお客さまに自信を持って伝えることができるようになったそうです。それによって大手にも負けない提案力を身に付けられています。

高野 和賢さま

株式会社高野工務店さま

茨城県つくば市花室794

代表取締役 高野 和賢さま
設立 1984年3月

高野工務店さまのパッシブファーストの住まいづくり

大開口窓に外付けブラインドなど、パッシブデザインを取り入れたモデルハウスは、環境省が実施するZEHの宿泊体験型モデルハウスとしても活用されています。

──パッシブデザインに取り組むようになったきっかけは?

自社の特徴を明確にし、差別化を図るため

パッシブデザインに出会ったのは、3、4年前です。将来に対する危機感もあり、「自社の強みや特徴を明確にし、差別化を図ることが必要ではないか」と考えている時に松尾先生(和也さま:松尾設計室代表取締役)のセミナーを聞く機会に恵まれました。
そこから興味を持ち、LIXILさんが開催する野池先生(政宏さま:住まいと環境社)のセミナーや勉強会に参加し、パッシブデザインについて学んでいったのです。勉強を始めてから2年ほどでパッシブデザインに対して手応えを感じられるようになりましたが、実はスケッチアップを使い始めて、一度、挫折したこともあります。立面図の作成に手間がかかってしまい、「自分には無理かな」と感じたのです。その時に通常使用しているCADソフト「アーキトレンド」のデータを変換すれば、自動でスケッチアップの立面図が作成できることをLIXILのセミナーで知り、スケッチアップで周辺の建物状況などを書き込み、そこにアーキトレンドのデータを埋め込めば通常の業務に大きな負荷をかけることなくスケッチアップを使えることが分かったのです。そこからは当社で提案する全ての住宅で日照シミュレーションを行うようにしています。
また、ホームページにスケッチアップの画像を掲載することで、「こんなことまでしっかりやってくれる会社なんだ」と、最近の勉強熱心なお客さまの心を掴んでいます。

──パッシブデザインに取り組むようになって、得られた効果は?

情報過多で悩むお客さまにプロとしての提案ができるようになったこと

当社では、パッシブデザインを学ぶことで、「敷地ではなく、太陽に素直になって設計する」という基本に基づき、南面に大きな開口部が設けられるように設計し、場合によっては隣の建物が敷地に面する道路と平行に建っているのに対して、当社が建築する住宅だけ道路面と平行ではなく、南面に建物が正対するように建築することもあります。
こうしたプランを説明する際に、スケッチアップの日照シミュレーションで向きの異なる2つのプランを比較しながら、快適な温熱環境のためには道路の向きではなく、方角に注意して建物の向きを考えることが大切であることを説明するのです。しっかり根拠を示すことで、お客さまの悩みは解消し、信頼を獲得できるのではないでしょうか。

スケッチアップによる日照シミュレーションの結果。Bが建物の向きを南に向けたもので、Aが敷地形状に合わせて建物を配置したもの。日照の状況が大きく変わることがよく分かります。

高野工務店さまが手掛けた住宅

高野工務店さまが手掛けた住宅。隣の敷地の建物とは異なり、南向きになるように設計しています。

パッシブデザインに取り組み始めて間もない頃、あるお客さまを説得できず、南面に正対せずに、道路に平行になるような建物を建てたことがありました。完成し入居した後にお客さまから、「高野さんの言う通りにしておけばよかった。お日さまが入らなくて…」と言われてしまったのです。「どうしてあの時、プランを変更してしまったのだろう」と今でも後悔している出来事です。
一方、最近のお客さまはよく勉強されています。特に当社が事業を行っているつくばエリアは、研究者の方なども多く、高いレベルでの専門知識や提案を求められることも少なくありません。あるお客さまからは、最初の面談において、UA値やC値について、正確に答えられなかったら帰ろうと思っていたと言われたくらいです。そうしたお客さまにパッシブデザインの根拠ある提案はとても有効だと感じています。
スケッチアップによる日照シミュレーションに取り組み始めて2棟目のお客さまは、ある大手ハウスメーカーと競合になり、しかも見積金額は当社の方が高かったそうです。それでも当社を選んでいただくことができました。

──パッシブデザインで工夫していることは?

ワークショップなどを開催して丁寧に説明すること

初面談の場では、日照シミュレーションの画像などを見てもらいながら、パッシブデザインを中心とした当社の住まいづくりに関して説明します。また、すでに土地を確保しているお客さまの場合、その土地と周辺の建物の状況などを確認し、その結果をもとに更地の状態での日照シミュレーションを行うこともあります。周辺状況は市役所にある概要書を利用することもできます。加えて、ある金融機関と連携し、ファイナンシャルプランナーの方による資金計画の相談も2回に分けて行います。老後までの資金計画をシミュレーションすることで、経済的な不安を解消してもらい、その後の住まいづくりに集中してもらうのです。また、おおよその予算感を把握することもできます。

土地をすでに取得済みの場合、現地調査を行い建物が無い状態で日照シミュレーションを行い提示します。

パッシブデザインのワークショップで使用するプレゼン資料

パッシブデザインのワークショップで使用するプレゼン資料。この資料を使いながら2時間かけて丁寧に説明していきます。

その後、パッシブデザインのワークショップを受けていただきます。複数のお客さまではなく、1組限定で2時間ほどかけて丁寧に説明していくものです。断熱・気密においてはSW(スーパーウォール)工法を採用しているため安定的に高い性能を確保できます。そこにパッシブデザインの知識をプラスすることで、価格が高くなる部分も、その価値をお客さまにしっかり納得いただいています。
パッシブデザインのワークショップを受けてもらった後は、積極的な営業活動は行わず、「他の住宅会社さんにも行ってみてください」とお伝えしています。お客さまから、パッシブデザインの大切さなどを学んだ上で、他の会社の住宅を確認し、担当の営業マンにさまざまな質問をすることで、逆に当社への信頼感が増したと言っていただくことも少なくありません。

──今後、提供していきたい住宅とは?

提供したいのは安心・快適な「ねむたくなる家」

今後は使用する部材の採用理由を説明する資料を作成したいと考えています。こだわりの食材を説明するレストランのメニューのように、例えば「このルーフィング材は他の製品にはない性能を備えており、それによってこのような効果を住宅にもたらすので利用しています」といった説明をまとめています。
当社では、「安心いっぱいの『ねむたくなる家』」というコンセプトを掲げています。まずパッシブデザインや高気密・高断熱で快適な温熱環境を実現し、耐震等級3+制震構造で地震に対する安心感を創出します。加えて、長期優良住宅+ZEHで資産価値を維持し、老後までの資金計画で経済的な安心感を提供したいと考えています。こうした取り組みによって、お客さまが安心して、眠たくなるような家を目指しているのです。不安だと眠れませんから。
自社の特徴や強みを明確にする上で、パッシブデザインは非常に有意義だと思います。私が学び始めてから2 年で手応えを感じたように、住まいづくりの基礎を持っていれば、ものすごく高いハードルがあるわけではありません。LIXILからの情報などを上手に活用しながら多少苦労してでもやるべきではないでしょうか。
高気密・高断熱に取り組む住宅会社は多いかもしれませんが、本格的にパッシブデザインに取り組んでいる住宅会社はそれほど多くありません。
当社にとっては、パッシブデザインに出会っていなかったら、事業を続けることは難しかったかもしれません。それくらい大きな存在になっています。

南面に大きな開口部を設けることで開放感のある空間を演出し、快適な温熱環境も実現。

吹き抜け空間を生かした通風計画などにも配慮しています。

LIXIL からのお知らせ

LIXILスーパーウォールは、高性能スーパーウォールパネルと高断熱サッシ、計画換気システムが生み出す、高気密・高断熱・高耐震構造の住宅工法です。「健康」「快適」「安心」「安全」を追求し、暮らしの質を最高水準にまで高め、理想的な住環境を実現します。

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カタログコード【SZ6100】

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公開日:2021年07月21日